通称『惑星6824』 エルフの星より 2/3


「──ック、エリック。ちょっと!聞いてるの?!」


 広大な宇宙を旅する銀色の方舟の窓の傍。

 果てしない深淵を見つめるのは金髪碧眼の美少年、宇宙船の新人パイロットであるエリック。


 ぼうと外を見つめる彼に通りすがりに声をかけてきたのは、宇宙船の船医であるユーリだ。彼女は初めて宇宙を航海をするエリックを度々気にかけていた。

「うん。大丈夫だよユーリ」

「また外を見ていたの?よく飽きないわねー」

 飽きれた様子でカルテをめくり、恐らくはエリックのバイタルチェックの結果だろうページを見て、赤いペンで丸をつける。こうして毎日欠かさず彼女は船員たちの様子を直接診察して歩く。


 科学が発展し、AIがほぼ全てを担う母星では既に用いられなくなった行為だが、この宇宙船内で彼女を咎める者は1人も居ない。それが、彼女がこの船に乗っている理由だ。

「飽きないよ。それに僕、この美しい光景をなるべく目に焼き付けておきたいんだ」

「ふーん…あ。もしかして故郷のあの子に話すため?ね。そうでしょ!」

 ユーリがいたずらっぽく笑いながら肘でエリックを小突く。


 苦笑しながらも長い睫毛を伏せ、エリックは脳裏に母星を思い描く。星の全てを食いつぶした灰色の母星は、外へと資源を求めて宇宙船を飛ばした。

 あちこちの探査機から情報を得ては、見知らぬ星へと降り立ち資源を集めて母星へ帰る。宇宙船のパイロットはその危険性に見合った多額の給与が母星の家族へと支払われる。

 1000年ほど前の『事故』で未知の感染症が広がってからは、パイロットは滅多に母星に帰ることができなくなった。それでもパイロットを志す者が多いのは、あの灰色の母星に夢も希望も無いからでもある。人工物に星の全てが覆われ、未知の場所など地の底にも、枯れた海の中にも一欠片さえ残ってはいない。


「幼なじみの子と、結婚しておけば良かったのに。

 今ならまだ通信もなんとか届くから、婚姻できるし」

「ううん。僕、他に好きな人がいるから」

 窓に手を当て、エリックは自分の像とその奥の星を見つめる。

「明日から惑星6824の調査なんだからほどほどにしなさいね」

 後ろでユーリが肩をすくめて呆れてどこかへ行ってしまったが、そんな事はちっとも気にならなかった。


「(マキラ、今度はどこにいっちゃったのかな)」

 エリックは今までに何度も転生を繰り返していた。

 人として産まれ、生きて、死ぬ。

 過去の記憶を持ったまま起こる『それ』は、彼にとっては息をするのと同じように通常の事であった。

 産まれた先に世界規模の事件があって、いつも自分の力が必要で、救わなければならない誰かが居て、何度だってありとあらゆる世界を救った。

 多くは誰にも知られず、残ってもエリックではなく別の誰かの名前と姿が残る。エリックはそれで良かった。誰かの役に立ちたいと常々エリックは考えていたから。

 胸を張ってエリックは今までの人生は素晴らしい物だったと語れる。数々の出会いや冒険、時には穏やかな生活。温かな人の心。その為ならどんなに辛い争いだって耐えられた。


 そんな中、エリックは恋人マキラと親友ラルフを得た。

 救わなければ、戦わなければならない状況はきっとその世界にもあっただろうに、エリックは世界よりも2人を選んだ。

 ラルフは何度転生しても殺し合わなければならない立場に置かれる。

 エリックが東軍に居ればラルフは西軍に

 エリックが勇者ならラルフは魔王に

 エリックが革命家ならラルフは圧政者に

 数々の戦いの中で、ラルフはいつだって戦わない道を模索していた。エリックも支援することがあったが、いつも上手くいかない。


「でも、君は諦めない。そうだろ?ラルフ」

 ラルフもまた3人で会えることを望み、エリックもそれを強く望んできた。

 救わなければならない世界がある。

 助けを求める誰かがいる。


「僕は全部諦めない。全部拾って、また3人で笑うんだ」

 ラルフとは何度も殺し合い、憎まれることもあった。

 それでもエリックに恨みは無い。お互いに望んだ事じゃない。ただ、少しだけ立ち位置が違ってしまったたけだ。


「僕らは最高のエンディングを迎えるんだ」

 あの広場で笑い合った大切な日々。

 そしていつかは、

「君と一緒に、世界を救いたいな」



 ◆◆◆◆◆




「─────美しい。」

 船長はモニター越しのその星を見て呟いた。

 それは、その場にいる船員全員の総意でもある。

 星のほぼ全てが草木に覆われ、特徴的なのは宇宙まで届くあまりに巨大な大樹。

 灰の星しか知らない彼らと違い、森林を見慣れているエリックでさえその光景には息を飲んだ。


 そこは惑星6824。

 緑を失った人類の彼らには、神でも見たかのような感動がそこにある。

 大樹の葉から溢れる光は淡く星のほぼ全体を包み、幹の一面からは透明な水が滝のように流れている。

 自然の生きる活力に富んだ惑星には、母星には無い潤いがあった。

「探査機はどの程度で戻る?」

「………あ、ああ、10日ほどで」

 船長の問いにモニターに目を奪われながらもユーリに小突かれたエンジニアのグレイが答える。

 船員の各々が目を見開き、その光景を少しでも脳に焼き付けようとした。探索機が戻るまでの10日間、彼らはいつかのエリックと同じように、じっと窓から外を眺めていた。


 ◆◆◆◆◆


「引く訳には、いかんだろう」

「ですが船長、あの星には知的生物が」


 休眠時間となり、薄暗くなった船内の一室で船長とユーリは探索機からの報告書を見ていた。

 空からの映像や空気の診断結果から、宇宙服無しでも人間が活動可能だという事実や、野生生物の存在。そして、かのエルフたちの存在が報告された。


 周辺の星を食い荒らし生存してきた彼らにも、理性はある。船長たちは知的生物が存在する星からの資源は、交渉を前提とするように厳命されている。

 しかし、宇宙を跨ぐと言語が通じることはほぼ無い。それに、向こうが早々に敵意を表すこともある。不可抗力であっても殺人・強盗行為による心理的負荷をユーリはよく学んでいた。


「分かっている。だが、あれを目前に引いたとなれば今後の船員の士気にも関わる。あの星はあまりに魅力的すぎる」

 積荷を帰還可能なギリギリまで捨て、残りを全てあの星からの収集物にしても良いほどの価値があの星にはある。そう船長は確信していた。

 視線の先、壁に取り付けられたモニターにはただ一心にあの星を見つめる船員たち。普段の訓練も娯楽や食事、睡眠さえ忘れて外を見つめている。

 今すぐに全員を医務室へと放り込むのが自分の役目だと理解しながら、ユーリはその選択肢を取れないでいた。

「(私も、船長もみんなもあの星に魅入られている)」

 あの星からは全てを受け入れてくれるような本能的な暖かさを感じてしまう。

 絶対に、あの星へと降りてはならない。

 機械よる診断でいくら安全が証明されても、船を降ろすかどうかの判断は人間へと委ねられる。

 船長には未知の生物や環境への直観的な──一種の生存本能とも呼べる力を重視された。その船長が降りると言うなら、少なくとも死の危険は無いのだろう。


 翌日。彼らは惑星6824へと降り立った。



 ◆◆◆◆◆


 ◆◆◆◆



「狩り尽くせ」


 船長のそんな一言で、船員たちの様相は一変した。

 惑星の大樹から最も遠い星の反対側に着陸して30分後のことだ。大樹の光の届かない着陸ポイントは岩がむき出しになっていたが、森を傷つけずに着陸が可能な唯一の場所だ。


 宝石などに価値の無くなった灰色の星では、草木は何よりも価値の高い資源だ。目の前に広がるとても抱えきれないほどの富と、その蠱惑的な美しさに船長を含めた船員たちは狂った。

 初めは着陸ポイントから半径100メートルほどの草木及び種子を数個集めるだけのはずが、1人が森の木から葉を取ったのを皮切りに、段々と彼らの行動は大胆になっていった。


 なら地面から草を抜いてもいいだろう。

 なら木から少し皮を剥いでもいいだろう、枝を少し切ってしまえ。

「いや、木ごと持ち帰ればいいんじゃないか?」

 グレイがチェーンソーを片手にそんな事を言った。

 ユーリは船長を横目で見るが、船長はただ黙って彼らの様子を見ている。自分も参加したいと言わんばかりにせわしなく指を動かしながら。


「ユーリ。これでいいかな?」

 そんな中1人変わらない様子のエリックは、試験管に入った花粉をユーリへと見せる。黄色に光る花粉は、星の煌めきを思わせるほどにキラキラと光が散って美しい。

「花弁も取ってきてちょうだい。」

「うん。了解」

 ユーリはいつに無く素っ気ない態度だが、気にした様子も無くエリックは作業へと戻って行く。


 確かに美しい緑の星だとは思うが、いくつかの人生の中で言えば『とても綺麗な景色』でしか無い。

 そこにあの2人が居ない以上は、エリックにとって特別な場所にはなり得なかった。


 向こうでは大きな木が切り倒され、派手な音と共に倒れ、自動回収用のロボット数体が木を船内へと運び込んだ。

 船員の1人が小型の偵察機やいくつかの荷物を宇宙船から降ろしているのは、少しでも多くの植物を持ち帰るためだ。あれらはこの星にそのまま投棄される。


 ◆◆◆◆◆


 作業開始から3時間ほど経った。

 休憩も忘れて回収を進める船員たちの額には汗だくで、 顔には疲労が滲んでいる。時折、エリックがそれとなく話しかけた際に水分補給はしているが、それ以外に手を止めることは無い。気づけばユーリと船長も回収作業に加わっていた。

 最初は野生らしき動物たちも付近に居たが、音に驚いたのかみんな逃げ出してしまった。



「縺?繧後〒縺吶°?」



 歌うような透き通った声に船員たちは一斉に顔を上げた。

 白い肌に美しい髪。尖った耳を除けば人間と変わらない顔立ち。来ている服はやや原始的だが、それに違和感は感じない。船長とユーリには似た生物に見覚えがあった。偵察機の写真にあった、この星の知的生物だ。

「蜻ス縺ョ螟ァ讓ケ縺悟ォ後′縺」縺ヲ繧九°繧峨?√d繧√※縺サ縺励>縺ョ」

 どこか困ったように眉を下げながら、白い髪の知的生物は船員たちへと語りかける。言語が違うためになにを言っているかは分からないが、回収行為を止めて欲しいと言っているように見えた。

「邪魔をするつもりか」

 ドスの効いた、脅すような声で船長がその生物を睨みつける。知的生物は怯えた様に少し後ずさったが、すぐにまた知らない言葉で話す。

「譽ョ繧貞す縺、縺代k縺ョ縺ッ繧?a縺ヲ」

「騒がれても面倒だ。捕らえるか」

 何人かの船員が知的生物へとにじり寄った。

 ただならぬ雰囲気に知的生物は怯えたような表情を見せている。

「待って船長」

「なんだ、エリック」

 知的生物と船員の間にエリックが立った。その真っ直ぐな目に、どこか狂気を孕んでいた彼らの目が正気を取り戻し、ユーリが慌てた顔でエリックの傍へ駆け寄った。


「船長!先住民の彼らに私たち危害を加えるのは禁止されています」

「僕も同じ意見だよ。ちょっと僕らがここを荒らし過ぎたから、心配になって出てきただけだよ。ね?」

 エリックは知的生物に優しく笑いかける。言葉は通じないだろうが、気持ちは届いたのか知的生物は少しだけ安心したような顔になる。

 船長は踏み荒らされた森や、ついさっき刃を通した切り株。自ら壊した森を見て小さくため息をついた。

「確かに、そうだな。これ以上採集しても積みきれん。

 総員撤収するぞ!!」



 ◆◆◆◆◆


 最初に異変が起こったのはユーリだ。


「痛っ…」

「大丈夫かドクター」

 突如足に走った激痛に顔をしかめて座り込む。刺すような痛みだが、履いている靴は野外活動用の安全靴で、仕込まれた特殊合金は簡単に貫けるものでは無い。

 心配してやってきたグレイと共に未だに熱を持って痛む足を見れば、靴は血で赤く染まっていた。


「なにこれ」

「おい!なんだよこれは!」

 銃弾すら通さないはずの靴に刺さっていたのは木の根だ。地面から伸びたそれは、ユーリの靴を突き破って足に刺さって血を流していた。

「ぁ、あ゛ぁぁあ゛」

 ユーリが悲鳴をあげる。木の根がもぞもぞと動き出したのだ。グレイが慌てて周囲に居る船員たちを呼ぶが、数人が既に同じように地面へと蹲っている。

「こ、れ、これ!!はいって、はいって、ぬいて!!ぬいてぇえええええ!!!」

 彼らが呆然としている間にユーリが悶えて泣き叫ぶ。


 どんどん木の根がめり込み、ユーリの足を進もうとしていた。

「ッ!ユーリ!これを噛め!」

 適当なガーゼをユーリに噛ませ、グレイはユーリの足に刺さる木の根を掴む。脂汗をかくユーリと目を合わせて頷き合い、スリーカウントの後、一息に木の根を引き抜いた。


「───────っ!!!!!」

 血飛沫を上げながら木の根が抜ける。痛みでユーリの目が白目を剥き、気絶したのかそのまま地面へと倒れた。

 引き抜いた根からはみるみるうちに血が乾いていく。木の根が血を吸ったことにグレイは気づき、青ざめた。


「縺ゥ縺?@縺ヲ諡堤オカ縺吶k縺ョ?」

 白い髪の知的生物が、不思議そうにこちらを見ている。この異様な植物の存在を恐れる様子が無い。

 そこで気づいたが、その知的生物の足には根が張っていた。片方の足を貫き深々と刺さる根は、皮膚の下を上へ上へと這っている。服の下へと入っているため見えないが、彼女らにとっては当たり前のものであるのが容易に分かる。

 グレイの方へと歩み寄ってくるしぐさにも、木の根への関心は感じられない。


「グレイ!そいつを抱えてこっちへ来い!」

 船長の怒声でグレイは正気に戻る。船員たちも引き抜いたり、ナイフで引きちぎったりして脱出を測っていた。

 言われるがままユーリを抱え、立とうとしたグレイだったが、ズブリと刺さる痛みに体が固まる。

「ぁ゛」

 グレイの足にも根が刺さっていた。

 もがいても痛むばかりで抜ける様子はない。ユーリを一度降ろそうにも、地面では細い木の根が小さく再びユーリに刺さろうと揺れていた。


「諤悶¥縺ェ縺?o」

「グレイ!早くしろ!!」

 知的生物が微笑みながらこちらへと向かってきている。

 船長は焦ったように怒鳴っている。横目で見ると宇宙船にも木の根が絡み始めていた。

「(行かなければ、だがユーリが、でも船が無ければ帰れなくなる、しかしユーリをここに置いていくわけには)」

 無警戒に緊急用のスタンガンを置いてきたことをグレイは後悔した。普段なら、船を降りる前に二重にも三重にも装備のチェックをしていたというのに。


 知的生物が迫る。侵食する木の根に足が痛みで震え出した。気絶したままのユーリの足から流れる血も早く処置しなければならない。


「グレイ!ごめん!」

 一際大きい声でエリックが叫ぶ。いつの間にかグレイの背後まで来ていたエリックは、グレイの足に入り込む木の根を掴み、一気に引き抜いた。

「ぎゃあ!!」

 気絶しそうな痛みだったが、自分が抱えたユーリの存在を思い、なんとか耐える。目の端で揺れていた金髪はすぐに知的生物とグレイの間に割って入った。

「グレイ。すぐに戻ってユーリの手当てを

 ここは僕が引き受けるから」

「ッ…た、頼んだ!」

 宇宙探索隊としてそれなりに経験を積んできたグレイたちだったが、この状況下で冷静なのはエリックだけだった。

 なぜなら、こんな目にあいながらも未だに彼らの心はこの惑星を求めていたのだ。


 ◆◆◆◆◆



 船長は迷っていた。

 この木は人の体内へと潜り、おそらくは寄生しようとしている植物。同種と思われる木が現在、宇宙船の貨物室に溢れんばかりに積み込まれている。

 貨物室の温度を一気に下げ、コールドスリープ状態にしているが、これを母星へと持ち帰って増やせたとして、今と同じことは起きないのだろうか。

 もし木の根が人へと寄生する危険な物であれば、船員含め路頭に迷うどころか、最悪母星の敵として投獄されかねない。船長は見せしめに死刑にされるだろう。

 だが、多くの積荷を捨てた以上は母星に帰るしかない。荷台が空となれば、次回の航海のための燃料などは支給されないだろう。自腹では収入も無しにとても払える金額ではない。つまりは実質的なクビ宣告だ。


 操舵室のモニターに宇宙船に巻き付く木の根が映っている。エラーを吐き続ける警報システムを見るに、あの根が船内へと入り込み、センサーがいくつかイカれてしまった様だ。

 AIの治療システムからの報告は全て無視する。どうせあの根での怪我の報告だろう。

「(とにかく、この星から脱出が優先だ。燃料タンクに穴でも空けば終わりだ)」

 火炎放射式の自動ロボットに宇宙船に絡む木の根の焼却を命令し、船内放送で10分後の出発を船員へと命じる。

「(緊急発進はエンジンに負荷がかかるがこの程度は問題あるまい。)」



 ◆◆◆◆◆



『出発まで残り 9分 です』


 無機質な自動音声が流れる中、エリックは白い髪の知的生物と対峙したままでいた。

 変わらず敵意は無いものの、彼女は怪我をした船員がいると駆け寄ろうとする。船員の混乱ぶりを考えるに、彼女が不用意に近づけば彼女も船員も危険だろう。

「ごめんね。意地悪してるつもりはないんだ」

 困ったように知的生物の耳が落ち着きなく動く。


 後ろでは自動ロボットたちが出動を始めた。船の木の根の排除を始めるらしい。

「繧?a縺ヲ!!!!」

 知的生物が悲鳴をあげて走り出す。

「っダメだ!」

 一瞬油断したエリックの横を抜け、知的生物は宇宙船へと走ってしまった。火にも怯えず自動ロボットに抱きつき、何とか木の根から引き剥がそうともがく。

 次々とアラームが鳴り、自動ロボットが知的生物へとあらゆる言語で警告を発した。

「やめるんだ!怪我するよっ」

 知的生物を引き剥がそうと羽交い締めにするが、尚も燃やされる木の根を見て知的生物は涙を流して暴れる。


「繧?a繧搾シ!」

「縺昴?謇九r髮「縺!」


 背後から聞こえた声に振り返れば他の知的生物が集まっていた。彼らも白い髪の知的生物と同じように自動ロボットへと手を伸ばそうとしている。

「っ…ごめん!」

 羽交い締めにしたままの白い髪の知的生物にそう言い、エリックは向かってくる他の知的生物になるべくゆっくりと白い髪の知的生物を放った。


 驚きながらも彼女は受け止められ、エリックは再び細身の剣を手に取り、向かってくる彼らに向けて地面を横一線に切りつけた。

「ここを越えるなら、切るよ。君たちの場所を荒らしたのはこちらの責だけど…仲間は守らせてもらう」

 考えるに、言葉は違えど彼らにこちらのある程度の意思は伝わっているとは思う。

 知的生物たちは足を止め、困ったようにエリックと宇宙船。それから木の根を焼く自動ロボットを見つめる。


「縺ゥ縺?@縺ヲ縺薙s縺ェ縺薙→繧偵☆繧九?」

 白い髪の知的生物が泣きながら話す。木の根は彼らを守るようにエリックと知的生物の間に網を貼るが、宇宙船への侵攻をやめるつもりはないらしい。

「蜻ス縺ョ讓ケ縺ッ縺溘□蟷ク縺帙↓縺励◆縺?□縺代↑縺ョ」

 彼女がゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

 あと3歩で線を越える。

「縺ソ繧薙↑縺ァ莉イ濶ッ縺上@縺セ縺励g縺?」

 あと2歩


 1歩


 ────越えた。


 エリックは下から上へと一気に剣を振り上げる。こちらへ手を伸ばしていた白い髪の知的生物の腕が宙を舞い森の方へと飛んで行った。


「……?」


 彼女も、後ろの彼らも、なにが起こったか分からないのか、呆然とそれを見ている。

 切れた断面に肉は無く、代わりに木の年輪のようなものがあるだけだ。知的生物、では無くもしかしたら木でできた人形だったのかもしれない。

 更に上に振り上げた剣で肩からばっさりと袈裟斬りにする。血は無く、よろけながら知的生物は線の反対側へと戻った。


 痛みは無いのか、切れた腕と体を彼女はぼうっと見ている。倒れそうな彼女を受け止めはしたが、他の知的生物も怪我をただ眺めているだけだ。

 それに過剰に反応したのは、ただの1人だけだった。


「エリッーーーーーーーク!!!!」


 聞きなれた怒鳴り声。

 光を吸い込む黒い髪にエリックは、その知的生物の名前を呼んだ。



「ラルフ」




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