第39話 ペガサスの素材を集める
研究室に戻ると、話し合いも佳境に入っている雰囲気だった。今回は移植メインということで、移植班の方から話を聞くと、翼と背中の血管を繋げるところまでは可能らしい。
しかし、神経を繋げることが非常に難しいようだ。そこで、翼を動かす神経だけ作れないかという話になっていた。
「それでしたら私の方でなんとかなると思います」
霊線への情報の追加で神経だけを作って、翼の神経と繋げればいいのね。やったことないけど、何とかなりそうなきがする。
「できそうか! よし、何とか目処が立ちそうだぞ! それで素材は何にするんだ?」
そこでみんなにソルマさんとの話を伝えた。依頼者がソルマさんの娘さんだというところで、みんなずっこけていました。
「そうか、漆黒のペガサスか。しかも魔物同士の合成とは。これが成功したら前回のスネーキに続く、歴史的快挙だぞ! みんな絶対成功させるぞ!」
「「「おー!!」」」
ヘンリーさんの発声で、みんなが成功に向けてえ気合いを入れた後、研究部門のみなさんには合成部門と協力して移植のための準備を進めてもらい、私はナイトメアとエンシェントガルーダを捕まえに行くことにした。まずはナイトメアの方かな。よし、ステイシーさんとクロも誘ってあげよう。きっと喜ぶぞ!
「クロ、今度は上級と最上級の霊獣の捕獲だよ。もちろん来るよね?」
すぐに特殊部門に行って、クロを借り受ける。
「我、もちろん一緒ニ行きたいのだガ……」
おや、なぜかあまり嬉しそうじゃないな。どうしたんだろう?
「役に立てルかどうカ……」
そっか、前回、ゴールデンライオネルの動きに反応できなかったから、落ち込んでるんだね。よし、ここはいっちょパワーアップさせてあげよう!
「クロ、君は昨日、ゴールデンライオネルを食べて霊力の上限がアップしてるから、もう一回合成に耐えれるようになってるはずだ。だから、ゴールデンライオネルの筋力を上書きするから、ちゃんと霊力を押さえ込んで自分のものにするんだぞ!」
その言葉にクロは目を輝かせて――
「我、頑張ル。ご主人様のためニ、強くなル!」
すぐに、クロを眠らせてゴールデンライオネルの筋力を上書きし、霊力を注いでいく。
(さすが最上級の霊獣の力。必要な霊力が半端ない)
そして、クロの身体が光り輝き――
「何か、綺麗な色になった!」
黒い毛に金色の粉をかけたようなキラキラ光る毛色になって、霊力も倍以上増えている。最上級まではいかないけど、上級の上位クラスの実力がありそうだ。あとはクロがこの力をきちんとコントロールしているかだけど……
眠り状態を解いてクロを起こす。
「うゥ。おォ、力が、力がみなぎル。ご主人様、ありがとうございまス」
ほっ。よかった。どうやらきちんとゴールデンライオネルの力をコントロールできたようだ。
よし、じゃあ、もうお昼を回ってるし、ステイシーさんを迎えに行こう!
「というわけなのですが、ナイトメアの捕獲に行きますか?」
学校から帰ってきたステイシーさんに、状況を説明すると――
「行く―!! もちろん行くーー! 絶対行くーー!!」
ステイシーさんは全然落ち込んでないね! そういう前向きなところって好きだな。……いや、そういう好きじゃなくて。ねぇ、わかるよね?
「あれ、クロの雰囲気がなんか違う? キラキラしてるし、霊力もアップしてる?」
お、ステイシーさんも相手の霊力の大きさを感じることができるようになってきてますね。
「はい、昨日倒したゴールデンライオネルの筋力を合成しましたので」
「いいな。そんな簡単に強くなれるなんて……」
簡単ではないけど、事情を知らなければそう見えるよね。
「我、強くなるのニ限界あリ。それがないステイシー、うらやましイ」
うん、クロ。ナイスフォロー。
「あ、ごめんねクロ。そうだったんだね」
ちょっとしんみりしちゃったね。
「しんみりしているところ申し訳ないですが、サンドラ草原まで飛んで行きますよ!」
「ぎゃー! それがあった、いやじゃー!!」
「オーム ブゥ ブヴァ スァファ!」
ステイシーさん、いやじゃーはないでしょう。クロ、それいったい何語?
「大丈夫ですよ。私もあれから考えまして。馬車の客車の部分を借りてきました。それに乗って空を飛んで行きたいと思います!」
「きた! ナイスアイディア! それ最高!」
「さすがご主人さマ。我のためニ、感謝すル」
みんなで客車に乗り込んで、快適な空の旅へGO!
それはもう客車の旅は最高でした。同乗者様にもご好評をいただきまして。何て言ってる場合じゃなくて、サンドラ草原に着きました。
ここは生息する霊獣も下級から上級と比較的ランクの低い霊獣ばかりなので、駆け出しの冒険者の格好の狩り場となっている。現に草原の入り口にも何組かの若いパーティーがいて、装備を点検しては草原へと入っていく。正直、今、この草原で一番強い霊獣はクロだろうね。
草原の入り口で準備をしてるパーティーを見ると、知っている顔を見つけた。
「あっ! ミラさん! お久しぶりです!」
そう冒険者登録下級試験で一緒だった、めっちゃ声の綺麗なエルフのミラさんでした。
「チェリーさんにステイシーさんお久しぶりです。それとそちらの……ウルフィ?」
「ミラさん、おひさ!」
ステイシーさんが挨拶を返したところまではミラさんは笑顔でしたが……
「元はウルフィで間違いないがガ、今は我が主から賜った名前があル。クロと呼んでもらおウ」
はい、固まりました。クロがしゃべると初体験の人は大抵固まります。
「そ、そっか。チェリーさんは
おおう、ミラさん意外と立ち直りが早いな。それに頭の回転も速い。
「はい、その通りです」
そんな会話をしていると――
「ミラ、そろそろ中に入るぞ!」
ミラさんのパーティーのリーダーらしき人が、ミラさんの名前を呼んだ。
「すいません。お引き留めしちゃって。お互いに無理せず頑張りましょう!」
何だか年寄りっぽい物言いになってしまいました。ミラさんも同じように感じなのか、ちょっと微笑みながら『お気をつけて』と言って、草原に入っていった。
「それじゃあ、私達も行きますか。ここは上級以下の霊獣しかいないはずなので、道中の霊獣は二人に任せましたよ!」
そして私達も草原へと入っていく。
「うーん、ここつまんないね」
ステイシーさんがそう呟いているけど、それもそのはず。今のところ出会った霊獣の全てが、クロを見た瞬間逃げ出してしまって、まだ一回も戦闘を行っていないのです。
「我、パワーアップの意味なシ」
そのパワーアップが原因なんだけどね。
「もう少ししたら上級の霊獣も出てきますから」
私の霊力探知にぼちぼち上級の霊獣がかかり始めているので、それを伝えておく。
「だといいんだけど」
ステイシーさんは強敵と戦いたくて仕方ないんだね。……お、この反応は?
「お待たせしました。ナイトメアの群れを見つけました」
「待ってました!」
「我、アピールのチャンす!」
ナイトメアの霊力を感じたので追いかける。その数……20頭。結構多いけど、二人で大丈夫かな?
「結構、多いわね」
こんなに多いとは思っていなかったステイシーさんが、その数を見てちょっと躊躇している。
「問題なシ。二人なら大丈ブ」
クロはちゃんとステイシーさんの実力を見抜いているようだ。
「よし、いざとなったらチェリーもいるし、クロちゃんいっちょ張り切って行きますか!」
「応!」
そんな会話を残して、一人と一匹が矢のようにナイトメアの群れに向かって飛び出していく。
(今回の目的が捕獲ってわかってるよね?)
ちょっと心配になるくらいの勢いだった。
ザシュ!
クロが一番近くにいたナイトメアに不意打ちを仕掛ける。自分より上位のクロの不意打ちを躱せるはずもなく、首筋に大きな傷を負ったナイトメア。そこに間髪入れずに剣を振るうステイシーさん。
ナイトメアの首が落ち……
(捕獲です。今回の目的は捕獲です!)
やっぱり二人は今回の目的を忘れたいた。
(二人に狩り尽くされる前に、二頭ほど確保しておこうっと)
群れの一頭が倒され、戦闘態勢に入ったナイトメアの群れ。しかし、戦闘態勢に入るのが遅れた二頭が再び、クロとステイシーさんのコンビの前に首を落とされる。
すでに私が二頭確保しているのでナイトメアは残り十五頭になってしまった。
ここからは不意打ちが効かないので、クロとステイシーさんは足を止めて複数のナイトメアを同時に相手している。
さすがに格下相手にクロは余裕を見せいていた。三頭一遍に相手をしていても、優位を保ったまま戦っている。
ステイシーさんはちょっと苦しそうだ。一対一ならいい勝負になりそうだけど、二頭相手に苦戦している。
(何もない草原だと、ナイトメアの方が有利みたいね。それじゃあ……)
「ステイシーさん、クロ、地形を変えます!」
私は"
「助かるわ!」
ステイシーさんは柱の一本を背にし、前面の敵にだけ集中する。これでかなり戦いやすくなったみだいだ。
クロは、ギリギリまでナイトメアの攻撃を引きつけて、一撃必殺を狙っているようだ。かすり傷くらいは気にせず、より深い傷を相手に与えている。それに、よくよく見てみるとゴールデンライオネルの光属性の効果なのか、クロはかすり傷程度ならすぐに回復してしまっているみたいだ。
逆にステイシーさんはナイトメアの体当たりや蹄の攻撃を華麗に躱し、カウンターで的確に傷をつけていく。決して、一撃で倒そうとせずに無理のない体勢での攻撃を意識しているようだ。ナイトメアは体当たりを躱されると、後ろの柱にぶつかってしまうから蹄の攻撃ばかりになっている。それで、余計に戦いやすくなっているのだ。
全てのナイトメアを倒すのに一時間ほどかかったが、大きな怪我もなく無事倒し終えた。
「あっ! 捕獲するの忘れてた!」
ステイシーさんが今更ながらに気がついたようだ。
「我、失念。申し訳なイ」
クロもしっかり忘れていたね。
「大丈夫です。開始早々、二頭確保しておきましたので」
「さすがチェリー! 仕事が早いね!」
「我が主、抜かりなシ」
さて、今日はここまでにしてこの二頭を研究所に連れて行こうか。
何て思っていると、私の探知が一つのパーティーが霊獣に囲まれている様子を感じ取った。おそらく、これはミラさんのパーティーだろう。
「ステイシーさん、クロ、どうもピンチっぽいパーティーがあるから様子を見に行きます」
「承知しタ」
「何? 人助け!? 早く、行きましょ!」
間に合わないと大変なので、二人と一匹でミラさんのパーティーの元に急ぐ。
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