第40話 ミラさんを助ける

~side ミラ~


チェリー達と一緒に冒険者登録試験を受けた私は、あの後すぐに試験の様子を見ていたパーティーに誘われ、メンバーの一員となった。


そのパーティーは下級クラスの集まりで、これからクエストをたくさんこなし、ランクを上げていこうというやる気に満ちたメンバーが集まっていた。


私が冒険者になった理由は、"行方不明になった兄を探す"ためだった。そう考えると、もっと活動範囲が広いベテランのパーティーに混ぜてもうつもりだったが、リーダーが熱心に誘ってくれたのと、できたてのパーティーで実績を重ねる方が時間はかかるが、ある程度パーティーの行動に影響力を持てるのではないかと考え直し、このパーティーに入ることにした。


私が入ったパーティーは、リーダーが剣士&"火協力者ファイアーパートナー"で、他に弓使いと槍使い、そしてレイピア&"風協力者ウインドパートナー"の私の合わせて四人で構成されている。

 本当は治癒担当の"光協力者ライトパートナー"がほしいところだが、光使いは数が少なくめったにいないので、まずはこの四人でクエストを攻略していくことになった。


 最初は、町周辺で動物や初級の霊獣を狩っていたが、個人としてもパーティーとしても戦闘に慣れてきたので、そろそろ下級の霊獣でも倒しに行きたいという話になる。それならばと、下級クラスに人気の狩り場である、サンドラ草原に行ってみることになったのだ。


 サンドラ草原の入り口では、チェリー君とステイシーさんに出会った。なぜか変わった色の霊獣を連れており、調教師テイマーにでもなったのかと思ったけど、彼が合成獣キメラ研究所の職員だったことを思い出し、合成獣キメラなのかを聞いたらそうだって言ってた。

 あれ? 合成獣キメラってそんなに簡単に創れるんだったかな?


 それから私達は、草原の入り口周辺でジャイアントボアやウォーホーシュなどの下級の霊獣を狩り始めた。このパーティーの実力はまあまあで、おそらく一番強いのは私で、次がリーダ-。弓使いと槍使いはまだちょっと心許ないけど、下級クラスの力はちゃんと備わっているように見えた。


「なあ、中級の霊獣でも一匹くらいなら倒せるんじゃないか?」


 このリーダーの言葉が悪夢の始まりだった。これまで苦戦という苦戦もせずに、下級の霊獣を楽に倒していたので、リーダーがそう言ったときにも、私も含めて誰もがその通りだと思ってしまったのだ。


 そこで少し奥に入り、単独行動している霊獣をみんなで探していると、弓使いが見つけたのが一頭のホワイトアラブ。

 あまりに都合よく見つかったのと、白い綺麗な姿に興奮状態だったので、通常、ホーシュ系の霊獣は群れで行動することを忘れてしまっていた。


まず弓使いが先制攻撃とばかりに、ホワイトアラブめがけて矢を放つ。しかし、今まで百発百中だった矢は不意打ちにも関わらず、あっさりと躱された。

 この時点で嫌な予感が駆け巡る。


『それでは俺の出番だ!』とばかりにホワイトアラブの前に立ちはだかったリーダーと槍使いだったが、今までとはスピードもパワーも桁違いの体当たりに槍使いが吹き飛ばされ、気を失ってしまった。


この時点でもう逃げるという選択肢は無くなってしまったので、私も参戦して何とか倒そうとするが、私達の攻撃も魔法も通用せず、すぐに私以外のメンバーは傷を負い戦えなくなってしまった。

 念のために持ってきた回復薬ポーションも底をつき、私が倒れれば私達の人生はここで終わってしまうというところまできてしまった。


 ホワイトアラブの攻撃を何とか躱し、反撃のチャンスを窺っていた私の目に、さらに絶望的な状況が映る。はぐれた一頭を探して、ホワイトアラブの群れが集まってきたのだ。その数、およそ五~六頭。一頭でさえ手に余るのに、それが群れとなると……


(もうだめだ。せっかく冒険者になって兄を探せると思ったのに……)


「すまない。こんなことになってしまって……」


 まだ意識が残っていたリーダーも、現れた群れを見て諦めてしまったようだ。


 そして目の前のホワイトアラブが後ろ足で立ち上がり、前足を私に振り下ろす。もう躱す気力もなくなった私は、それをただ見つめるだけだった……



 ~side チェリー~


「ミラさん発見! 相変わらず躱すのは上手だけど、あれじゃあ勝てないかな。攻撃が通用してないから」


 霊力を頼りに一直線で向かってきたから、何とか間に合ったようだ。だけどミラさんのパーティーメンバーと思われる三人がミラさんの後ろで倒れているのが見える。生きてるかな?


「私が行ってもいいかな? 人助けしてみたかったんだ」


 すこし遅れて来たステイシーさんが、遠慮がちに聞いてくるけど、向こうは結構それどころじゃない気が……


「すぐに行ってあげてください。クロは向こうから来るホワイトアラブの群れを頼んだよ」


「承知しタ」


 クロは私からの頼まれごとが嬉しいのだろう。言葉は格好つけてるけど、めっちゃ尻尾を振ってるからバレバレなんだよね。


 ステイシーさんが自分に強化魔法をかけて、勢いよくミラさんの元へかけていく。クロも負けじと黒い弾丸のように、一直線にホワイトアラブの群れに向かっていった。ホワイトアラブは中級クラスの霊獣だから、二人ともあっと言う間に倒しちゃいそうだな。その前に、実験用に一頭確保しておくかな。



~side ミラ~


 バシッ!


死を覚悟した私の目の前で、ホワイトアラブの蹄が背後から伸びてきた手に受け止められる。パッと振り向くとその腕の先にいたのは、さわやかな笑顔でこちらを見てるステイシーさんだった。


「やっほー、お邪魔だったかな?」


助かった? 私達、助かったかも!?


「いえ、お邪魔だなんて。たった今、死を覚悟していたところでした」


「あは、間に合ってよかったわ!」


(あれ、何でこんなに呑気に会話できてるの? ホワイトアラブは?)


私を殺さんとしていたホワイトアラブは、掴まれた手を振りほどこうと必死に暴れているが、蹄を握ったステイシーさんの手はピクリとも動かない。


「ちょっと、うるさいわね!」


 そう言い放ったステイシーさんが反対の手に持っていた剣を振るうと、ボトリとホワイトアラブの首が落ちた。


 あんなに私達が苦戦していたホワイトアラブを、一振りで倒してしまうなんて、一緒に下級試験を受けた人とは思えない強さだった。


「そうだ、まだ、ホワイトアラブの群れが……群れは?」


 先ほど、ホワイトアラブの群れがいたところには、あの変わった毛色のウルフィが一匹ちょこんと座っている。そして、倒れているホワイトアラブ達の真ん中にで、気持ちよさそうに耳の後ろをかいていた。


 さらにホワイトアラブが一頭空中をジタバタしながら飛んでいて、到着した先にいたチェリー君によって眠らされて、袋に入れられていた。


 この一瞬で状況が目まぐるしく変わりすぎて、理解が追いついていないがこの二人と一匹に命を助けられたことは間違いなさそうだ。


「あの、ステイシーさんありがとうございます。おかげで命拾いしました」


「お礼ならチェリーに言って。彼がミラさんがピンチかもしれないって言って、ここまで真っ直ぐ案内してくれたのだから」


 遠く離れたところにいる私のピンチがなぜチェリー君にわかったのかは謎だけど、そのおかげで私達は命拾いしたのね。この恩は絶対に忘れないでおこう。


「やあ、ミラさん、無事でしたか?」


 さっきまでかなり離れたところにいたはずのチェリー君が、いつの間にか目の前まで来ていて片手をあげながら私の無事を確かめてくれている。


「おかげさまで命拾いしました。本当にありがとう」


 驚く暇もなく声をかけられて、反射的にお礼を言った。


「いえいえ、実際にホワイトアラブを倒したのはステイシーさんとクロなので、僕は何もしてませんよ」


 この人、謙虚な人だな。おそらくこの中で誰よりも強いはずなのに、それをひけらかすこともしない。


「あの、命を助けていただいたばかりなのに図々しいお願いかもしれませんが、回復薬ポーションをお持ちじゃないでしょうか? 私のパーティーメンバーが怪我をしてしまって」


 もしかしたら、普通の回復薬ポーションじゃ、もう助けられないかもしれないけど藁にもすがる思いで聞いてみた。


回復薬ポーションは持っていませんね。ステイシーさんはありますか?」


「ごめん、私も持ってないわ。ここで怪我するとは思っていなかったから」


 やっぱりそう都合いいことばかりは起こらないか……と思ったのに――


「後ろの三人の怪我を治せばいいのですよね? "光支配ライトルール"起動!」


 はぁぁぁぁ!? まさかまさかの"光支配ライトルール"!? 光協力者ライトパートナーですら希少なのに、この少年は本当に何者なの!?


 優しい光に包まれた三人の怪我がみるみると治っていく。


「うぅ、あれ? ホワイトアラブは? ミラが倒してくれたのか!?」


 あの後すぐに気を失ってしまったリーダーが最初に目を覚ました。


「いえ、こちらにいるみなさんが倒してくれました」


「………」


「えっ? 君しかいないが?」


「えっ?」


 リーダーの言葉に振り向くともうそこには誰もいなかった。ずるい! みんなでちゃんとお礼を言いたかったのに。



 ~side チェリー~


「よかったの? 最後まで一緒にいてあげなくて」


 ミラさんのパーティーメンバーの傷を治してすぐに、逃げるようにその場を後にしたことに対して、ステイシーさんが尋ねてくる。


「傷も治してあげたし、周りに強そうな霊獣はいなかったから大丈夫でしょう。それにあの場に残ってたら、また時間がかかりそうだったので……早く帰ってナイトメアを届けたいから、あそこまでやれば十分でしょう」


「まあ、それもそうね」


 単に面倒くさそうだったから、逃げてきただけなんだけどね。納得してくれたからいいか。


「それじゃあ、帰りましょう!」


 そう言って、来た時と同じように借りてきた馬車の客車に乗って空の旅を楽しみながら研究所に戻った。

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