第37話 vs ゴールデンライオネル
ステイシーさんが強化魔法を使い、クロが咆哮する。
それに呼応するかのようにゴールデンライオネルも雄叫びを上げ、戦闘態勢に入った。
「危ない!」
どうやら私達は最上級の霊獣を少し甘く見ていたようだ。ゴールデンライオネルはステイシーさんが強化魔法を使っても、全く反応できない速度で彼女の喉元に迫ったのだ。すんでのところで私が間に入り、顔を押さえつけたからよかったものの、危なくステイシーさんを危険にさらすところだった。
「ステイシーさん、クロ、こいつは二人にはまだ早いみたいだ。下がっててください」
今の動きを見て二人も悟ったのだろう。悔しそうな顔をしながらも、大人しく指示に従ってくれた。
「グルルルル!」
自分よりはるかに小さな少年に頭を押さえつけられ、プライドを傷つけられたのか、うなり声を上げ頭を振り回して私の手から逃れる。
「流石は最上級。そのスピードもパワーも今までの霊獣とは違うね」
強化魔法を使っていないとはいえ、私の手から逃れるなんて、今まで出会った敵の中では間違いなく一番強い。
「ガァーーー!」
さらに雄叫びを上げたゴールデンライオネルの身体の輝きが増していき……
(これは珍しい、"
ゴールデンライオネルの身体から何本もの光線が私を貫こうと、文字通り光の速さで迫ってくる。
しかし、身体が輝きだした時点でその攻撃を読んでいた私は、"
「グゥゥゥ……」
自分の中の霊力を利用したゴールデンライオネルは、その力を使い切り急速に輝きを失っていく。
「ごめんね、ライオンちゃん!」
その声とともに、火と雷の強化魔法を自分にかけ、最上級の霊獣ですら反応を許さない速度で首を斬り捨てた。
音もなく崩れ落ちるゴールデンライオネル。
さあ、霊核を回収しましょうか!
霊核を回収し終えると、ステイシーさんが残念そうに言い放った。
「ゴールデンライオネルの動きにも反応できませんでしたし、最後のあなたの動き、全く見えなかったわ」
ステイシーさんはまだまだ強くなるだろうから、今見えなくても仕方がないと思うけどね。
「我も同ジ。このままでは我が主ノ役に立てなイ。もっと強くならねバ」
クロはゴールデンライオネルを食べて、さらに霊力の上限を上げる気だね。
私も戦闘中にゴールデンライオネルの解析は済んでいるので、今度、クロにその筋力を合成してあげよう。今のクロなら耐えられそうだし。
「ん?」
そんなことを考えていると、私が広げていた霊力にいままで感じたことのない霊力が引っかかった。
何だろう。あまりいい感じがしない。
「どうかしたの?」
ステイシーさんがそんな私の様子に気がついた。
その霊力はすぐに離れていってしまった。何だったんだろう? まあ、あまり気にしすぎても仕方がないから帰るとしましょう。
「いえ、なんでもありません。それより、二人とも強くなりたいとシリアスに覚悟を決めているところを申し訳ありませんが、霊核を回収し終えたので帰りますよ? 準備はいいですか?」
「えっ? まさか……いやーーーー! 空飛ぶのもういやーーー!」
「我、拒否すル。我の望ミ、走って帰ル」
そんな時間のかかることを許すわけがない!
「ダメーーー! それじゃあ行きますよ!」
問答無用で二人と一匹の重力を0にする。そして来た時と同じように――
今度は来た時と反対にくの字に折れ曲がり、土下座の姿勢で時速100kmで空を飛ぶお嬢様。どうすればそんな体勢に??
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
クロさんや。あなたはいったい何を目指しているのかな?
再び一時間かけて戻って来たときには、もう日は傾きかけていたので、ぐったりしている二人を強引に立たせ、クロには研究所に戻るように指示を出し、ステイシーさんと一緒にジルさんのところに向かう。
「ジルさんはいらっしゃいますか?」
入り口の前で声をかけると中から『入ってこい』という返事があったので、二人でお邪魔する。
「どうした少年。やっぱりミスリルの防具に決めたのか?」
「いえ、材料が集まりましたので防具を作っていただこうと思いまして」
「そうだろう、そうだろう、あの材料はそう簡単にはぁ~~~!? 材料がそろっとぅあ!?」
いや、ジルさん、驚きすぎて最後噛んでるし……
「わしがギルドに依頼を出して何ヶ月も待っている素材を、たった一日で集めたというのか? 下級冒険者二人で?」
「正確には二人と一匹ですわ。もっとも、最上級の霊獣を倒したのはチェリーひとりですが。私はまだ足下にもおよびませんでしたわ」
ステイシーさんは随分謙虚に報告するんだね。道中の霊獣を倒したのはステイシーさんとクロだし、ステイシーさんはまだまだこれから強くなると思うのに。
「最上級を一人で……。そりゃあ、もうお前さんが最上級クラスじゃねぇかよ……」
強さ的にはそうでも、昇級するにはクエストや試験があるからね。そう簡単にはいかないのよ。
「まずはこれが霊核になります」
先ほど取ってきたばかりのゴールデンライオネルの霊核をジルに手渡す。
「こ、これは確かに最上級クラスの霊核だな。素晴らしい。大きさも純度も文句なしだ」
よかった、これ一個で足りたようで。
「それと、オリハルコンはどのくらい必要でしょう?」
「そりゃ、作る物によるな。お前さんはどんな防具を作ってほしいんだ?」
「できれば戦うときはスピード重視でいきたいので、肩までのプレートメイルと短めの腰当、籠手、脛当てをお願いしたいです」
「そうさな、それだとお前さんの頭くらいの塊が三つあれば足りると思うが」
「わかりました」
そう言って私は袋に手を入れ取り出す振りをしながら、袋の中で"
そうやって創ったオリハルコンの塊を三つ、ジルに渡した。
「お、お、おぉ……」
なかなか感情豊かなドワーフさんだね。オリハルコンの塊を見て、涙を流してるよ。
「こ、これほど完璧なオリハルコンは初めて見る。不純物が一切見当たらない。しかも、霊力まで含んでいる。これを使って作った防具は、冗談ではなく属性付きの最高の防具になるぞ!」
"
「あの、どのくらいの期間でできあがりますか? それと代金はいくらになるでしょうか?」
「これほどの仕事にわしを選んでくれたことを感謝する。納得がいくものを作りたいから、三日間くれ。代金はいらない。これを作る名誉が報酬みたいなもんだ」
そう言われてもただってわけにもいかないだろうから……
「では、まだ余っているオリハルコンがあるのでそれでどうでしょう?」
そう言って、オリハルコンの塊を二つテーブルに置く。
「オ、オリハルコンがこうも簡単に。感謝する。ありがたく使わせていただこう……うぅ」
また泣き出してしまった……
「いいなぁ。私もほしいなぁ」
ステイシーさんがうらやましそうに呟いているけど、泣きじゃくっているジルさんの耳には届いていないようだ。私の防具に三日間かかるみたいだから、できあがったときにまた頼んでみるのもいいかもね。
「それでは三日後に取りに来ます。よろしくお願います」
「アゥア、任ぜでおげぇ」
もう泣きながらしゃべるから、言葉になってないですよ!
それにしても属性が付きそうなのは予想外で嬉しいな。三日後を楽しみにしておこうっと!
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