閉じずの間
開かずの間、という言葉を聞くと、あなたはどんな想像をしますか? ちょっとばかり古い和風の邸宅の一階、縁側に面した一室の襖が閉めきられていて、夏でも開け放たれることはなく、覗こうとすると爺さん婆さんに怒られる、私はそんなのを想像するのですが、この話はまさにそんな場所でのお話でした。
S君の母方の祖父母の家には、開かずの間ならぬ、「閉じずの間」があるとのことでした。縁側に面した襖がほんの少し開いていて、わざわざ下に木片を噛ませて閉じきらないようにしているのです。別にその隙間から中を覗き込んでも普通の畳敷きの和室があるだけでナニかが見えるということもなく、でも襖を閉じようとすると普段は温厚、ニコニコと笑みを絶やさない祖父母に烈火のごとく叱られるそうです。そして、その理由を聞くと、今度は一変して凍りついたような無表情になり、
「なもね。聞ぐな」
ぴしゃりと、言い切られ、それ以上は何も聞けなかったそうです。
母親に聞いてみると、
「子どもの頃は、あの部屋は客間だったの。使わないときは襖は閉まってたし、ああなったの母さんが結婚してからねぇ。結婚何年目だっけ、あんたが生まれる前だけど、年末に帰省したらああなってて、母さんも怒られたのよ」
母親も、そうなった理由を知りませんでした。
それから十年、祖父が亡くなり、一人暮らしになった祖母もさほど間を置かずに後を追うように亡くなり、無人となった家は解体することとなりました。
家を片付ける際にS君は、閉じずの間の襖を閉めてみてもいいかと両親に聞き、了解を得たので、噛んでいた木片を取り除き、襖を閉めました。そのまま数分、襖の前で待ち構えていましたが何も起こらず。母親に頼まれてS君は二階の片付けに向かいました。
祖父母ともに足腰があまり良くなく、二階にはほとんど上がらなくなっていたため、荷物も少なく、軽いものがほとんどで、S君はラッキーと思いながら掃除をしていました。すると、一階からドンガラガッシャンと凄い音が鳴り響き、S君が何事かと一階へ駆け降りると、閉じずの間の前で両親が立ち尽くしていました。
閉じた襖の向こう、室内ではドンドンバタバタガラガラガシャンと音が鳴り続いていました。
S君は意を決して襖を一気に開け放ちました。すると、部屋は何事もなかったかのように静まり返りました。室内の家具もあれだけの音がなっていたにも関わらず、ただ一つを除いて、何の異常もありませんでした。
ただひとつ、古い桐箪笥が、先程まで音を立てて暴れていたのは自分だと言わんばかりに、桐箪笥だと言われなければわからないくらいにボロボロのバラバラに砕け壊れていました。
結局あの桐箪笥が何だったのかなど、詳細なことは何もわからずじまいでしたが、とりあえず桐箪笥の残骸は残らずお寺に持っていってお祓い、お焚き上げをしてもらったそうです。
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