招かれざるもの

 学生時代に岩手出身の友人Sが小学生の頃の話だといって教えてくれたものです。

 彼の住んでいた所は古い家がいくつも残っている土地で、村の中心には元地主のお屋敷が残っていて、子孫の方が住んでいました。

 屋敷の御主人はよく村内の人を招待していて、ご婦人方のお茶会や子どもたちのクリスマス会など、イベントをよく主催していました。

 ある日、Sを含む子どもたちがすぐ近くのお寺の行事か何かに関連したイベントで招待されました。

 Sが屋敷に着いたのは最後でした。Sと、もう一人遅れてきた子どもがいました。

 お屋敷は、玄関を入って土間から板敷きに上がったところで両脇に衝立が置いてあり、その少し奥、中央にもう一枚の衝立がありました。玄関口から見ると一枚の壁のように、奥が見えないようになっています。家に上がるときは衝立の間を抜けて入っていくのです。

「○○さーん、□□家のSでーす! お邪魔していいですかー!?」

 いつも招待された時のように、Sは土間から呼び掛けました。ぱたぱたと、お屋敷の奥様がやって来て、

「まあ、Sちゃんいらっしゃい。あがって頂戴な、もう皆来ているわよ」

 いつもの優しい笑顔で迎え入れてくれました。

 Sは靴を脱ぎ、しっかりと揃えて、そこでもう一人の遅れてきた子どもがキョロキョロと困ったように辺りを見回していることに気付きました。

「ほら、行こ」

 Sが声をかけても、その子は困り果てたように立ち尽くしています。奥様がその子の様子に気付き、

「入れないのなら、お帰りなさい!!」

 そう厳しい声でいい放ちました。Sはビックリして奥様の顔を見ると、普段は柔和な顔が少し怒ったようになっていました。

 そしてその子のほうを見ると、その姿は影も形もありませんでした。

「さあ、Sちゃん、お入りなさいな。あの子は、お家を間違えて来ちゃったのよ。いきなり怒ってしまってごめんなさいね」


 この話をSがしてくれたのは、当時私とSが大学で民俗学の講義を受けていて、「影壁」についての話がでたからでした。悪しきモノだったり、霊にとってはあれが一枚の壁に見えて、通れなくなってしまうそうです。

「小さな村で、皆顔知ってるはずなんだけど、確かにあの子が誰か、わかんなかったんだよな」

 Sはそう言っていました。

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