第拾壱幕 初実践訓練其一
やっと、ここまで来ました。今回は、この物語のメイン、主人公アキラ先生による大人げない(まだ子供)鬼畜授業が始まります。やっとこの話を書けると、作者さんも喜んでいます。戦闘描写もあるので、少し長めです。
それでは、第拾壱幕HA・ZI・MA・RI☆
【武士】としての学校生活二日目。この日をみんなが楽しみにしており、今日のために訓練メニューを考えていたアキラも例外ではない。
「楽しそうだね、アキラ。」
「まあな、半分くらい強制だったとはいえ、人にものを教えることは嫌いじゃない。」
「やりすぎないでよ?」
ヒジリの脳裏に、アキラが同門の仲間たちに稽古をつけていた所を思い出す。
「やりすぎるなって、別に誰か死人を出してるわけじゃないだろ?」
「いやぁ‥‥‥そうじゃなくてね?確かに死人は出てないけどね、でも別のところが死んじゃってるというか、ね?」
「別?」
「あ、ああ‥‥‥と、わからないならもういいや。ただもう一回いうけど、やりすぎないでね?」
「?まあ、わかったよ。」
† † †
所変わって武士校の校庭。そこには、刀剣科の一組と二組計六〇名の生徒たちが整列しており、その生徒たちの前に二人の男女が立っていた。
そして、そのうち都市迷彩柄戦闘服を身に着けた女性が先に前へ出る。
「皆さん、おはようございます。二組の方たちには二度目になりますが改めて自己紹介させていただきます。【侍:第伍級】刀剣科一年二組副担任兼実技授業担当教員の
迷彩柄の戦闘服を身に着けた女性タマキが自己紹介を終え、次に控えていた整列した生徒たちと同じジャージの上に灰色のパーカーを着た男、アキラが前に出る。
「二組の人たちとは初めまして、刀剣科一年一組【武士:特別陸級】非常勤講師
「基本的に実技授業の内容は私たちに一任されているので、内容等の変更のご希望があれば
† † †
「はい、皆!それぞれの得意武器の訓練用武器を用意できてるね?それじゃあ、出席番号が下のほうから一人ずつ一分休憩を挟みながら三分間の組み手をしていきます。初めは
「‥‥‥はい。」
最初は出席番号三〇番少し暗そうな茶髪の少年、水上
「じゃあ、次の番の
「はい。」
次の番に控えている雷門
「両者準備はいいですか?」
「大丈夫です。」
「こっちも、いつでもいいよ。」
セラの確認の筆問に、問題なしと答える二人。
「それでは‥‥‥初め!」
「「よろしくお願いします。」」
セラによる組み手の開始を告げる声に、同時に始まりのあいさつをし動き出す二人。
最初に攻撃に出たのはハク、手を伸ばすようにしてアキラの左側頭部を狙った速度重視の突きを放つが、高い動体視力を持つアキラはそれを難なくよける。
「おっと!」
だが、その突きは速度重視の動きを誘導するためのもので、すぐに突き出した剣を下げ、右からの逆袈裟に切り上げる。が、アキラは開脚し、体を地面に貼り付けるようにして袈裟切りをよける。
「なっ!」
確実に、一本取ったと思ったハクは、アキラの予想外の動きに一瞬の隙を見せる。
その瞬間にアキラはうつぶせのまま、足払いを繰り出しハクの動きを止め距離をいったんとる。
(ふーむ、武器は剣士としてはスタンダードな打刀、変わった構えではあったが基本的に隙はない。一組の中では一番下の実力になるようだが‥‥‥十分実戦でも通用する実力だ。ちょっと舐めてたな、これは反省しなければ。それに‥‥‥。)
「三分は少し長かったかな?本気で、やったほうがよさそうだ。」
しばらく、二人は一定の距離を保ちながらも、合間合間に打ち合い、その速度を徐々に上げてゆく。そして、残り十秒になったところで、均衡が崩れる。
「シィッ!」
アキラが短い気合とともに、今までよりも鋭い一撃をハクに叩き込み、今まで拮抗しているように見えた実力は一気に覆る。
「はぁ?ガッ!?」
今まで以上の速度の急な速度への切り替えに対応できず、一の太刀で剣をかち上げ、二の太刀でハクの顎の先端を強くたたき、ほんの数瞬でハクの意識を刈り取る。
「へ?」
セラや周りの生徒たちも予想外の高速攻撃に驚き間抜けな声を発する。
ハクが気絶してちょうど、目を覚ますときに三分を告げるアラーム音が鳴り組み手の終了を知らせる。
「はっ!?しゅ、終了!」
結果は、一本を取ったアキラの勝利に終わる。
「「ありがとうございました。」」
終わりのあいさつをし、お互いに剣を収める。
「それじゃあ、一分の休憩を入れさせてもらいます。そのあとは、雷門さんの番なので準備を。」
「はい。」
† † †
一分の小休憩を挟み、次の番の緑色の目を無表情な少年
「‥‥‥。」
「どうしました?」
組み手の準備はできているのに、セラは浮かない顔をしている。それは、当たり前だ。なぜなら‥‥‥
「なんで、剣を持っていないんですか。いったいどういうつもりで?」
そう、先のハクとの模擬戦でアキラは木刀を使っていたのに今のアキラは、セラと同じような合気道の構えをとっていたのだ。
「今回の組み手はみんなの実力を確かめるためのものです。同じようなスタイルで戦い、長所短所を見極め、一人一人にあった指導内容を決めることが目的になっています。」
「そうですか。それでもわざわざ同じようなスタイルで戦う必要はないと思いますが?」
「師匠からの教えなんだよ、『他人にものを教えるなら同じ目線になれ』ってね。だから、まず最初に相手と同じ土俵に立って模擬戦をする。これが僕のやり方です。一応知り合いからは好評なんですよ?」
「‥‥‥わかりました。」
「両者、準備はできていますね?」
「「はい。」」
「それでは‥‥‥」
(剣の腕は確かなようだけど、ボクの土俵で挑むなんてそれこそなめ腐ってるとしか思えないね。)
「‥‥‥初め!」
(さて、軽く投げてやるか、な!)
ヒロの合図とともにアキラを投げようと動き出そうとするが、
「ヒュッ‥‥‥!?」
投げようと袖をつかんだ瞬間セラは、全身が粟立つような気配を感じ袖をつかんでいた手を自分から払う。
(離したか、結構いい勘してるな。)
アキラはセラが自分を投げようとすると予想していた。なぜなら、最初の様なやり取りをする相手は大概、大技なりなんなりをかけようとする。そういう相手には基本、嫌がらせのように地味な小技でねちねちと返すということをしている。今回もアキラはそれをしようとしたが、セラは鋭い直感でアキラの超地味な嫌がらせ地獄を免れたのである。
(やっぱり認識を改めるべきだな。もっと集中しよう。)
「さ、ガンガンどうぞ。」
「ッ!、なめやがって‥‥‥!」
先手を譲るようにアキラはその場から動かず構えなおす。アキラの受けてやろうという姿勢に一瞬イラッときたセラだが、先ほどのことを思い出し、今度は、間合いを測るようにじりじりと距離を詰めていく。
「‥‥‥。」
「‥‥‥。」
少しづつお互いの距離が縮まり、とうとう一息で接触するくらいの距離にまでなったときに、二人はほぼ同時に動き出す。
「はっ!」
「ほっ!」
つかみや当身を繰り出し繰り出され裁き裁かれながら、ハクの時とは違った高速の戦闘を繰り広げる。
「‥‥‥ここ!」
「やべ!」
セラが針に糸を通すようにアキラの腕の間に自らの腕を通し、襟首をつかみ懐に入り膝を落とす。今度は、反撃ができる態勢にいなかったので、アキラはそのまま一本背負いをされてしまうが、
「ただでは投げられないよ!」
「なあ!」
セラに投げられている途中で足を思い切りふり降ろし、『バコンッ!!!』というただ強く足を地面に叩きつけただけではならない音が鳴る。それほどの力で地面を蹴れば強い反動が生まれ、その反動を利用して今度はアキラがセラを投げる。
「はぁっ!。」
「カハッ!」
予想外のことでセラは受け身をとれず地面に叩きつけられ、肺の中の空気が吐き出される。
「グゥ!」
「おっと!」
叩きつけられた体勢のままセラは無理やり体を動かし、アキラの足を払おうとするが難なくそれをよける。
「‥‥‥かなり勢いよく、足から落ちてましたけど、足首とかは大丈夫なんですか?すごい音してましたけど。」
「自分の身よりも対戦相手の心配ですか?優しいね。」
「別にそういうわけじゃないですよ。ただの模擬戦で相手がケガするのは寝覚めが悪いだけなんです。」
「大丈夫ですよ。足腰はそれなりに強いから‥‥‥ね!」
「なぁ!」
会話が始まり一時停滞に見えた模擬戦は会話中にアキラは人間とは思えない速度で、距離を詰めセラの手首をつかみまた関節を極め、拘束する。
「グッ!ぐうううううう!」
「止めといたほうがいいですよ。肩が脱臼しちゃう。最悪折れるよ?」
セラが何度もアキラの拘束を抜けようとするが、脱出できず残り時間が過ぎ去り、とうとう三分が経過する。
「止め!」
ヒロの終了を伝える合図が聞こえると、アキラは拘束を解き
「「ありがとうございました。」」
† † †
三度目の組み手。アキラの目の前に立つのは緑色の目の無表情な少年風木比呂。
先ほどのセラ同様無手で合気道の構えをしており、その姿はセラとよく似ている。
(似た構えだな。雷門と同門なのか?)
「二人とも準備はいい?」
「「はい。」」
「それじゃあ、用意‥‥‥」
(?なんか、立ち方のバランスに違和感が‥‥‥て、あぁ、なんか仕込んでやがんだな。)
お互いに向き合い似た構えをとっていると、アキラが何か違和感を感じ取り、あることに気づく。
「スタート!」
始まりの合図が出たと同時に一回目と二回目とは打って変わり、アキラから一気に距離を詰め連撃を打つ。ヒロは流れるような動きで連撃をすべて捌ききる。
「フンッ!」
大きい動きで右手の掌打による攻撃をヒロの顎に向けて叩き込む。
「‥‥‥。」
もちろん、見た目だけならばかなり早いがそんな隙の多い攻撃は【武士】であれば簡単によけられるのだが、そのよける直前にヒロはほんの一瞬ニヤリと笑い、アキラの鳩尾に向けて隠し持っていたあるものを突き出す。
が、
「残念。」
今度は、アキラがニヤリと笑う。
突き出された腕をアキラは巻き取るように絡めとり、
「そおおい!!」
「なぁっ!?」
一本背負いにしてぶん投げる。
「やっぱ、持ってたね。
「くっ!」
ヒロの手に持っていた、ボールペンよりも一回り小さい先端の丸まった杭のようなものをアキラは手にしていた。
「見た感じ、小型にして携帯しやすくしたタクティカルペンってとこかな?うまく隠したもんだ。」
「‥‥‥。」
その言葉にヒロは悔しそうに眼をそらすが、
「勘違いしないでくださいよ、暗器を使うことがはんそくだとはおもいません。僕もよく使うからね。それに、まだ大量に隠し持ってそうだ。」
「はは!セラみたいだな。そうとう勘が‥いい、よう‥‥で!」
次は自分からと言う様にアキラの喉に向けて正確に貫手を放つ、それと同時に『シャン』と金属が軽くこすれあうような音がし、ヒロの長い袖の裾から細長い刃物のようなものが飛び出した。
「甘い!」
だが、アキラはそれも読んでおりヒロの手首をつかみそのまま懐へ入る。そこから、手首をつかんだまま脇の下をくぐり、背後へ回る。最後に足を払いヒロをうつぶせにして、先のセラのように取り押さえる。
「グァッ!」
「ふう、‥‥‥おお、アサンブレードだ。実物初めて見たなぁ、ちょっと感動。」
と、高速でヒロを拘束‥‥‥フフッ‥‥‥失礼しました。拘束したアキラはのんきなことを言うと、
「それ今言うことですか?!」
「いいじゃん、俺あのゲームやったことあるけど、かっこいいなぁって思ってたんだ。それ自作なの?」
「はあ、だからなんでそんな質問に答えなきゃいけないんですか?」
「そりゃあ気になるからに決まっているからだろ?」
「だからって、今授業中の組み手中ですよね?勝手に話していていいんですか?」
「まあ、話しちゃダメとは言ってないしね。と、いうかそっちこそこんなに話してていいのかな?もうすぐ時間切れだけど?」
「はっ!もしかして時間稼ぎ?いや、でも今後の訓練方針を決めるための組み手ですよ!そんなことしたら意味ないんじゃ‥‥‥。」
「まあそうだね。でも実戦だと敵と戦う時間よりも敵を制圧して拘束した後の方が長いんだ。その間にだまくらかされるかもしれないし、もしかしたら、自分が捕まるかもしれない。そんな時には、自分から喋れば自分が助かるための方法を考える時間を作れるし、早めに考えておけばすぐに実行に移しやすくなる。実際喋っている間に、一瞬だけ何度か拘束を抜け出せるくらいに力を抜いていた時があった。敵との会話に応じて並行して作戦を考える力も今後は必要になると思うよ?」
ちょうど、アキラが話し終えたタイミングで、
「止め!」
と、組み手終了の合図が出る。それを聞き、アキラはヒロの拘束を解く。
「「ありがとうございました。」」
お互いに離れたところで、終わりの礼をする。
「さて、また一分休憩。よし!ねぇ風木君、さっきの質問なんだけど、そのアサシンブレードって自作?」
「‥‥‥ああ、はい、その、自分の使っている暗器は全て自作です。自分もあのゲームやってて結構好きなんです。」
「へぇ、そうなんだ。暗器は僕も使うって言いましたけど、自作じゃないんですよね、今度作り方とか教えてくれますか?」
「あ、と、その‥‥‥自分でよければ、いいですよ。」
「うん、ありがとう。」
SAMURAI教師 路峰詩音 @SionMitimine
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