変身系

魔人化ハイエンド


 魔力の質に応じて肉体を魔物へと変化させる《生成なまなり》と、魔力を高密度に圧縮し、鎧の様にして身に纏う《纏鎧てんがい》の二種の総称。王国中心に伝わる戦闘技法であるが、半世紀以上も戦争とは無縁という背景もあり、習得者は年々減っている。


・《生成なまなり

 持ち前の魔力の性質に依存する為、習得出来るか否かは素質次第。素質さえ伴っていれば、魔物への変身に鍛錬は必要無い。自然進化の道筋の一つであり、その変化はごく自然で当たり前のもの。弛まぬ鍛錬の末に行き着く類の力ではない。ただし、変身後の魔物としての力、特性を活かせるかは鍛錬次第となる。強力な反面、肉体を変質させるという性質上、多大なる魔力を消費する上に肉体への負荷が非常に大きい為、日に何度も扱えるものではない。又、魔力消費も著しく、魔物化した肉体に引っ張られて精神異常を引き起こす危険がある事から、基本的に長時間の行使は出来ない。肉体が魔物化する事から、存在的な容量が増えて人間では行使出来ない魔法も扱えるようになる。魔力の性質が異質である程、変身後は人間から掛け離れた姿となる。一般的には、体毛や爪といった器官が発現し易く、角や翼、尻尾などの元々人間に備わっていない器官は現れにくい。堅牢な外殻や翼を獲得しているオーガスやレイモンドは非常に稀有で、それだけ強力な魔人であると言える。ローファスが幼少期にこの力を扱いきれず暴走したのは、単純に魔力の質が人間の精神では扱えない程に異質であった為。


・《纏鎧てんがい

 魔力を高密度に圧縮し、鎧として身に纏う技法。魔力を持つ者であれば素質を問わず習得が可能であるが、魔力操作と高い練度が必要。《生成なまなり》と比べると魔力効率は良く、練度や慣れにもよるが長時間の行使が可能。人間を超えた魔法の行使は出来ないものの、精神異常を引き起こすというデメリットも無い。魔法における近接戦の極致とも呼べる技。千年前、神が跋扈していた時代においてこの技法はスタンダードであったが、現代では一部の手練しか扱えない。戦後半世紀の間で、習得者の数は著しく減少している。



機人化デストラクション

 帝国科学の強化人間サイボーグ手術を施された人間の中で、血中ナノマシンとの共鳴率が高い一部の素質ある者が、薬物を使用する事によりナノマシンを増幅させ、肉体を人外のものへと変化させる技法。テセウスはこの現象を、人類進化における特異点の一つと呼んでいる。又、テセウスは《黒化》とも呼んでいる。その姿形は使用者により様々であり、特技や技能、精神に根差した形状へと変わる。一例では、実弾銃が好き過ぎてリボルバー拳銃型の機人になった輩もいるのだとか。


強化人間サイボーグ

 人体改造手術を受けた人間。肉体の大半は人工筋肉や人工臓器に置き換えられており、体内にはナノマシンを内包する“黒血ディープブラッド”が流れている。視覚、聴覚、嗅覚といった各感覚器官の向上、膂力向上、痛覚遮断、恐怖等精神抑制——などなど、様々な機能を有する。又、不死身とも比喩される程の肉体修復機能を持つ。修復はナノマシンの急速増幅による肉体構築から成り立っており、その核としてナノサイズの“再生核”が体内に存在している。因みにこの“再生核”の正式名称は《賢者の石》であり、帝国科学ではなく錬金術により生み出された産物である。


・スイレンの変化

 翡翠の薬品を用いた瞬間的かつ使用後に死亡確定のドーピング。その身に翡翠の魔力を取り込ませる事により、肉体変化——強制的な魔人化ハイエンド、《生成なまなり》を引き起こす。魔力の無い人間にとって魔力は毒であり、拒絶反応により肉体が崩壊する所を“再生核”による肉体修復で補う事で、肉体変化を繰り返しながら強化されていく理不尽な怪物と化している。これは帝国科学のナノマシンによる機人化デストラクション、錬金術の“再生核”——《賢者の石》、魔道の魔人化ハイエンドを合わせたものであり、テセウスはこれを《白化》と呼んでいる。因みに翡翠の魔力は《魔王》スロウスの本体である魔石から採取されたものであり、スイレンの肉体が竜の如く変化したのはスロウスの魔力の性質によるもの。


先祖返りニルヴァーナ

 祖先の特徴を発現させる技法。先天的なものもあれば、鍛錬により後天的に発現させる場合もある。現時点で明確に後天的変化を見せているのはリルカのみ。魔人化ハイエンド竜人化ベルセルクほど広くは知られていない。


竜人化ベルセルク

 詳細不明。聖竜国の肉体変化系の技法? 竜に近い魔力性質を持った肉体変化は魔人化ハイエンドに分類され、タチアナの様な祖先の特徴を先天的に持つタイプは先祖返りニルヴァーナに文類される為、それらとは根本的に成り立ちの異なる変身である事が推察される。


神依アバタール

 ローファスが到達した《神》としての受肉法。肉体を依代に《神》として顕現する為、その身に掛かる負担は魔人化ハイエンドの比ではない。長時間の行使は当然不可能。使用後は一時的に仮死状態になる程に肉体が弱り、本調子に戻るまでは魔力出力が安定しないという弱体化が入る。これもあり、神依アバタールはローファスにとってあまり使いたくない手段の一つである。


神格昇華アバタール

 テセウスが到達した《神》としての受肉法。ローファスのものとの字の違いは《神》に至る経緯の違いによるもの。方式的には錬金術の到達点——《大いなる業マグヌムオプス》。テセウス曰く、到達したこの状態は《黒化》、《白化》の先にある《赤化》であるという。因みにローファスの受肉とテセウスの受肉では大きな違いがあった。ローファスがその身を《神》へと変化させたのに対し、テセウスは《権能》を具現化させるようにブリキの巨人を背後に出現させた。これは受肉法の違いにより生じた差異——ではない。ローファスは自分自身の本体である肉体を受肉の依代としたが、テセウスの肉体は飽く迄も仮初の身体。テセウスの背後に現れたブリキの巨人こそが、周囲の電磁場を依代に顕現した《神》としてのテセウス自身であり、残されていたテセウスの仮初の身体は文字通り飾りであった。


◆完全顕現

 《神》とは力が大き過ぎて“世界”からはみ出た存在である。故に人間の次元では、如何に人間を依代に顕現しようとも、力の全てを出し切る事は出来ない。テセウスが行った《完全顕現》は、自身が作り出した世界——領域に対象を飲み込み、その場で《神》としての総力を発揮するというもの。しかしこれはローファスに世界ごと断ち切られ、領域が崩壊した事で《完全顕現》が維持できなくなり、テセウスは力を発揮する前に敗れる事となった。

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