第5話 ミティアライトの影像 5-⑶


「私の出身は真臼まうすという小さな漁村で、烏賊などを獲る漁が中心でした。私は幼い頃、家族が烏賊のような姿になって私を海中にある烏賊人間の村へ連れて行こうとする夢を見て以来、この星には烏賊が進化した烏賊人類がいるのだと思いこんでいたのです。その夢を忘れていた数か月前、今度は別の恐ろしい夢を見てしまったのです」


 木箱が運び去られた居間の片隅で、谷地は自身の恐ろしい思い込みについてぽつりぽつりりと語り始めた。


「それは蛸のような姿をした火星の人類が、地球の海に棲む烏賊人類と戦争状態にあるという夢でした。

 烏賊人類は火星人が地球を支配するべく太古に送りこんできた偵察用の烏賊型生物が進化した物で、独自の知能と欲望を持って火星人がやってくる前に地球の主となろうと画策していたのです。

 そして烏賊人類との戦いに勝利すべく数年前から火星人は地球に蛸型生命体を送りこんでおり、その中の数体は完全に人間の世界に溶け込んでいたのです」


「そのうちの一体が、多近氏だったと言うわけですね?」


「私は恐怖のあまり、黒いマントに身を包んで多近君を襲撃しました。しかし多近君は武道に秀でていて、私はあっけなく蹴散らされてしまいました。それで榎本公が露西亜で見たという隕鉄剣のことを思い出し、あれなら火星人を殺せるだろうと思ったのです」


「なるほど、宇宙人も隕石もどちらも宇宙の深淵からやって来た物だというわけですね」


「私は外国から来た、たまたま隕石を売りたがっていた人物から石を入手し、津軽から来た知り合いの元刀鍛冶に頼んで刀をこしらえてもらったのです。

 最初、切れ味を確かめるため野菜や藁などのつまらぬ物を斬っていましたが、ある夜、多近君がエレベートルの試運転を兼ねて「塔」の最上階に上ると聞き、この機会を逃せば火星人を討つことはできないと多近君を殺す決意をしたのです」


「それがあの夜の午後六時ごろ、というわけですね」


「そうです。さすがの多近君も星を見ている所を後ろから突かれては、ひとたまりもありません。しかし驚くべきことに彼は私が短剣を抜いた後、「僕としたことが迂闊でした……谷地さん、僕が止血をして時間を稼いでいる間にそれを持って逃げて下さい」と言ったのです」


「ということは多近さんはあなたが自分を狙っていることに薄々、気づいていたのですね」


「私は何ということをしてしまったのだろうと後悔する一方で、逃げなければと思いエレベートルを動かしました。しかし何ということか、エレベートルはまるで動かず私は短剣を携えたまま外の梯子を下りるしかなかったのです」


 ――なるほど、その姿を俵藤さんに見られたわけか。


 そして翌日、多近君の死を知った私は、もう一つ自分にはやるべきことが残っていると気づきました。それはあの塔のアーク灯を使って別の誰かが火星人と交信しないよう、灯りを破壊しておくという仕事でした」


 ああそうか、と流介は思った。事件の後、塔を訪ねた自分が見た谷地氏は、まさに塔のアーク灯を破壊し終えたところだったのだ。


「こうして火星人の襲来を未然に防いだ気になっていた私ですが、ふと振り返ると火星人など幻ではないのか、私はただの人殺しなのではないかという後悔の想いが強くなってきたのです」


「ようやく気付けたのですね。谷地さん、いつでもいいので警察に自首して下さい。多近氏もきっとあなたが罪を告白した時点で安らぎを得ることでしょう」


「はい……そうします」


 谷地はそう言うといったんどこかに引っ込み、しばらくして細長い箱のような物を手に再び居間に現れた。


「これが……これが『隕鉄剣』です」


 そう言って谷地が箱のふたを開けると、中から八寸ほどの短剣が姿を現した。


「美しい物ですね」


 天馬は星から来た「凶器」を手にすると、鏡のような刃に自分の顔を映した。


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