第5話 ミティアライトの影像 5-⑵
「ご一新から二十余年、我々の世は次々と新しい技術による新時代の魔法に塗り替えられています。例えば蒸気、瓦斯、電気などです。それらの多くは人々を運び、街を明るく照らし、機械を休みなく動かすものであります。
では翻って私たちの知らない未知の世界はどうでしょう。……そう、海底や宇宙と言った神秘の世界です。そこには我々の常識を超える新しい文明、新しい生命との出会いが待ち受けているに違いありません」
流介は隣の椅子で天馬の語る口上を目を丸くして見つめる谷地に、ああこの人はこういった大道芸のような口上にあっさりと魅入られてしまう人なのだなと思った。
「では幽霊や深海の怪物、宇宙生命といったものばかりが神秘なのでしょうか?……いいえ、人類の科学技術は日々、このような小さな箱の中に納まるような新たな魔法を生みだし続けているのです。……さあ谷地さん、こちらへ来て上の覗き口から箱の中をご覧になってください。私は今日、人類の神秘を箱詰めにして持ちこみました」
天馬の流れるような口上に腰を上げた谷地は、ふらふらと吸い寄せられるように箱の前に移動した。
「これを……覗くんですか?」
「はい、今からスイッチを入れます」
天馬がそう言ってなにやら操作をすると、ぶうん、ぎりぎりぎりと奇妙な機械音と共に箱全体が震え始めた。
「……どれ」
覗き口に目を当てた谷地はしばし無言だったが、やがて「うう」と呻くと息を荒くした。
「こ……これはなんだ。写真か?いや違う。だが……写真のような物が動いている!動く写真など聞いたことが無い、信じられない!」
「なにをご覧になられました?」
「人のような物がゆらゆらと動いていた……いや、人間だ。確かに人間だった。しかしあのような人間はいない。あれはなんなんだね!」
「詳しい名称は知りません。ズープラキシスコープとかキネトスコープとかいうようですが、いずれにせよまだ世に知られていない新しい発明品です」
「発明品……そんな物がなぜここにあるのかね」
「私は海外の様々な商人と付き合いがあり、どこかの国で捨てられた発明品の試作品があるとすぐに買い付けて運んでもらうのです。この装置に関してはエジソン研究所から出たという話もあれば、別のところで開発されたという話もあります。いずれにせよ、不完全ながらこのような物が現在の技術で製造可能なのです」
「あのような動く人間が目の前に……信じられない」
「谷地さん。信じられないとおっしゃいましたね。あなたはこの世に実在する技術は信じないのに、火星から宇宙人が来るという誰一人確かめたことのない話は信じるのですか」
「あ……」
「もしかしたら二百年後、三百年後には火星に行ったり火星から人が来たりする世界が見られるかもしれません。しかしそれは今、ここにはないのです。一方、塔を地面に建てたり、動く人間の映像を見たりすることは現在の技術で実現できます。いつ来るかわからない火星人を待つのではなく、多近氏が追い求めた夢の続きを信じるべきです」
「私は……ずっと遠いところから来る未知の者たちが怖かった。多近君から火星の運河の話を聞いたり、英国でウェルズ君の空想を聞いたりしているうちに蛸や烏賊のような宇宙人が、すぐにでも来るような気分になっていてもたってもいられなくなったのだ」
「火星人など来ませんし、おそらく運河もないでしょう。……谷地さん、多近氏を隕鉄剣で刺したのは、あなたですね?」
「……そうです。私は……私は彼が、怖かった」
「ではその恐怖を語ってください。そうすれば蛸型の火星人は夜空に帰ってゆくでしょう」
天馬がステッキで床をこんと叩くと、谷地はまるで糸の切れた操り人形のように床の上にへたり込んだ。
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