第5話 ミティアライトの影像 4-⑹
「アーク灯が消えていたのは?」
「恐らく真犯人が消したのでしょう。なぜ消したのかはこの後、詳しく説明します」
「このあと?」
「――真犯人の正体についての話です。飛田さんが僕に語ってくださった今までの話の中で、多近氏とかかわりがありながら容疑の線上に現れなかった人物が一人だけいます」
「まさか……谷地さん?」
「その通りです」
「しかし谷地さんは多近氏の支援者で、死を惜しみこそすれ恨むような理由は何もないはずだ」
「恨んでいなくても、刺さざるを得ない理由があったのです」
「刺さざるを得ない理由だって?恨んでいないのに人を刺す人間なんていないよ」
「それがいるのです。見方を変えればそこまでせざるを得ないほど、谷地氏は追い詰められていたのです」
「追い詰められていた?何に?」
「火星人ですよ」
「火星人だって?冗談もたいがいにしたまえ天馬君。それではあの自称探偵の
「多近氏は月や火星に只ならぬ関心を抱いていました。火星に運河があると本気で信じていたほどに。そして谷地氏も多近氏から繰り返し宇宙への夢を聞かされているうちに、谷地氏の中で以前、英国のハーバート・ウェルズという青年から聞かされた「いつか書くであろう宇宙人の物語」が甦ったのです.。蛸の様な火星人が地球を侵略氏にやってくるというおとぎ話を……」
「仮にそういうことがあったとして、そのことが多近氏の殺害とどう関係するんだね」
「ウェルズ青年の物語は、ジュール・ヴェルヌの『地球から月へ』をこよなく愛していた谷地氏の脳をいたく刺激しました。地球から砲弾で月に行けるのなら、火星人が地球にやってきてもおかしくはない。そう考えた時、多近氏が建造していた『塔』のことが思い出されたのです。
五階とはいえ山の中腹に建てられた塔からアーク灯で夜空を照らせば宇宙にまで届くかもしれない。あるいは海峡のどこかに潜んでいる「仲間」たちが地球襲撃の号砲を火星に伝えてくれるかもしれない」
「馬鹿馬鹿しい、じゃあ谷地さんは多近さんが火星人の仲間だと思っていたってことかい?」
「おそらく地球人である多近氏の身体を乗っ取って、火星から仲間を呼び寄せようとしていると思いこんだのではないでしょうか」
「そう言えば、『凌泉』で女将が出してくれた烏賊を見た途端、顔を真っ青にして箸をつけるのを拒んでいたな」
「一旦口にしてしまうと、身体の内側から火星人に乗っ取られると思ったのでしょう」
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