第5話 ミティアライトの影像 4-⑸
「まず、結論から申し上げましょう。僕は俵藤氏、春花さん、沙織さん……『奇譚倶楽部』で名前が挙がった三名の容疑者の中に真犯人はいないものと考えます」
「えっ……じゃあ誰なんだい」
「それを話す前にまず、事件当夜の状況についてお話しましょう。午後六時過ぎ、俵藤氏が「塔」に向かいました。この時、塔で何が起こっていたと思います?」
「ううむ、多近氏がいなかったかすでに刺された後か、だろうね」
「僕が推理するに真犯人は六時ごろ「塔」に来て、最上階に着いた直後に多近氏を襲ったと考えられます」
「では俵藤氏が塔に到着した時、下手人はまだ塔の内部にいたということかい?」
「それか、または脱出している最中でしょう。俵藤氏の証言の中に、外壁に取りつけられた鉄梯子を下りてくる人影のような物が見えたという一言がありますが、あるいは真犯人が何らかの事情でエレベートルを使わず外の梯子で逃走しようとしていた場面を目撃したのかもしれません」
「エレベートルは下手人が止めたのかい?」
「いえ、止まっていたとすれば事故でしょう。真犯人としては一刻も早くその場から立ち去りたいはずです。壊すなら一階に下りた後で壊すはずです」
「なるほど、ということは俵藤氏が塔を訪ねた時、多近氏はまだ息があったというわけか」
「おそらくそうでしょうね。次に六時三十分過ぎに春花さんがやってきた時、多近氏は身動きが取れない状態にありました。エレベートルが一階になかったのは、多近氏が下に降りようとして動かしたところ、三階のあたりで止まってしまったからです」
「なんと……それでは脱出もままならない」
「その通りです。困り果てた多近氏は出血がやや落ちついたところを見計らって危険な「賭け」に出ました。外の梯子を伝って三階に下り、そこからエレベートルを使って一階に下りようと画策したのです」
「それは確かに絶望的だ……」
「春花さんが「塔」を訪れたのはまさに、そんな時でした。多近氏は残った力を振り絞り三階の窓を開けようと内鍵と格闘していたのに違いありません」
「しかし春花さんは塔の中に多近氏がいない物と思いこみ、立ち去ってしまった、か……」
「そうです。やっとの思いで三階の窓を開けることに成功した多近氏は、少し離れた山道に女性らしき人影を認め、声を出します。それが……」
「沙織さんだったと言うわけか!」
「はい。しかし多近氏の声は弱々しく風にかき消され、沙織さんの元にまでは届かなかったのです。身を翻して去ってゆく人影を見た多近氏はああ、僕が演奏を聞きに行かなかったばかりに春花が臍を曲げてしまったのだと早とちりしました。春花さんに愛想をつかされたと思いがくりときた多近氏は、気力を失いそのまま窓から転落してしまった……これが事件のあらましです」
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