第5話 ミティアライトの影像 4-⑵
「では、俵藤氏が訪ねた後で「塔」に近づいたと言う話は嘘……?」
「おそらくそうでしょう。塔が真っ暗になった後で訪ねて行ったと告白すれば、少なくとも俵藤氏より前に行っていたと考える人は出てこないでしょう。私の推理は以上です」
ウィルソンは自分の説を語り終えると、静まり返ったテーブルを前に一礼した。
「それでは、次は拙僧が推理を述べさせていただこう」
重々しい口調でそう申し出たのは、日笠だった。いつもは袈裟を身に纏っている日笠だが、ここ『港町奇譚倶楽部』に参加する時はタキシード姿だった。
「私もウィルソンさんに倣って最初に真犯人の名前を述べさせていただきましょう。私が犯人と考えるのはもっとも疑わしいと思われている人物です」
「俵藤さんですか」
「さよう。仮に俵藤氏の供述内容が全て真実であったとしても、まだ「語られていない」ことが無いとは限りません。つまり「塔」に赴いた俵藤氏はエレベートルで五階に上がると星か海を眺めていた多近氏を短刀で刺したのです。
まったく気づかれることが無ければ時間にして五分もあれば可能です。それから自分でエレベートルを動かし、アーク灯を破壊しました。つまり塔の灯りが消え、エレベートルが止まっていたという風景は殺人を終えて一階に戻った時の眺めをあたかも塔を訪ねた時に見た風景であるかのように語ったわけです」
「つまり俵藤氏が本当の事を話さない限り、真相は永遠に藪の中……と、いうわけですか」
「そうです。しかしここで一つ、気になることがあります。それは六時半過ぎに春花さんが塔を訪れた時、エレベートルは一階にはなかった。これはおそらく、まだ息のあった多近氏が必死でエレベートルを上に呼んだが、そこで力尽きてしまったということなのではないでしょうか」
「もしそうなら春花さんには多近氏を救える可能性があったことになります。いささか酷な真相ではありませんか?」
「真実という物は往々にして過酷な物です。あの夜は誰一人として多近氏を救うことはできなかったのです。……これで、拙僧の推理は幕とさせて頂きます」
日笠の推理はややあっさりしていたものの、良助にとってはもっとも頷ける答えであった。
「私が最後ですね。では畏れ多いですがこの浅賀ウメが最後を締めくくらせて頂きます」
いつもの和装ではなくドレスのような装いのウメは、そう言うと深々と一礼した。
「私が考える真犯人は、みなさんがもっともありそうにないと思っているであろう方です」
春花のことだな、と流介は思った。
「多近氏の塔を訪ねた人間のうち、二度行っているのがはっきりしているのは春花さんのみです。そして亡くなった多近氏を発見したのも春花さんです。俵藤さん、沙織さんはこの夜、一度も多近氏の姿を見てはおりません。もし六時半過ぎに塔を訪ねたという話が本当なら、自分でエレベートルを下ろして上に多近氏がいるかどうかを確かめることもできたはずです」
「でもそれをしなかった……」
「しなかったのではなく、やったことを黙っていたのです。春花さんはエレベートルで上に上がり、ある覚悟を持って恋人の多近氏に会いました。その覚悟とは、研究と自分、どちらが大事かという昔から男女の間でかわされてきた問題に決着をつけるという覚悟です」
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