第5話 ミティアライトの影像 4-⑶


「まさか、多近氏が煮え切らない態度を示したので……」


「春花さんは当初、多近さんがあれこれ言い訳をしたら彼を刺し、自分も死ぬつもりだったのではないかと思います。そして間違いが起きてしまった」


「ちょっと待ってください、春花さんは生き残ったわけですよね?心中を覚悟していたのに、いざとなると気持が翻ったということなのでしょうか」


「そうかもしれませんが、私は別の真相を考えています。春花さんは多近氏が煮え切らない態度だったので「死んでやる」と自分に刃先をむけたのではないでしょうか。そしてもみ合っているうちに……」


「事故だったということでしょうか?ならば刺した後すぐ、助けを呼ぶはずです。彼女の印象から言って、重傷の恋人を置き去りにして自分だけが生き延びるということは考えにくいのではないでしょうか?」


「そこが「愛」だと思うのです。それも、少々変わった形の」


「愛ですって?」


「はい。多近氏は刺された直後、春花さんに「傷の手当ては自分でする、助けも自分で呼ぶから君は教会に戻って何事もなかったかのように演奏を続けてくれ」と言ったのではないでしょうか」


「でも、多近さんは助からなかったじゃないですか」


「それが誤算だったのです。多近氏は血を止めた後エレベートルで一階まで降りて助けを呼ぼうとしたのですが、故障してしまい一階まで下りなかったのです。外には梯子が付いていますが、下手に降りて出血してしまっては元も子もない。何とか塔の上から助けを呼ぼうとしているうちに力尽き、転落してしまったというわけです」


「だったら亡くなった後、すぐ警察に事情を説明すべきだったのではないでしょうか。沈黙の理由がわかりません」


「それもまた、愛だったとあたくしは思います。重傷を負ってまで春花さんの未来に傷がつかぬようにと願った多近氏の態度に接した瞬間、彼女はこういう形で愛を現す人なのだと始めて理解したのです。

 つまり自分が汚れることは彼がもっとも望まぬこと、自白して罪人になってしまったら彼の死が無駄になる――そう考えて黙っているのではないでしょうか。あたくしの推理は以上です」


「さて今回も大変興味深い推理が出そろいましたが、この中から最も魅力のある答えを決めなければなりません。今回は飛田さんも最優秀推理の選考に参加していただきたいと思います。それではご自身の説がそうだと思われる方は手を上に、他の方の推理が良いとと思われる方はその方を手で示してください」


 安奈がそう告げるとウメと流介が日笠を示し、ウィルソンと日笠がウメを示した。


「これは困りましたね……では例外中の例外として、最後の選考は私がつとめさせていただきます」


 安奈はそう言うと、おもむろにウメの方を手で示した。


 「……決まりですね。それではウメさんの推理を本日の解答とさせていただきます」


 安奈の宣言にテーブル全体から拍手が起こり、流介にとってはやや意外な「真相」が支持を集める形で会は幕を閉じた。


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