第5話 ミティアライトの影像 3-⑸


「お互い、持って回った言い方は止めましょう。要するにあなたは僕が多近さんを殺したのではないかと疑っているのでしょう?」


 真新しい和洋折衷住宅の居間で、俵藤凌介は訪ねてきた流介に先手を打つように言った。


「僕はあの夜、教会の前でなにやら言い合っている多近氏と春花さんに出くわしました。確か五時半くらいだったと思います。

 僕は春花さんの演奏を聞きに行ったのですが、多近氏はどうしも見たい風景があるとかで教会には入らず、塔の方に行ってしまいました。春花さんが演奏の準備をしに教会に入った後、沙織が現れてなんだかんだと日ごろの不平を僕にぶつけて来ました。しかし僕が演奏が終わってからにしてくれと言うと、口をへの字に曲げて帰って行きました」


「なるほど、沙織さんから伺ったお話と大体、一致します」


 流介が頷くと、俵藤は「事実しか言っていないのだから、一致するのは当たり前です」と不機嫌そうに言った。


「それであなたはその場に残って教会で春花さんの演奏を聞いたんですよね。演奏中、もしくは演奏後に「塔」に行きましたか?」


「……行きました。春花さんが六時半に演奏をいったん終えて休憩に入ることはわかっていたので、その前に多近さんと話しをしようと六時に十分ごろ教会を出ました」


「そこで何を見ました?多近さんとは会えたんですか?」


 流介が尋ねると、俵藤は頭を振って「会えませんでした。……というか塔が真っ暗でエレベートルも一階で停まっていたので、帰ったか教会に行ったか、とにかくいないと思ったのです」と言った。


「なるほど、ではあなたも沙織さんも、あの夜は誰一人俵藤氏と会っていないということになりますね」


「会っていたら彼は死なずに済んでいたかもしれません。その点については今でも心苦しく思っています。……ですが、結果として私も沙織も殺人に関わっていないということが証明されたわけです」


「なるほど、不愉快な質問ばかりしてしまい、申し訳ありませんでした」


「……あの、これはひょっとしたら私の気のせいかもしれないのですが」


「なんです?」


「帰り際、塔の方を振り返った時に外の梯子に人のような影が見えた気もするのですが……なにぶん、暗かったので見間違いだったかもしれません」


「そうですか、貴重なお話をありがとうございます。聞きたかったことが聞けて僕も納得が行きました」


 流介は丁寧に礼を述べると、俵藤の家がある弁天町を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る