第4話 キュンストレイキの立像 2-⑾
「なるほど、ちんぷんかんぷんなのも無理はありません。礼太郎の話に出てくる言葉は、説明の必要があるものばかりですからね」
話し疲れて水を飲みに行った礼太郎に変わって後を引きとったのは、叔父の百彦だった。
「まず文がのめり込んだ怪しい考えの元になっている物は、心霊主義とか神智主義とかいう欧米では昔からある怪奇思想なのです」
「へえ、この日本ではほとんど聞かない言葉ばかりですね」
「その通りです。文がお手本にしたのは多分、ブラヴァッキー夫人という人物が創設した『神智学会』と彼女がいたエディンバラに拠点があるらしい『黄金の夜明け団』などではないかと思われます。どうも彼女はこれらの秘密結社に強い興味があったようです」
「秘密結社ですって?それに『神智学会』とか『黄金の夜明け団』とか僕にはちんぷんかんぷんなんですが」
「そうでしょうね。『神智学会』は一時期世界のあちこちで勢力を伸ばし、初期には今、世界中で話題のトーマス・エジソンも会員だったと言われています。『黄金の夜明け団』というのは中世の欧州にあったと言われる『薔薇十字団』という団体の思想を受け継ぐ『選ばれた超人』によって人類が導かれるという秘密結社だそうです」
「選ばれた超人……?」
「はい。早熟な文は『黄金の夜明け団』の最初の本拠地である『イシス・ウラニア神殿』がロンドンに開かれた際にもしかしたら創設者たちの誰かと会っていたかもしれません。また、同じ時期にブラヴァッキー夫人が『シークレット・ドクトリン』という本をやはりロンドンで出版していることから考えると、彼女はブラヴァッキー夫人とも会っている可能性があります。つまり彼女は全く同時期に英国で神秘的な秘密結社の創設者たちと邂逅していた可能性があるのです」
流介は続々と出てくる奇怪な話に、少々うんざりしかけていた。礼太郎も百彦も頭は良いがまともな人たちではない。
「彼女はブラヴァッキー夫人が神がかった状態で手にいれたという『霊的指導者』からの手紙を真似て自分も謎の指導者から指令を受けたと思いこもうとしたのではないかと思います。礼太郎が聞いた話では彼女はある夜明け前、窓硝子ががしゃんと割れて謎の書簡が放り込まれたと言っていたそうです。初めてそれを読んだときは寿命が縮む思いがしたらしいです」
もう駄目だ、と流介は思った。これほど複雑で怪しい話をすべて理解できるのはあの青年くらいの物だろう。
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