第4話 キュンストレイキの立像 2-⑽
「僕は文の語る子供らしからぬ話にうんざりし、次第に居留守を決め込むようになった。そして彼女の姿を見なくなってから十年ほど経ったある日、僕らのアパートに火災が発生したんだ」
「火事?」
「そう。焼け跡を眺めていた僕は久しぶりに文の姿を見つけ、歩み寄ったんだ、すると彼女は「あなたは悪い「気」をまとっているから神の罰が当たったのよ」と言ったんだ」
「とんでもないことを言う子だな」
「そして彼女はいきなり僕に
僕は彼女が口にしたマハトマだのローゼンクロイツだのというわけのわからない言葉を僕なりに――たまたま博識の叔父がいたために調べることができた。
そして父から伝え聞く話によれば、その頃から彼女は「マハトマ書簡と同じ物が私の所にも来た」だの、「アンナ・シュプレンゲルはもう力を失った」だの「同じ力を持つ者を私が見つけ出す」といったおかしなことを口走るようになっていたんだ」
「――なるほど、では君はなぜ、その文さんを『切り裂きジャック』だと考えるようになったんだい?」
「きっかけは二つある。一つ目は父がエディンバラで診療所を開いていたコナン・ドイル氏と知り合いで、氏から連続殺人犯は女性ではないかという説を聞かされたこと。もう一つは彼女の考えがその頃あまりに異常な物になっていたことだ」
「ドイル氏はなぜ、犯人が女性かもしれないと思ったのだろう?」
「どうも氏の主張によると、犯人が被害者たちに近づけたのは同性だったことが大きいのではないかということらしい。僕はその話を聞き、女性でかつ人間の身体に詳しい人物ということから看護婦のような仕事をしていた彼女を思い浮かべたんだ」
「仮に文が『切り裂きジャック』だったとして何人か殺害した後、彼女は日本に戻ってきたわけだよね?君が彼女のいる匣館にやってきたのも、殺人犯を追ってきたという事になるのかな」
「そうだ。直接のきっかけは彼女が英国を離れる前に僕にくれた手紙だ。そこには「私はここを去ります。もうブラヴァッキー夫人や『黄金の夜明け団』は私に必要ありません。これから私はアンナ・シュプレンゲルの霊力を受け継いだ人間と『霊胞』を探しに東の果てに向かいます。すべての人類を導く「超人」となるために」――と、あったのだ」
流介はいったん目を閉じると、深く呼吸をした。礼太郎の語る話は聞きなれない言葉が多すぎて、ほとんど理解できなかったのだ。
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