第3話 シニストレアの鏡像 3-⑷


「それでは、私からも一つ、推理を述べさせてもらってよろしいかな」


 二番手に名乗りを上げたのは、ウィルソンだった。


「……と申しましても、私の説はいささか突飛に過ぎると言えなくもないので、推理というよりはおとぎ話を聞くような気持ちで聞いていただければと思います」


「ほほう、おとぎ話とは。それは逆に興味をそそられます」


 日笠が先を促すと、ウィルソンは「では」と前置いて自身の推理を披露し始めた。


「私が注目いたしましたのは『手をくれ面』がなぜ、面をつけているのかという点でございます。その裏には単なるおどかし以上の何かがあるのではないか、そう考えたわけです」


「ふむ、面白い」


「まず、佐吉さんが持っていた「手首」についてですが、これは私は手の剥製などではなく作り物だと考えております。すなわち『面』の者にはちゃんと手があり、切断などされていなかったという考えです」


「まあ、それは斬新ですわ」


 自分とは異なる推理が始まったこにと興奮したのであろう。ウィルソンの話が始まって間もなく、ウメがぐっと身を乗り出した。


「私の想像ではあの手は皮をはぐと金や翡翠ひすい瑪瑙めのうといった何か価値のある石なのではないでしょうか。おそらく『面』の者の家宝か何かで、佐吉さんに借りのあった『面』が借金の形に融通をねだっていた……それが私の仮説です」


「つまり金を返せず、「手」を持って行かれてしまったと?」


「はい。家宝を強奪同様に持って行かれた『面』の者の家には、実はまだ取っておきの恐ろしい家宝が残っていました。それがのっぺら坊の面だったというわけです。海の向こうには祭りの時に面をつけて精霊が乗り移ったかのようにふるまう人々もいるそうです。つまり『面』の者は家に代々伝わる魔力を持った面をつけることで、佐吉さんを呪い殺して大事な『手首』を取り返そうと思ったわけです」


「この鳴事の時代に呪いの面とは……なんだか講談の筋書きめいてきましたな」


 日笠は戸惑ったようにそう漏らしたが、流介は密かに「いや、これはこれでそのまま奇譚になり得るのではないか」と胸を躍らせていた。


「しかし、この面には恐ろしい力が宿っておりました。呪いの力を使った者――つまり面を被って復讐を果たした者は、自らも面の呪いによって命を落とすという宿命が待っているのです」


 ――ひゃあ、ますます怪談めいてきた。この謎解きだと今回は推理ものをお休みしなければならなくなるぞ。


「自分が死ぬとわかっていても面の力で『手首』を取り戻したかった……そういうことですか?」


「その通り。自分が死んでも家宝が戻れは、後は子孫が無事に受け継いでくれるはず……そんなところではないでしょうか。そう考えると、行方の知れない『手をくれ面』も、今ごろは返ってきた呪いによってこの世の物ではなくなっている……そんな風にも思うのです」


 怪談仕立ての推理ということもあり、ウィルソンの話は部屋の空気をひんやりとさせた。


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