第3話 シニストレアの鏡像 1-⑷
「ううむもう少し調べてみたいところだが、さすがに怪人ご本人とばったり出くわす、などということは起こらないだろうなあ」
流介は机の上に頬杖をつくと、材料があるのに一向にまとまらぬ記事にぼやきを漏らした。
それにしても仏壇の手首と『手をくれ面』。結びつきそうで結びつかないこの二つをどうさばけばよいものか――宙を睨み思案に暮れていた流介の耳に突然、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「ほほう、月より明るい灯篭ですか。そいつは面白い。詳しく聞かせてもらえませんか」
朗らかな大声が室内に響き渡り。流介は思わず椅子から腰を浮かせた。
「詳しく話せと言われても……今思うと近くの家の灯りだったかもしれませんし」
身を乗り出して詰め寄っているのはわが社と契約している通訳、水守天馬だった。
そして詰め寄られて逃げ腰になっているのは、主に記事の直しを担当している佐和という若い女性社員だった。
「天馬君、今、原稿のまとめに入っているんだ。少し声を小さくしてはもらえまいか」
「ああすみません飛田さん。こちらの佐和さんが七夕の夜に面白い物を見たという物ですから」
「……面白いかどうかわかりませんよ」
佐和は天馬の期待から逃れようとするかのように、言い放った。
「いえいえぜひ、お聞かせください。…そうだ、飛田さんも加わってくださいよ。記事が一本、書けるかもしれませんよ」
英国風の身なりに年齢不詳の美しい顔を乗せた通訳は、呑気な口調で流介に加勢を求めた。
「いや僕は今、『手をくれ面』という怪人についての記事をだね……」
「怪人?手をくれ面?なんですそれは」
美貌の青年は流介の「怪人」という言葉にいたく興味をそそられたのか、くるりと身を翻すと流介の机に近づいてきた。
「ま、待ちたまえ天馬君。僕もまだ話の中味をきちんと理解しきっていないのだ。いずれまとまったら話そうじゃないか」
流介は目を輝かせてやってくる天馬をどうにか追い返そうと及び腰を強調したが、浮世離れした青年は遠慮するどころか「まとまっていなくて結構です」と食い下がってきた。
――やれやれ、大変な人物に聞かれてしまった。
流介はこっそりため息をつくと、日笠から聞いた話を大急ぎで思い起こし始めた。
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