第34話 ハインツ

 奴がオレ達を連れて来た場所、それは祠と呼ぶにはあまりにも巨大だった。装飾が施されていなければぽっかりと口を開けた、ただの岩山にしかみえない。


「・・・おい、ハインツよぉ!お前あれだろ、実はやっぱりこの中は工場で、ソースの瓶詰め要員が足らねぇから連れて来たんだろ!」


 奴はオレの言葉を無視して祠の中へと進んで行った。通路の向こうがほのかに明るく光がもれている。部屋かなにかがあるのだろうか。それはハインツが近づくとまるで招き入れるかのようにアイツを包み、そして吸い込まれるように消えた。


「おい!!まてよ!!・・・これは!?いったい・・・」


 ハインツの後を追い光の中へ入ると、目の前に広がる光景に呆気にとられた。

 風がそよぎ、鳥たちは歌う。足元には優しい色合いの花々が咲き乱れ、蝶が艶やかに舞う。そこは外からは想像もつかない程広く・・・というよりは、色彩豊かな野山そのものが広がっているではないか!

 ここはさっきの岩山の中なのか?いや、外なのか??全く見当がつかない!!

 オレはただ、呆然とするより他なかった。

・・・コレは・・・魔法!?いや、もっと、こう・・・そう・・・母親の胎内のような柔らかな懐かしさ・・・。


「フフフ。ルイ君。口を閉じたらどうだい?・・・さてと・・・。早速なのだが先ずは質問だ。

 ルイ君、リン君。君達は“竜飼い”なのかい?」


 ほぼ中央で待ち受けるハインツが意味深長な質問をしてきやがった。


「みりゃ、わかんだろ!お前アホなのか?」


「わからないから、聞いているのだよ?私は、この世界の全ての竜飼いを知っている。でもね、なぜか私は君達をいつしかからという存在でしか知らないのだよ」


 「お前、なに言ってんだ?全ての?はん!そんなことあり得な・・・」

「竜飼いは、この私が選んでいるのだ。私が相応しいと思うヒト族に竜を授け、使命を与え、忠誠を誓わせ、それで初めて竜飼いとなるのだ。そして私は、あの街より以前に君に会った覚えは、無い」


「オレだってお前なんかに会った覚えもないわ!!会いたくもねぇし!!」

「ボクも!!アンタ、なんかムカつく!!」

「それだよ!なんかムカつくな!!だいたいよ、オレとリンは昔っから一緒にいるんだよ!・・・昔の記憶は無いがとにかく昔っからだ!!オレ達はなぁ、竜飼いの前にダチなんだよ!パートナーなんだよ!いや、互いに夫婦、っつーくらいな仲なんだよ!!」

「そーだ!そーだ!ボク達は心で繋がっ・・・夫婦!?・・・いやん♡」


 はっ!!まくし立ててやったぜ!!どうだこの野郎!文句あっか!?


「ふぅー・・・。なんて下品で粗野なのだ。その中指を立てるのは止めたまえ。

・・・やはり、まあ、あり得ないが、私が忘れている訳ではないので安心したよ。私が君のような者を選ぶ筈が無い。

・・・そもそもキミは、ヒト、なのかい?それを確かめる為に君達に近づいたのだけれど、まあ、あの時の君達は取るに足らない存在ではあったからね。あえて体よく断られてあげたのさ」

 

 つくづく嫌な野郎だ。な~にが「ヒトなのかい?」だ!!ちっ!前に女どもがオレの事「オッサンという生き物」とかぬかしやがったの覚えてやがるのか。


「第一お前は何なんだよ。何様のつもりだ!?私が選んでる?意味わっかんねぇーよ!!さてはギルドのお偉いさんか??」


 ふと、セリセリ達が見当たらない事に気がつく。


「おい、あいつらどうしたよ!?何かしたか??だとしたらテメー、ただで済むと思うなよ!?」


 コイツと話していると本当にイライラする。マジでなにかあったら命乞いしてきても聞いてやらないレベルで叩きのめしてやるぜ!!


「ああ、あの娘達は、此処で私に会う資格がないからね。他の部屋で待たせているよ。なに、心配は要らない。私の子を一人、あてがっておいた。今頃はお食事中かな?あの子は一番料理が上手なんだ」


 ワタシの、子??言っている意味がわからねぇが、とりあえずあいつらが無事ならそれでいい。


「あのな、オレはテメーが古の竜を知っている、つーから付いてきたんだぜ!?悪ぃ~が帰らせてもらうわ。知らねぇんなら知らねぇでいい。そん代わり二度とそのツラ見せんな!じゃあな!!」


 コイツとはもう関わり合いたくないぜ。心底イライラさせやがる。お蔭様で、背中が少しヒリついて来やがった。


 「フゥー。やれやれだね。まるでチンピラだ。キミ、馬に乗ったら煽り駆けるタイプだろうね」


 人を小馬鹿にしながら、少し開けた場所へ進んで行った。そこでアイツはヒレヒレのついたブラウスのボタンを上から一つずつ、ゆっくりと外し始めた。


「なにしてんだ!?テメエ・・・あ!!おい!よせ!!!オレは汚ったねぇもんなんか見たかねぇ!!」


 アイツが腰のベルトに手をかけ、ズボンまで下ろそうとするのをオレは必死に止めた。

・・・だがアイツはお構いなしにベルトを引き抜きやがった!縛り付ける物のなくなったズボンはスルルと脱げ落ちる。

 オレは思わず剣の柄に手を掛けた。


「フフフ。汚いとはずいぶんだな。これでも容姿には自信があるのだよ?慌てず良く見たまえ。・・・私は、メスだ」


 「・・・は??メス?女??」


・・・なんてこった!マジだ!

タタタタ・・タマがねえ・・・!!チ・・・チンも・・・!

 オレが素っ頓狂な声を上げたのをニヤニヤしながら見下し、ブラウスを脱ぎ捨てた。

 そこには小ぶりだが上品な、お椀型のおっぱいが!上向きについた乳首は、遠目でも判る程ツンと張り詰め、天を突いている。


「あああっ♡久しぶりなので興奮してしまうよ!!」

 

 両の胸の乳首に人差し指を掛けもみしだき「んっ」と声を漏らす。

 そんな甘い声とは裏腹に、長い髪の毛かザワザワ逆立ち、オレを睨みつけいるかのようにスゴい顔つきで・・・顔つき・・・ってか、顔そのものが・・・あれ?体つきも??


 ミシミシッ!

 メキメキ!!


瞬く間に音を立てながら物凄い勢いで巨大に変化していく!!

 全身を業火を思わす真紅の鱗が覆い、前向きに二本の角が伸び始め、片翼だけでもキャラックの帆よりもデケぇ翼、一薙ぎで大木二、三十本はいけそうな尾がズシンと地を這う。

 ヤベェ!デカいッッ!!とびきりデカい“竜”だ!!

思わず2、3歩後ずさりするが、小石に蹴つまづき尻餅をつく。


「ン、フゥ~~」


 変身を終え、顔を近づけてきたハインツの鼻息で飛ばされそうになる。


「フフッ。キミの驚いた顔は、いいね。クセになりそうだ。・・・ああ、この姿に戻るのは久しぶりだな。遙か昔から、ずっと女神の使命で各地を放浪としていたからね」


「女神!!・・・ハインツ!まさかお前が“古の竜”なのか!?」


アイツは口角を上げ牙を剥き出しニヤリと笑った。


「そうなるかな?ただ、いにしえの~と言うよりは“祖竜”と言うほうが正しい。ワタシは、女神により創り出されし竜の始まり。そしてこの世に存在する竜は全てワタシの子」


 そんな、まさか、まさか、こんなにも呆気なく女神への手掛かり“古の竜”に会えるとは!!ハインツが、アイツがそうだったとは!!

リッチェ!もう少しだ!!

 料理を運びながら、ふり向き微笑むお前の顔が、今もありありと思い出せる!ああ!先ずはお前の運んでくるビールで乾杯だ。

 ・・・ダイアン夫婦のデケぇ声!

 ・・・ブリックの野郎、元気かな?

 ・・・ジョアは、気まずいな。

あ・・・なんだ・・・これは・・・?

やたらに地面が遠い・・・何かが滴り落ちている・・・ケチャップ・・・じゃあないな・・・オレ?から・・・!?

 どうやらハインツに喰われたらしい事を把握した時点で、オレの体は二つに分かれた。

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