5章 涙鱗の物語

第33話 案内人

「おお~い!!はぐれんなよ!!

 アアアアッッ!!顔が痛ぇッッ!!

コイツァ、降りすぎだ。降りすぎ~モンプチってやつだな!ハハッ」


 吹きすさぶ雪の中、みんなを渾身のギャグで元気づけてやる。が、笑いの返事が帰ってこない。代わりにこの吹雪よりも冷たい視線が帰って来やがった。ま、この状況だし仕方ねぇかな。

 

「ンナァ、アイツも一応ヒトだよナァ。いくら手がかりが掴めたからって、あんな話聞いてもつまんねぇ~事言えるのはアイツぐらいなモンなんでねぇかナァ。むしろ尊敬するナァ」


「ああ??なーんかいったかあ~~!?

でっけえ声でしゃべんねぇと聞っこえねぇよ~!かあああっ!!さみい!!耳、もげるつーーの!!お?ミミモゲルって誰かの名前みてぇだな!!」


「ルイ。元気が空回りしてるよ?痛いからやめよ?ね?」


「はん!違います~。お前らが楽しむ心をどっかに落っことして来ちゃたんです~!」


「しら~。 

・・・ねぇ、ギグさんの言ってた道、これでホントに合ってるの?間違ってたら凍死しちゃうよ!?そしたらボク


「アハハハッ!!うん!リンちゃん面白いよ!やるね!!」


「クソぅ!ヒイキだ!!グレてやる!!」


 理不尽に耐え、頑張るオレの背中に容赦なく雪が吹きつけてくる。


「しっかしよぉ、魔獣ってのも結局は女神が各地に配置した警備兵みたいなモンで、自分で造り出しといて勝手に“魔”って名前付けて「私、悪くないもん」みたいな感じだってんだろ?たいしたもんだよな。そんで今は役目も無く野放し放置のホーチンチンってよ、片づけろって話だよな!

まあ?これからお世話になりますから?あんまり悪く言いたかねぇけど」


「ああ、こないだの森の“巨竜の寝床”とか名前の付いてる場所って、そういうことなんだね」


「だな。地図はみょ~に詳しく書いてあるし、ギルドの連中がヒト以外に寛容じゃねぇってのもガテンがいったぜ。きっと女神全盛時代に出来たマニュアルみてぇなのがあんだろうな」


 「なぁなぁ!巨竜っていえば、これから会いに行く“祠の古竜”はさ、やっぱデッカいんだろうな!!」


「んー、連れてけねぇ、って位だからやっぱしでけぇんじゃね?」


「そいやリンちゃんていくつ位なの?」


「んーー・・・。ワカンナイや。なんかよく分かんない。前も言ったかもだけど、いつからルイと一緒なのかも分かんないし。自分の事よく知らないけど、それはルイもだから気にならないんだ」


「そっか!なら、分かんなくてもいっか!」


「うん!いっか、いっか♪」


「おお、そうよ!いっかよ!ルイ一家!ファミリーだもんな!!」


「あっはっは!!ルイ!気温以上に寒いな!」


「ンナァ・・・おっさんダァ・・・オイラだったらずっと一緒は嫌かもナァ」


「いいとこもある・・・の!たぶん、ある!」


「にしても、さっみい~~なっ!!何も見えねぇしよ。

 ♪や~ま~にゃ城がねぇ~

 朝風呂浴び~ぃてぇぃ~~♪

ってかあ??」


「滑ってるのはスキーじゃなくてルイだね♪」


「やかましわ!!」


「ね、シグさんの愛したヒトってさ、もしかしてモモさんじゃないのかな!?魔法かけられて長生きだって言ってたし、最後ギグさんが鈴がって!なんかさ、思いがとどかなくても傍に居続けるなんて、ロマンチックだよね!

いいなぁ~!!いいなぁ~!!」


「うん!わかるなあ、その気持ち!!

私も、焼き鳥食べたかったのに店閉まっちゃってた~!ってとき、次の日開くまで待つことあるからな!」


「ンナァ~~!!焼きと~り~~!!ルイのおっさん!腹減ったナァ!!」


「いいなぁ~。ロマンチック!いいなあぁ~」


女、子供はどうしてこうも姦しいんだ。


「・・・がたがた言ってねーで、さっさと歩け。でねぇと日が暮れっちまうだろーが!暗くなったら、マジで死んじまうっつーの!なんか薄暗くなって来たしよ!!」


「がたがたとはなんだよっ!いいじゃん!!ロマンチック!!

・・・そりゃルイはウキウキだろうけど、ボクはさ、あんまり面白くないの!!バカ!!とーへんぼく!!」


「おま・・・!!バカとはなんだよ!馬鹿とは!お前、馬鹿馬鹿言い過ぎなんだよ!

それにぃ~、馬鹿って言ったヒトが馬鹿なんです~!だからお前がバカ~!!」


「カッチ~ン」


「ボクッ」リンの野郎がオレの顔めがけて頭突きして来やがった!


「ちきしょう!やりやがったなあ?よ~し!!倍にして返すぜ!!チンだ!ボディだ!ボディだ!チン○だ!!」


「無いもん!!ガブッ!」


「いててててっ!頭噛むな!ハゲる!ハゲるっつーの!!」


吹きすさぶ雪の中を、殴り合ったり噛みついたりしてケンカする。

(・・・そういやぁ、こうやってケンカするのは久しぶりだ・・・。あの日以来ずっと、心の何処かが死んじまってたからな・・・。

・・・ちょいと痛ぇが、楽しいぜ?リン、お前もか・・・?)


「うん!うん!仲が良き良き♪

・・・うん?・・・おい、二人とも!バカやってないでさ!なんか、誰か来っぞ!?真っ黒の、雪でよく見えねーけど・・・。うん!五人だな。間違えじゃないぞ!?だからって!

ははっ!なんかルイのが移ってきたな!!

う~ん。あれだ、遠くで見るとコンブと焦げた焼き鳥みてぇーな感じだな」


そのコンブみたいなヤツらは近づいてくるにつれ、だんだんと輪郭をはっきりとさせてきた。コンブ、というかオレから言わせてもらえば細長いゴキブリだ。ソイツらは真っ直ぐオレ達のところへやって来た。


「やあ、久しぶりですねルイ君。かの街ではお世話になりました。

貴方がたはどうやらお元気みたいですね。仲間も増えたようでなによりです」


 クソッタレ!やっぱりコイツか!!なんでまた、よりによってこんな時にこんな所で嫌な奴に遭わなければならないんだ!!

 ブリックのヤロー、もっとコテンパンに足腰立たなくなる位こき使ってやれば良かったのによ!!


「わたくしは、あんな生き物と一緒になんてイヤですわ」「私も」「鼻血など垂らしていて汚らしいですわ」「シャツもボロボロ」「あら?スカーフだけは綺麗にしていらっしゃるのね」「でもやっぱり全体的に汚らしいですわ」


・・・もう、どうでもいい。ホントにうっとうしいな、この取り巻き共は!!


「で?何の用だ?オレは今忙しいんだよ!

出来れば早めに失せてもらえるかな」


「ずいぶんご挨拶ですね。せっかく私自らがわざわざ迎えに来たというのに」


「ハインツ様に対して無礼ですわ!」「無礼ですわ!」


・・・迎えに?なに言ってんだ?こいつ!

女共もうるせーし、シカトだな。


「君は、古の竜の祠へ向かっているのだろう?そうならば付いてきたまえ。違うのならば、そこにいたまえ」


「なんでお前が知っているんだ!?

・・・怪しいぜ!!お前、本当にハインツか?連れの黒い竜はどうした!?あと、女が二人足りねぇ。祠だぞ?上手い事言って調味料工場に連れてくんじゃねぇだろうな!」


アイツはニヤリと笑い、取り巻きの女共と踵を返し、吹雪の中へ消え入りそうになった。

 何故だか不思議と付いていくのが当たり前のように思え、オレ達は慌てて後を追う事にしたのだが、やはり、なにかへんだ!

(あいつらの足跡、雪に沈んじゃいない!浮いてる・・・のか?)

疑念は沸いてくるが、とりあえず付いて行ってやろうじゃないのさ!

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