第15話 城下町
サイラスに連れられて行ったオルグレン王国の城下町は、レオドル王国のそれとはまた違った賑わいを見せていた。
「何でも好きなものをプレゼントするよ」
「結構です」
「結婚を約束した仲なんだからいいじゃないか」
「約束なんてしてませんから」
わたしが言い返したにも関わらず、サイラスは笑っていた。
どこまで本気なのかわからない。
しばらく歩くと、人が集まって何やら騒いでいるのが目に入った。
「どうしたんでしょう?」
その騒ぎの輪に近づくと、どうやら小さな男の子が兵士に怒鳴られているようだった。
「どうしてくれるんだ! 泥なんかつけやがって!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
男の子は一生懸命頭を下げて謝っているのに、兵士は許そうとしない。周りにいる大人たちも誰も男の子を助けようとしない。
わたしが男の子の元に駆け寄った時、兵士が男の子を蹴ろうとした。
思わず男の子を庇うように盾になる。
「何だお前!」
サイラスが兵士の足を払っていた。
ちょうどその時、騒ぎを聞きつけたのか、兵士の上官らしき男がやって来た。
「何をしている?」
サイラスは男を睨むと言った。
「こいつはお前の部下か?」
「なんだ貴様」
「所属は?」
「お前に名乗る謂れはない」
気がつくと、さっきより多く人に囲まれている。男の子はずっと泣いたままで、それを庇うようにわたしがいて、更にそれを庇うようにサイラスが立ちはだかっている。
上官にあたると思われる男は、状況が飲み込めないまでも、兵士の方に非があったことを察したのか、「行くぞ」と一言だけ言って、騒いでいた兵士を連れてこの場を去って行った。
「顔、覚えたからな」
後ろ姿の男たちにサイラスが言った。
「危ないことやめてください」
「あいつセシリアを蹴ろうとした」
「それでも、です。あの人剣を持ってたんですよ」
「わたしも持っている」
サイラスが自分の剣をわかるようにわたしに見せた。
だからと言って、なんて無茶をする人なんだろう。
わたしは泣いている男の子に声をかけた。
「大丈夫?」
「僕は大丈夫。でも……」
カゴの中に入っていたであろうリンゴは、一つ残らず地面に転がっていて、泥にぬれている。
わたしはそれをひとつひとつ拾いながら、サイラスに言った。
「やっぱり、わたしプレゼントが欲しいです。このリンゴを全部わたしにプレゼントしてくださいませんか?」
サイラスは、にっこりと笑った。
「ダメだよ、お姉ちゃん、泥だってついちゃったし、落ちた時傷もついてしまってる」
「わたしはこれがいいんです」
サイラスが男の子に言った。
「全部でいくらになる?」
「120ペイです」
「わかった。じゃあこれで」
サイラスが男の子にお金を渡した。
「これだと、僕、お釣りを持っていません」
「いいよ、お釣りは。怖い思いしたんだからそのお詫び。お礼はこのお姉さんに言いな」
「ありがとうございます!」
「それ、城まで持って来れるか?」
「はいっ」
「じゃあ、城に着いたら、ライナスってやつを呼んで、お友達のサイラスが買ったものだ、って言って渡してくれるか?」
「わかった。ありがとうございます!」
少年が笑顔を向けた。
この国の貨幣単位を知らないわたしは、サイラスがいくら渡したのか全く想像もつかなかった。
プレゼントして欲しいなんて言っちゃったけど、良かったんだろうか?
「あの、サイラスごめんなさい」
わたしが謝ると、サイラスはその綺麗な顔に笑みを見せた。
「未来の奥さんは勇敢だけれど、危なっかしい」
もう……反論する気にもなれない。
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