第181話 学園祭 その2⑦

 私はステージ袖に残り、芹葉は滝沢さんとステージ正面に回った。

 ステージは緞帳が下りていて、出場者は下りた緞帳の裏に既に並んでいる。勿論、その様子は袖にしか見えない。

 ついでにステージ前の生徒は皆床に座っている。 


 司会者がマイクを持って、緞帳前に立った。


「レでィース、あ———んd、ジェントるメ———ン! 今年もやって参りました、伝統の『ミス新川学園コンテスト』。 今年の司会進行を務めます、わたくし、『北条ほうじょう めぐる』と申しまーす。よろしく ——— !」


 ”パチパチパチパチ…”

「うぇーい!」

「ヒューヒュー!」

「待ってましたー。」


 観客はやんややんやと盛り上がる。

 そして、緞帳が上がり始めた。

 タイミングを見計らって、司会者は進行を進めた。


「刮目せよ! 今年の出場者は ——— ! この六人だ ——— !」


「わああああああぁぁぁぁぁ——— 」

「おいあれ」

「やっぱ出るんだ……」

「なんか浮いてるぅ」

はっず!「恥ずかしい」の意


 歓声と同時に会場が騒ついた。

 当然、皆、翠を指し騒ついていた。

 出場者の中で翠だけが普通なのだ。普通なのだがそれがこの場では異様に浮いていた。

 でも去年、芹葉もこんな感じで出たような……何が違うんだろうね。

 周りの声は治る気配は無い。


「あの子が真壁君の彼女でしょ?」

「ちょっと、私の方が絶対可愛いって」

「彼女、負けたら別れるんでしょ? 既に負けてんですけどぉ!」

「ただの真面目ちゃんじゃん」


 翠に対する声はステージ袖まで聞こえている。その声を聞き、私はこの後の展開を想像して鳥肌が立ってきた。

 司会者は一人一人学年とクラス、そして名前を呼んでいった。


「エントリーナンバーいちばーん 2ねーんCクラース さくらぎー すいー!」


 翠は呼ばれると、軽くお辞儀をした。

 深くお辞儀をすると、ズラが落ちちゃうからね。

 会場はあまり盛り上がらず、ヒソヒソ話が聞こえている。


「エントリーナンバーにばーん 2ねーんCクラース みさきー とーこー!」


「きゃー!」

「かわいい———♪」

「エロいぞー!」


 次々名前を呼ばれ、ギャル子達は派手なギャルっぽいポーズで会場を湧かせている。

 ステージ袖から観客席に目をやると、2-CとDの一部の子達はニヤニヤしている。翠の素顔が楽しみのようだ。実は私もニヤニヤが止まらないでいた。


「それでは皆さんには、一度、舞台から下がって貰いましょう。今回の出場者は、なんと、全員、2-Cからの出場となりました。どうやら、学校一のオシャレグループと言われている彼女達が出場すると言う事で、皆、エントリーを控えてしまったようです」


 舞台では進行が進んでいる。

 出場者が袖に戻って来た。

 私は翠の表情に目をやる。笑顔だ。大丈夫のようだ。


 ギャル子[多分A]が話しかけてきた。


「あんたら笑ってるけど大丈夫? 会場の雰囲気で負け見えちゃって可笑しくなった?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっとこの後の展開考えたら、顔が笑っちゃって……」


 ギャル子[多分A]は、そんな私達を気持ち悪そうな顔で見て、ギャル子達の元へ戻った。

 その顔、これから親友になるかも知れない相手に向かってする顔じゃ無いよ。コイツらにとって親友ってなんなんだ?


「それでは、これから、出場者には自己アピールとして、何か、パフォーマンスをして貰います。では、早速、エントリーナンバー一番、桜木翠さんに登場して貰いましょう。どうぞ!」


 翠が呼ばれた。

 ステージ中央には、スタンドマイクが一本立っている。


 翠はそこにスタスタ歩いていった。

 マイクの前に立つと、ゆっくり会場を眺めた。



 ※  ※  ※



「一番最初に翠ちゃんか……なんかこっちが緊張するよ」

 

 ステージ正面に私は滝沢さんと並んで座っていた。流星君と座ろうと思ってたけど見失ってしまった。

 ついでに、この会場には中等部の子もいる。着席はバラバラだ。なので高等部と中等部の子が入り混じって座っていた。


「——— エントリーナンバー一番、桜木翠さんに登場して貰いましょう。どうぞ!」


 翠は緊張する事なく、ステージ中央までいつもの歩調で出て来た。そしてマイクの前に立つと、周りをゆっくり見渡した。

 真壁君を探しているのかな?

 会場では、ヒソヒソと色んな声が聞こえている。


「あの子大丈夫なの?」

「あれで良く出ようと思ったね」

「ないない」


 会場が騒つく中、翠はすこし勢いよく、元気な感じで話し始めた。


「2-Cの桜木翠です。いきなりですけど、始めに、学園長、教頭先生、三越先生保健室の先生、有り難うございました。以前、お話したとおり、このとおり大丈夫になりました」


 翠はそう言うと、頭を押さえながら少し深めのお辞儀をした。

 観客は「何の事だ」と騒ついている。


「それから、皆さんもご存知のとおり、私には真壁宗介という、凄く格好いい彼氏がいます……えーっと……宗介、手上げて」


 翠の言葉に、皆がキョロキョロする。私も一緒にキョロキョロする。

 結構、後ろの方で手を振っているのが見えた。


「ありがと。やっと見つけた。えーっと、彼と私、皆さんご承知のとおりラブラブです。ここ最近、ウザいと思ってる人も沢山いると思いますけど、ラブラブです。なんで、こんなカッコいい男の子に、こんな芋っぽい女が彼女なんだって声も聞こえています」


 客席からは「自覚してんじゃん」なんて声も聞こえてきた。


「それから、噂話も色々聞こえてます。今回のコンテストに関する噂も聞いてます。ちょっと尾ひれが付いてましたけどね。でも、それ以上に皆さんが、一番知りたがっている事。それは、多分、メッセージアプリで拡散されてる、写真の女の子の事ではないでしょうか?」


 翠の一言に、会場中が一気にざわついた。


「写真には、彼、宗介ともう一人、この学園の制服を着た、誰も見たことが無い謎の女の子が一緒に写っています。その画像は、何回か皆さんの元にもメッセージが届いたと思います」


 会場の騒つきは大きくなった。


「あの写真が出回った時は、『この子は一体誰なんだ?』『彼氏、浮気しるのか?』そんな声が沢山聞こえてきました。私に、直接聞きに来た子も何人もいます。そして、私はいつも『知らない』と答えていました」


 翠はそう言うと目線を下に黙った。

 そして、再び、前を見て話し始めた。


「今まで私に、写真の女の子の事、聞きにきた人、ごめんなさい。知らないなんて言って、ごめんなさい。本当は、知っていたんです。」


 そう言いながら、翠はゆっくり頭に手をやり髪…ウィッグを掴んだ。


「実は、私だったんです。あの写真の女の子は……私だったんです」


 そう言いながら、ウィッグをゆっくり外し、胸元で両手で持った。






「・・・・・・・・・・・・・・・。」







 ステージ上の強い照明で亜麻色の髪はいつにも増して強い光沢を発し、そして、大きな目があらわになった。

 その翠の姿に、会場にいる全員が……いや、私達を除く全員が一斉に魅入った。

 学園長、教頭、三越先生を除く先生達も全員、魅入っている。

 蘭華ちゃんも絶賛見惚れ中だ。

 昨日、目元だけ見たクラスの子も見惚れている。

 辛うじて意識を保った子は、「完全体やべー」とか言ってる。


「可愛い……」

「……綺麗」

「天使だ……」


 みんな完全に魅入ってしまった。

 みんなブツブツ言っている。正直、ちょっと気持ち悪い。


 ——— 「やっちゃった」って空気だ。翠、コンテストぶち壊した。


「これが私です。お気付きの人もいると思いますが、皆さんが手にした写真、あれは、ただ、私と宗介がデートしていただけの写真です。拡散してくれたお陰で、私達の手元にも写真は来ました。いい思い出が残せました。それと、他人のデートしてる写真持ってても、しょうが無いですよね? だからその写真、みなさん消して下さいね」

「はーい。写真、消しまーす」


 流星君が大きな声で返事をした。

 その声で、皆一斉に我に返った。


「あ、皆元に戻ったみたいだ。戻ったついでに暴露しちゃいますけど、藍ー、奈々菜ちゃーん、いたら手ぇ上げてー」

「「はーい」」


 ツインズは会場の真ん中らへんに座っていた。

 そして会場が響めく。


「何? なんで藍ちゃん?」

「奈々菜ちゃんと……あれ?」

「桜木……あー!」


 会場の響めきが大きくなる。


「気付いた人もいるようですね。えっと、桜木藍は私の妹で、真壁奈々菜は私の彼氏、真壁宗介の妹です」


「えええええぇぇぇぇぇ———!」


 会場が驚きの声に包まれる。

 

「妹達のこともこれからも宜しくお願いします」


 そう言って、翠は笑顔になると、また皆魅入ってしまった。


「あ、それから、今日の制服……うーん、ファッションなんですけど、一応、このコンテストって『ミス新山学園』じゃないですか? やっぱりウチの高校って校訓にもあるように『清廉潔白』が校風にピッタリだと思ったんです。なので、しっかり着込むことで、清廉潔白さを表現してみたんですけど……どうですか? えへ♡」


 そう言って、ちょっと可愛らしく首を傾げながら、可愛らしくポーズを取る。

 再び、皆あっちの世界に行ってしまったようだ。


 正直に言う、私もあっちの世界に跳びたい。



 ※  ※  ※



 こちらステージ袖の江藤来羅です。

 ギャル子の皆さんですが、翠がウィッグを外す前までは、「ラブラブとかうぜー」「噂、自分で広めたんじゃねーの?」なんて事を言っておりましたが、ウィッグを外した瞬間から、様子がおかしくなりました。


 ちょっと声を掛けてみたいと思います。


「おい、お前ら大丈夫か?」

「え? あ、はい」


 だめだこりゃ。

 あーあ、だから順番変えてって言ったのに。

 彼女、最初に出しちゃ駄目だって。

 ギャル子達は全員、目が点になっている。


 一通りのパフォーマンスをした翠は、客席に笑顔で手を振りながら戻ってきた。

 

「らいら——— 。 “ぎゅ„」

「おつかれ——— 。 “ぎゅ„」


 お互い抱き合った。


「どうだった?」

「うん、よかったよ。皆、翠に魅入ってたね」

「ちゃんと私の事見てくれたかな?」

「大丈夫じゃ無い?(←安心の意)」


 私は袖から客席を覗いた。


「大丈夫じゃ無い!(←ヤバい意)」


 皆まだ惚けている。

 司会者も惚けている。

 進行が止まった。


「司会者! しっかり!」


 私が声を掛けると、我に返った。


「あ、はい! 失礼しました。えー、エントリーナンバー1番、桜木 翠さん、有り難うございました。いやー、驚きましたね。あの写真の謎の美少女が、彼女だったなんて。しかもあのツインズが幻のカップルの妹さんだったとは……声も出ませんでした。では、続いて参りましょう! 続きまして、エントリーナンバー2番、三崎塔子さんどうぞ!」


 ——— これ以降の出場者については、もう語るのも可愛そうなのでミスコンの話しは終わりにするよ。

 結果は……言わなずもがな。

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