第180話 学園祭 その2⑥

 ——— 文化祭当日を迎えた。


 黄色の基調で装飾された教室は、如何にも「カレー屋さん」といった雰囲気だ。

 一品、既にダミーで調理した物を廊下に置いてる。

 香りで集客する作戦だ。


「ギャル子五人、来て無いね」


 昨日、謝罪に来た舞倉まいくらさんは、今、私達と一緒に配膳の準備をしている。


「舞倉さんは、ここにいて大丈夫なの?」

「うん。後でトーコ三崎達に何かされるかも知れないけど……今は学園祭楽しみたいしね」

「コンテストは?」

「勿論、棄権するよ。昨日の桜木さんを見たら、江藤さんが言ってた事も理解できたし……しかもあれで完全体じゃ無いって……」

「ちょっと、どっかの宇宙人のボスみたいな言い方ー!」

「あはは、ごめんごめん。」

「しかし桜木の顔……痛っ!」

「バカッ!」

「……悪りぃ」


 男子が話しに入って来たが、隣にいた女子が脛を蹴って話を止めた。

 昨日、私は配膳係の人にだけ前髪をあげて、目元だけはっきり見せた。

 みんなは「可愛い…」「可愛過ぎる…」と口々に驚いていたけど、来羅は「写真と生じゃ全然違うし、これで30%だから」と、意味不明な事を言っていた。

「コンテストで完全体になる」と言い、それまでは皆に内緒という事で念を押した。

 

 ——— 時間になり、校内放送が流れた。


『只今より、新山学園文化祭を開催します。』


「おおおおおおぉぉぉぉぉ——— !」

“ガンガンガンガン…”

“キンキンキンキン…”

”コンコンコンコン…”


 色んなところから叫び声と、物を叩く音が聞こえた。

 毎年、開催時は叫び声をあげ、物を叩いて音を出す。

 本校文化祭の名物の一つだ。

 ただ、校外に聞こえているかは謎だ。

 文化祭も開幕し、一般客が校内に次々と入って来た。

 今日は土曜日なので、人の入りはそれ程でも無い。

 団扇を仰ぎ、カレーの香りを廊下に広げ、来場者の食欲を誘う。

 今日は休憩、一切無しだ。

 教室内でこまめに休憩を取るという事で計画している。

 来羅が言うには「明日、半日は暇になる」と言う事だ。

 お昼時間が近づくに連れ、客足は伸びた。

 そして、学校一、二の美少女二人とイケメン二人芹葉と来羅、そして宗介と柳生君の存在が噂を呼び、更に客足を伸ばした。

 そして、お昼直前、教室前はかなりの行列になっていた。


「2番テーブル甘口一つに辛口三つ」

「6番テーブル中辛二つ」

「お冷や1番まだ行ってない」


 配膳係も二台の電子レンジもフル稼働だ。

 炊飯器も時間差を付けて3台で炊いている。


 因みにレンジも炊飯器も芹葉が何気なく持って来たものだ。当然『フカガワ電気製最新の家電』だ。

 今日の一般公開は三時までで三時になったら一般客は退出となる。

 そして、三時半からミスコンが開催される。

 ミスコンは、学校関係者のみで行われる。

 観客も、生徒と先生のみだ。


 出場者はそれなりに着飾ってOK。

 ただし、服装は制服ベースで装飾可。装飾は校則無視してOK。化粧もOKだ。


 自己アピールという事で、ステージ上で必ず何かをする。

 歌を歌っても良いし、楽器を弾いても良い。

 昨年の芹葉は英語の先生と英会話をしていた。

 採点は、先生含む全校生徒による投票だ。


 二時半になり、私は教室を離れて、ミスコンの準備に取り掛かった。

 と言ってもウィッグを外して化粧をするだけなんだけどね。


 場所は2-C、Dの準備室に着替え用の目隠しを作っていたので、その中でやった。


 制服を特別飾る事はしない。

 寧ろ、締めるところを締め、しっかり着込もうと思っている。

 髪はサイドにバレッタを着ける程度だ。


「翠、出来たー?」


 来羅が様子を見に来た。


「こんな感じでどう?」

「あなたの場合、どんな感じでもOKだから返事に困っちゃうのよね」

「えへへ、ありがと」


「今回は……真面目美少女って感じかな?メガネ外すの?」

「メガネはこのままで行こうかなって」

「この制服の着こなしなら、その方が良さげだね」

「ところで、ギャル子達は?」

「翠と入れ替わりで、教室に入って来たよ。皆ブーイングだったけど、あいつら『翠のせいでやる気無くした』『翠が悪い』って言ってたわ」

「言わせておけばいいね。舞倉さんは何か実害あった?」

「無視されてたね。舞倉さん自身にダメージは無いみたいだから大丈夫じゃないかな?」

「なら良かった」

「それじゃあ、そろそろ時間だから行こうか!」


 私はウィッグを直ぐ脱げるように簡単に被り、来羅と二人、体育館に向かった。



 ※  ※  ※



 ——— 体育館の入り口に着くと、宗介と柳生君、そして、芹葉と蘭華ちゃんが立っていた。


「気分は?」

「大丈夫。緊張はしてるけど」

「発作、再発したら駆けつける」

「ありがと。でも大丈夫。ちょっとワクワクしてるから」

「楽しんできな」


 そう言って、宗介は私の頭を優しく抱き寄せた。


「うん」


 宗介から離れると、蘭華ちゃんが居た堪れない感じになっていた。


「この子ら、これが普通だよ」

「この甘さでブラックコーヒー飲めるようになる」

「そして慣れる」


 芹葉と来羅、そして柳生君まで蘭華ちゃんに普段の私達の事を説明している。

 そして、私と来羅はステージの袖に回った。

 袖に着くと、ギャル子達が五人勢揃いして、何やら話をしていた。


 ギャル子達の制服は、ギリギリ原型留めてる? って位に飾ってあり、髪型から制服までギャルギャルしく仕上がっていた。

 正直、誰が誰だか区別が付いていない。

 ——— 三崎さんはどの子だ?


マイ舞倉の奴怖気付いて棄権って、あいつもうハブろう」

「だね。ヘタレは要らない」


 会話の途中、ギャル子[A]が私達に気が付いた。


「あ、桜木来たの? よく逃げなかったね」

「度胸だけはマイよりあるみたいだね。褒めてやるよ」


 ギャル子[B]がマジマジと私の顔を覗き込んできた。


「ん? 何あんた、一応メークして来たの? うっすらチークなんか付けて。オカチメンコにならなかっただけ褒めてやるよ」


 さっきから、私、彼女らに褒められてばっかりのようなんだけど……気のせい?


「ま、あたしら勝ったら、江藤さん親友って事でお願いね」

「いいよ。全然OK。芹葉もいいって言ってるし……そう言えば、芹葉の彼氏、手料理振る舞ってくれるって言ったてね(ウソ)」

「え? 柳生君って料理出来るの?」

「出来るなんてもんじゃ無いよ。何とかのムニエルとか、普通に作っちゃうから(本当)」

「深川さん羨ましい……」

「まずは勝ってからね。絶対無理だけど」


 スタッフ実行委員から、番号札を渡された。

 私は一番だ。

 その番号を見た来羅が、ギャル子達に申し出た。


「番号、取り替えない?」

「何で?」

「だって、翠、最初に出たら勝負、終わっちゃうよ?」

「なら、早く終わっていいんじゃない? でも、結果発表まで、ガクブルしながら残ってないとダメだけどね」


 来羅は腕組みしながらニヤニヤしている。

 かなり意地悪な顔だと思う。


「自分で断ったんだ。後悔しないでよ」

「後悔なんてしないって。寧ろお膳立てしてくれて感謝しちゃうよ」

「そうそう。せいぜい私達の引き立て役になってね」

「それじゃあ皆さん、準備はいいですか?」


 ミス新山学園コンテストの幕が上がった。

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