第132話 素顔のままで①

「翠)そう言えば、パネル出来たって連絡入ったよ」

「芹)そんな話あったね。撮ったのって一ヶ月位前じゃ無かった?」

「翠)うん。正直、連絡来るまで私も宗介も忘れてたよ」

「芹)まぁ、一ヶ月もすればね……で、いつから飾られるの?」

「翠)んとね、週末だって。ホントは秋物並べる八月からの予定だったんだけど、出来が良すぎて今から飾っても問題無いだろうって……ていうか、店長が飾りたくなっちゃったらしい」

「来)へ? それじゃあ今週観に行けば飾ってあるんだ?」

「翠)みたいだね」

「芹)じゃあ、部活帰りに行ってみよっかな」

「来)私は開店時間に行こっと」

「翠)じゃあ、一緒に行く? 私も早く見たいから」

「来)オッケー。んじゃ、ステンドグラス前ね」



 ※  ※  ※


 

 ——— 土曜日。


 私は宗介とステンドグラス前に立っていた。来羅の到着を待っている。

 

「なんかドキドキするね」

「なんだろう? 不思議な緊張感だな」


 ——— 不思議な緊張感……確かにそうだ。自分自身が直接何かやる時の緊張とは違う。

 似たようなのに、第三者……例えば、藍が何か結果を出す時のような緊張感とかもあるけど……それとも違う。


「お待たせー」


 来羅が来た。来羅のコーデはフレアの膝上丈にノースリーブで、ヒールの高めな靴を履いて、『らしい』感じで決まっている。

 因みの私はノースリーブのワンピースでミニだ。足元はサンダルだ。

 宗介は涼しげな格好だ。詳細は想像に任せる。


「翠は相変わらず可愛いなー♡」


 来羅はそう言ってツバで隠れた私の顔を覗き込む。


「えへへ、そういう来羅も綺麗だよ。ね、宗介?」


 私は敢えて宗介に話を振った。なんせ、彼はメガネを掛けてるだけで可愛いと思うくらいのメガネフェチだ。ていうか、メガネ単体が好きなだけなんじゃないの? ってちょっとメガネに嫉妬した時期もあった。


「それ俺に聞く? 翠みたいに可愛い子だったり江藤さんみたいに綺麗な子がメガネ掛けたら一票入れちゃうって」

「何その『一票』って」

「あら? 翠がいるのに私に浮気?」

「イヤイヤイヤイヤ、『可愛い』って思うのと『好き』は別だろ?」

「だってさ」


 私達は真っ直ぐ、ケ・ベッロに向かった。

 多分、宗介はメガネ美少女に挟まれてウハウハなはずだ。



 ※  ※  ※



 ——— メガネ最高♪



 ※  ※  ※



 ケ・ベッロに着い……ん? 到着すると、店の周りに人集ひとだかりが出来ていた。時間的には開店してまだ五分くらいだ。


「なんだろ?」

「何? 此処ってこんなに人が集まる店なの?」

「んーん、正直、この時間に来るの初めてだから分かんないけど、此処まで人集りになってるのは初めて見るね」


 かなりの人が集まって皆、何かに向かってスマートフォンで写真を撮ってるようだ。


「これじゃあ、店に入れないよ……」

「裏から入るか?」


 私達は裏口へ回った。裏口にはインターホンがあり、ボタンを押した。


『はーい、どちら様ですか?』

「おはようございます。桜木と真壁です」

『あらー、待ってたわよ。今開けるわ』


 扉が開き店長が顔を出す。


「いらっしゃ〜い。パネル見に来たのね?」

「はい。表が凄い事になっててこっちに来ちゃいました」

「うふふ、いいのよぉ……あら? そちらの方は……お友達?」

「はい。一緒にいいですか?」

「ええ、勿論! っていうか……」


 店長は来羅を見ると足先から頭の天辺まで隈なく隅々まで見る。初対面には失礼な態度だけど……。


「この子もポテンシャル高いわぁ……モデルやってみない?」

「え? 私がですか?」

「店長、節操無いですよ」

「あらら、失礼したわ。桜木さんみたく可愛らしい子とか貴女みたく綺麗な子見るとちょっと見境なくなっちゃって……御免なさいねぇ」

「流石に翠の後だとちょっと気が引けますね……機会があったらお願いします」


 来羅は店長の誘いを上手く躱した。

 私達は事務室に案内された。


「パネル見て来ていいわよ。外と違って、店の中はガラガラだから、簡単に回れるわよ」

「ありがとうございます」


 店内を歩く。

 店長はガラガラなんて言ってたけど、結構凄い人だ。

 まぁ、外に比べると意外と人が入っていない? そんな印象かな。

 私達は店の出入り口から外に出た。

 外は騒然としていた。

 皆の視線は店の壁に注がれていた。

 私と宗介、そして来羅は視線の先を見る。と言うか後ろを振り返った。

 そこに貼ってあったパネルは、私と宗介がそれぞれに、二種類の服を撮影したモデルの写真だ。

 パネルの背景や隅には「Che bello !《ベッロ》」のロゴが入っている。

 なんか自分じゃ無い感じだ。

 宗介も宗介じゃない感じがする。でも宗介だ。


「翠……綺麗だな」

「何これ……スマホで見たのと全然違うじゃん……」

「ホント……私じゃ無いよこれ……凄い……」


 私は私自身に魅入ってしまった。

 そんな自分が怖くなって思わず宗介の腕にしがみついてしまった。

 宗介も私の手を恋人繋ぎで握ってきた。

 暫くパネルを眺めていて、私はふと思った。


 ——— 皆どんな目で私達のパネルを見てるんだろう?


 私は恐る恐る振り返り、パネルを見る人達の目を見た。

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