第126話 がんばれ!流星君!③

 プリクラコーナーの出入り口の方から俺達の事話す女の声が聞こえた。

 その声に俺と翠は反射的に声のする方に目を向けた。


「やっぱりそうだよ!」


 そこには学園の制服を着た女子が三人、プリクラコーナーの出入り口に立っていた。

 俺と翠は顔を見合わせて初めて『素顔』である事に気付いた。


「——— あっ!」


 完全に油断していた。密室に近い空間が、部屋で二人きりでいる時と錯覚してしまったようだ。


「やばいな。翠大丈夫か?」

「うん、人数少ないしね」

「なんかシャッター音聞こえるな」

「…………ふふふ、なんかこの音聞いたらモデルの撮影思い出しちゃった」

「随分余裕だな」

「だってあれ、気持ち良く無かった?」

「分かる。レンズ越しの視線ってなんか病みつきになる感じだな」

「不思議だね……今受けてる視線と何違うんだろ?」

「不快ではあるんだな?」

「そりゃそうでしょ。断りも無く撮るんだもん。病気じゃなくても不快だよ」


 翠は立ち上がりカバンを手にした。

 俺も遅れて立ち上がる。すると、翠は入り口にいる三人に向かって俺の腕に腕を回して両手で人差し指と中指で「♡」を作ってポーズしている。


「おいおい、随分サービスいいな」

「なんか、写真撮られる事に自信ついちゃった感じかな? あ、撮るの辞めたみたい。魅入っちゃったかな?」


 入り口の三人は、画面を見ず、直接俺達を見て惚けてる。

 出入り口は女子が三人立っているところしかないのでその三人とすれ違う必要がある。

 そして三人の前で陰キャモードになる訳には行かないが……翠は余裕のようだ。なので俺も慌てる事なく、のんびりしていた。


「翠、帽子は出しとけ。三人の死角に入ったらすぐ帽子は被れよ」

「分かった」


 翠は俺の腕に軽く自分の腕を絡め、三人の方へ向かって歩いた。女子三人は俺と翠に見惚れ惚ける。

 すると翠は驚く行動を取った。

 三人の目の前で立ち止まったのだ。何考えてるんだおい!


「ね、お願いあるんだけどいい?」

「え、あ……」


 突然お事に三人は言葉が出ないようだ。


「撮った写真、メッセージで拡散するんでしょ? 折角だから一番可愛く撮れたやつ拡散してね。それ、私達にも届くから……デートの記念。お願いね。それと次はちゃんと断ってから撮ってくれる? それなりにキメるから。よろしくぅ〜」


 そう言い残して、手を「ヒラッ」っと一振りしてこの場を去った。

 振り返ると、三人は呆然と俺達を見送っていた。

 店内で三人の死角に入ると、俺は髪を解き、翠は帽子を被った。そしてそのまま店を出た。


「ビックリさせんなよ! 心臓止まるかと思ったぞ」

「なんか無断で撮られたの癪だったし、それにどうせ拡散されるならと思ってね」

「また写真出回るな」

「今回は完全に油断だね」


 家に帰ると奈々菜が既に帰っていた。


「お帰り。また写真撮られてたね。今度はモロだし、しかも何ポーズ取ってんの!」


 既にメッセージアプリで写真が出回っていた。早いぞおい!



 ※  ※  ※



 ——— 写真が流出した翌日。今日は土曜日だ。


 俺と翠は、とある駅に立っている。

 此処で流星と待ち合わせだ。

 流星達の部活後、勉強会を泊まりで開く事になった。なので時間的には少し遅い時間の待ち合わせだ。

 流星の家はこの駅の一つ手前の駅が最寄りになる。なので、そこで流星は乗ってくるもんだと思っていたのだが、駅に着き、電車を降りたら流星の姿は見えなかった。


「柳生君乗って来なかったね」

「アイツ結構時間にはシビアだからな。遅れる事だけは絶対しないんだよ」

「朝も寝坊せずにジョギングしてるもんね」

「ま、それにまだ時間も早いしな。俺らって目的地で時間待つ派だろ? アイツは出発地点で待つ派なんだろ」

「うー、そういう待ち方私には無理だ。移動中にトラブル有ったらって思うと怖くて出発せずに待つなんて出来ないよ」

「俺もだな。着いた先で余裕を持ちたいよな」


 流星の案内で深川さんの家に行く事になっている。

 深川さんの家は此処から車で二十分と聞いている。結構遠い。

 詳しい場所は聞いてない。バスで行くのか? 

 兎に角俺と翠は流星が来るまで待つしか無かった。


 ついでに俺らの格好だが、俺はいつもの陰キャスタイルだ。翠はパンツルックでウィッグを外したキャスケットオンリースタイルだ。メガネもお洒落メガネだ。

 ちょっと覗き込むと可愛い顔が見える。以前から思ってたが、『隠れた可愛い顔』ってのも唆るものがあって中々いいものだ。


 俺はこの駅で降りるのは初めてだ。というかこの地域に来た事すら初めてだ。翠も来た事がないという……俺と四六時中一緒にいるんだ。俺が行かない所にコイツが行ってるわけがない……いや、病院があったな。

 周りは特に何も無く、少し歩くと高級住宅街になっている。


「休日だからかな? 結構静かなところだね」

「ここって高級住宅街だろ? 深川さんって金持ちなのか?」

「そんな話は聞いた事ないけど……」


 翠は学園の情報通でもある。

 深川さんの話は色々聴こえてくるが、家柄とかの話は一切聞いた事が無いそうだ。

 すると一台のリムジンが目の前に停まった。


「…………なんかすげーの止まったな」

「これでお出迎えなんて言ったら笑ちゃ「よぉ! 早かったな。まずは乗れよ」

「…………」


 車の窓が開いたと思ったら聞き慣れた声がした。そして見慣れた顔が窓から出た。

 見慣れているにも関わらず、目の前の物体と人との関連性結び付かず、そしてギャップが凄すぎて俺と翠はその男の名前が一瞬出て来なかった。


「……りゅ、流星? お前何で……」

「話は後だ。まずは乗れ乗れ」


 以前、早朝3×3をやった時、「リムジンで来た」と言ってたのは冗談じゃなかったのか⁈

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