第127話 がんばれ!流星君!④
勉強会の為、指定された駅で待っていると、目の前にリムジンが止まった。
そして意外にも流星が窓から顔を出し、乗車を促してきた。
リムジンのドアは運転席と車の最高尾、そして、運転席の真後ろにある。
すると、運転手が運転席後ろのドアを開けて『どうぞ』と乗車をエスコートする。
翠は会釈して最初に車に乗り込んだ。俺は後だ。
こんな車……というか『乗り物』に初めて乗る。当然、車内をキョロキョロ見る。
リムジンなんて乗る事は無いと思っていたから正直、実感もなければ感情も全く追いついて来ない。
流星は一番後ろの座席に座っている。俺と翠は横向きに置かれた長いシートに座った。
二人が座ると車はゆっくり走り始める。
「ま、楽にしてくれ」
「楽にできねぇって」
「何これ、流星君の家の車?」
「いや、芹葉んちのだ。流石に俺ん家のは此処までじゃ無い」
俺は以前早朝3×3に誘った時「リムジンで来た」と言っていたのを思い出したが……しかし流星も車の規模に関して微妙な言い回しをする。コイツん家も金持ちなのか?
「朝バスケで『リムジンで来た』って、あれは冗談じゃ無かったのか。こんな車持ってるって深川さん何者よ?」
「まぁ、お前ら二人と同じでアイツも隠し事……いや、極秘事項があるんだよ」
「何だ『極秘事項』って? これから向かうのは深川邸なんだよな?」
「いや、芹葉の家だ」
「ん? 深川さんの家だよな?」
「あぁ、深川芹葉の家な。深川邸じゃない」
——— ???
話が噛み合わない。
俺と翠は顔を見合わせて首を傾げる。その様子に流星が気付く。
「あー、名義が『深川芹葉』の家な。本宅はまた別のところにある」
「……そうか」
やっぱり話が見えて来ない。自分が持ち得る最大の物差しでも測れないと悟った俺は考えるのをやめた。
——— 走る事十五分は経ったろうか?
流星は元々口数が少ないのと、俺達は慣れない環境もあって、車内は沈黙という妙な雰囲気に包まれていた。
車の窓は濃いめのスモークが貼られ、外の状況はよく分からない。すると車が止まって、運転手が車を降りた。
すると俺達が乗り込んだドアが開いて江藤さんが乗り込んできた。
「ったく、ふざけた家だよ」
「こんにちは。どうしたの?」
「私んち、隣っていうか裏の方なんだけどさ、何で歩いて二十分も掛かるの! しかも、この門まででだよ?」
車が動き出した。江藤さんの言葉に窓の外を目を凝らして見ると門のようところを通過した。
「なぁ、今、ゲートっぽいの通過したようだが……」
「あぁ、敷地に入ったな」
——— 車のスピードはゆっくりだが、門を過ぎてから既に一分は走っている。
そして車が止まった。
車が止まるとドアが勝手に開いた。
ホテルで言うところの『ドアマン』が外に待機していて車のドアを開けてくれたようだ。
流星は後部のドアから慣れた感じで降車する。
俺と翠、そして江藤さんは乗り込んだドアから降りる。俺は降りると、目の前の建物を見上げながら車を降り、佇む江藤さんの隣の立った。
デカい! 『家』じゃ無い。『邸』だ。
翠も車から降りると俺の隣に立った。
「何……大きい……お邸だ……」
三人の目の前には白い洋風建築様式の家があった。
その大きさは、偶にテレビで見かける『廃校になった二階建ての小学校』くらいは余裕であるだろうか?
俺と翠はゆっくり建物全体を眺める。
「おいおいおいおい、何だこの家は! そもそも家……なのか?」
パッと見、結婚式場とかのイベントホールにも見える。
階段前には流星が俺達を出迎えるように立っている。そして十数段ほど上がって玄関になる。
玄関の扉は高さ3mはあろうかという大きな両開きの扉だ。
デカい。
その扉が重そうに開くと一人の女性が顔を出した。
深川さんだ。
「いらっしゃい。中入って」
「う、うん……」
流星は慣れた感じで芹葉と一緒に家の中に入る。
俺と翠はキョロキョロ周りを見ながら二人に着いて行った。
こんなところで落ち着いて勉強なんて出来ないぞ。
※ ※ ※
五人はリビングのソファーに座っている。
俺も翠も素顔を曝け出している。
座っているソファーは十人は優に座れる大きさだ。目の前にはテレビが壁に掛けられているが、確実に100インチある。
キッチンでは明らかに母親でも姉妹でも無い女性が、ギャルソンのエプロンを身に付け飲み物を入れている。
冷蔵庫と思われる扉はレストラン厨房とかにありそうな大きさだ。
全てのスケールがデカい!
俺は今何処にいるのか忘れてしまいそうな感覚に襲われている。
「あー……何から聞けばいいのか……」
俺は今迄関わった事が無い、接してきた事が無い事だらけで情報を処理できないでいた。
「芹葉ちゃんのお家って……お仕事何やってんの?」
翠は根本的なところから聞いてきた。確かにそこが分かれば全体が見えてくるというものだ。
するとキッチンにいた女性が飲み物をトレーに乗せ持って来たが、深川さんは不意に立ち上がってそのトレーを慌てて両手で持った。
「お嬢様、そのような……」
女性はふと俺と翠の顔を見た瞬間、見惚れ一瞬驚くように『ハッ』とした動きを見せ固まってしまった。
「危なかったー。この二人見たらやらかすと思ったよ」
「——— あ、お嬢様、大変失礼致しました。有り難う御座います」
女性は我に返るとトレーを深川さんから受け取り、そして飲み物をテーブルへ置き、一礼してリビングから出て行った。
——— お嬢様……?
『お嬢様』の言葉に少し驚きつつも、ここに至る迄の環境がその呼び方を納得させた。
「深川さんって……何者?」
「簡単に言えば……社長令嬢……かな?」
「社長令嬢?」
「私の父は『フカガワ電気』の社長『
「…………」
俺と翠はその会社名と社長名を聞いて顔を見合わせた。江藤さんは知ってたようだ。って言うより、家が裏って言ってるから知ってて当然か……。
『フカガワ電気』。通称『フカ電』。日本三大電機メーカーの一つでありトップである。社長の名前もニュースで偶に聞く名前だ。
そして、フカガワ電気はフカガワグループを束ねる中核企業である。この企業が倒産したら世界の経済が傾くとまで言われている。
親の仕事を知れば色々見えてくると思ったが、大き過ぎて余計に見えなくなってしまった。
「結局、なんだかんだ言っても芹葉は芹葉でしかねえんだよ。こいつが何かやったわけじゃねえんだ。気にするのは建物のデカさだけで十分だ」
「うん、そうだね。それにあんまり詳しくお話し出来ないから……」
「芹葉ちゃんの隠し事がデカすぎた件」
「規模がでか過ぎて端の方が見えない……」
「あはは……そう考えると私も翠ちゃんと似たような感じだったね」
「此処に住んでるのは芹葉ちゃんだけ?」
「基本私の家って扱い。お手伝いさんが何人か住み込みでいるけど、深川の人間は私だけだね」
「ご家族は?」
「分かんない。世界中飛び回ってるから……年三回も会えればいい方じゃない? 高校入ってからはモニター越しにしか顔見てないね。あと、偶に姉の一人が此処に遊びに来るかな?」
姉の一人? って事は最低でも三人姉妹な訳だ。お姉さんがいるという情報は初耳だ。
翠も聞いた事がないようで、学園で知る人は誰もいないみたいだ。
——— グゥゥゥゥ…………
「えへへ、お腹すいちゃった」
翠のお腹が夕飯の時間である事をお知らせした。早いな。
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