第122話 モデルになろう③

 私がスタジオに入ると、既に宗介は撮影を始めていたようで、一旦、作業が区切られた雰囲気がスタジオ内にはあった。

 私はスタジオに入ると真っ先に宗介の姿を探した。

 装いがいつもと違う事にちょっと心細さを感じていたのだ。


 ——— えーっと、宗介は……いた♪


 私は背格好で宗介の姿を判断して、そして宗介の元へ歩み寄ったが……この人宗介だよね?

 目の前にいる男性は宗介なのだが宗介じゃ無いような……自分が普段着ないような服を着た時『自分じゃ無い』って感覚になるけど、それが他人で起きてる感じだ。

 メイク室ではあまり顔を見れなかったけど、正面からマジマジと見て、私は思わず声を漏らした。


「…………宗介凄い……綺麗…………」


 宗介は私を見て完全に魅入ってる。宗介の瞳は私をくまなく見ようと、ユラユラ揺れてる。

 普段見ない様子にちょっと心配になった。


「宗介どうした?  大丈夫?」


 私が声をかけると、更に惚けた。

 そんなに惚けて、私、綺麗になったんだ……初めてのメイクだったけど、ちょっと自信が付いた。

 態度で示されて十分伝わってきたけど、そこは私も女の子だ。直接口で言われたいよね。好きな人からだったら尚更だ。


「えへへ……初めてしっかりメイクしちゃったよ。どう? 綺麗?」


 すると宗介は私の問いに数秒の間を置いて、今までに無い優しい笑顔で答えてくれた。


「綺麗だよ」


 はぁ……♡ 今の笑顔、脳内スチルに焼き付けたよ。

 しかし、今の宗介、私よりも綺麗なんじゃ無い? ちょっと妬けるな……メイクさんに文句言ってやろうかな?



 ※  ※  ※



 翠の撮影も始まり、俺と同様にポーズの見本を見ながらポージングしている。

 俺は翠が撮影している間に次の衣装に着替えた。


 四着目が終わったところで昼食になった。

 お昼ご飯は準備されているとの事だったので手ぶらで来ていた。

 そして、仕出の弁当が配られた。スタッフと一緒に弁当を広げる。


「どう? このお仕事。もしかして仕事自体初めて?」

「いえ、一応、バイトはやった事有りますけど……この仕事は特殊ですね」

「でしょう? 自分の体を商品にしちゃうからね。かなり大変よ? 普通のお仕事も体が資本って言うけど、人前に立つことを生業としている人は健康管理は元より、ジャンルによっては体造りも必要になるから」

「確かに……ちょっと興味は有りますけど、興味本位で踏み込んじゃならない仕事ですね」

「何でも一緒。カメラマンの彼なんて、興味本位で戦場カメラマンになろうとして、死にかけたんだから」

「マジすか!」

「いやー、若さって怖いよ。勢いは大事だけど、ちゃんと足元見とけよ」


 レンタルショップの店長の話もだったが、経験談ってやつは語れるだけあって深いものばっかりだ。


「ところで真壁君足りないんじゃ無い? あっちにもケータリングっぽくサンドウィッチとかケーキあるから自由に摘んでね」

「あ……店長、それ……」


 翠が『言っちゃった』って顔をしている。


「どうしたの?」

「宗介……甘いものあると全部食べちゃう……」

「好きなの? 甘党?」

「はい! やっぱ体力回復には糖分が大切ですから♪」


 俺は一目散にケーキの元へ行き、指先でつまめる大きさのケーキを十個程皿に装って持ってきた。

 チョコに苺にメロン……どれも美味そうだ。


「真壁君、衣装、合わなくなるから気を付けて」

「はい、美味しいですよ♪」

「ダメだ宗介聞こえてない」

「彼も、あんな綺麗な顔してるけど、中身は普通に高校生なんだね」


 翠は俺ばかり責めるような事を言っているが、サンドウィッチは翠が殆ど食ってしまった。あまりの食べっぷりに、スタッフは目を丸くしていた。



 ※  ※  ※



 ——— 時間は夕方四時になろうとしていた。


「大丈夫? 疲れて無い?」

「全然大丈夫です。翠も大丈夫だな?」

「うん、まだ平気。ちょっとお腹空いたかな?」


 その一言にスタッフ全員『え?』っと驚く。昼に食べた量は男性の三人前くらいの量はあった。

 先日パスタの大盛りを食べようとしていたが、強ち無謀では無かったらしい。


 最後にで二人で一緒に撮影して終わりになる。

 最後の衣装は同じデザインのシミラーコーデ……どっちかと言うとペアルックだな。

 レディースはちょっとヒラヒラ感が強く、メンズはロングコート調な感じだ。

 もうポージングも慣れてお互い思うポーズを取るようになった。

 何枚かテンポよく取り進めて行くが、カメラマンが難しい顔をし始めた。

 何かが腑に落ちないようだ。


「風入れるか…」


 そう言うと、大きめな送風機がセットされた。大きさとは裏腹に、風は服が辛うじて後ろに靡く程度の強さだ。

 俺と翠は、その風を正面に受けながらポーズを取ったり、背中から受けてポーズをとったりした。

 そして、たまに翠の腰の手を回したり、翠は俺の肩に手を掛けたり肘を掛けたり。

 そんな中、突然、後ろから首き抱きついてきた。

 翠の頬が俺の頬にくっ付いている。そこで撮影は終了した。


「「「お疲れ様でしたー。」」」


 スタジオに居る全員が一斉に挨拶をした。

 俺達は更衣室で着替えを済ませ、全部の画像を見せて貰った。


「なんか自分じゃ無い感じですね。誰ですかこれ?」

「うわぁ……綺麗……」


 皆モニターに釘付けになっている。


「俺の生涯の最高傑作だな。正直、これ以上の写真を撮れるイメージが全く湧かない」

「同じです。私もこれ以上のメイクアップは無理ですよ。正直、桜木さん、貴女いい意味で私達をダメにしちゃったよ」

「え?」


 突然の宣告に翠は驚くが、カメラマンとメイク担当は笑顔だ。


「今後の仕事対する姿勢って言うのかな? まだ先があるって分かってやり甲斐を見つけたところだよ」


 翠はその言葉にほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、全ての画像が綺麗で可愛らしく、そしてカッコよく写っている。俺達二人の良さが全面に出ている感じだ。

 翠の澄ました顔は凄くエキゾチック? 妖艶? 大人びた印象があり、屈託の無い笑顔は無邪気な女の子って感じで凄く惹かれる表情だ。


 最後に二人で撮った写真を見た。

 一枚一枚が、なんて言うか、自分で言うのも何だが「憧れるカップル像」と言った感じだろうか?凄く素敵だ。


 そして最後に撮った一枚だが…


「残念だわ〜、この写真、表情がどの写真よりも最高なの。最高なんだけど…桜木さん、お洋服が真壁君に隠れちゃってるのぉ」


 確かに、凄くいい表情だ。翠の柔らかい笑顔が凄くいい。


「宗介、笑顔柔らかいね」

「翠もな」


 翠も俺の表情に同じ感想を持っていたようだ。


「この写真のデータ全部あげるから、ちょっとだけ時間ちょうだい」


 暫くしてDVDを二枚くれた。

 

「あと今日の報酬なんだけど、今日来た服、全部あげるわ」

「え?いいんですか?」

「勿論。まともなギャランティーだとこの服あと十着買えるわよ。それに貴方達用に、ある程度寸法も直してるから誰も着れないの。だから遠慮しないで」

「それじゃあ遠慮なく頂きます」

「あ、住所教えて。流石にこれ持って帰れないでしょ?送るわよ」

「はい、ありがとう御座います」


 俺の書いた住所に、俺の部屋番号と翠の部屋番号を書いて渡した。


「ん?これって?」

「マンションの部屋隣なんです」

「あらそうなの。だからこの前の電話、お母様方一緒に居たのね」


 雑談も終わり、挨拶をして俺達はスタジオを後にした。



 ※  ※  ※



 翠はメークを落とさずにいる。俺は流石に落とした。

 人は多いが、帽子で顔は隠れている……が、口元だけでメチャクチャ可愛いのが分かる。見られてないよな?

 あと、正直、眼鏡もかけて欲しい所ではある。


「結構、時間かかったな」

「そうだね。一回の撮影であれだけ時間かかると思わなかったよ」

「楽しかったか?」

「もう、全然最高だったね。なんか一つ自信が付いた感じ?」

「それは良かった……なぁ翠」

「ん?」

「手、いいか?」

「はい……んふ♡」


 何だろう? 何故か手を繋ぎたくなった。俺から要求したのは初めてだ。

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