第119話 体育で④

「食欲あるのか?」

「全然あるよ。ちょっと自分のだけじゃ足んないな……宗介のも食べていい?」

「ははは、流石にそれはダメだろ。俺、腹減って死ぬって。てかお前、いつもより元気だろ?」

「何でだろ? 江藤さんに素顔見せて枷が一つ外れたせい? それとも頭打ったせい?」


 私の目の前で、桜木さんは真壁君の弁当のおかずを交換している。そして微妙にイチャついて……何この光景……私は『お誕生席』な場所に座ってその様子を黙って見ていた。

 芹葉と柳生君はその光景を何食わぬ顔で見もせず黙々とお弁当を食べている。

 桜木さんはいつもの姿に戻っていた。

 取り敢えず、疑問に思った事を躊躇う事なく口にする。


「いつからここで?」


 すると真壁君が肝心な部分は隠した感じで一通り説明してくれた。

 教頭、ここの鍵預けるなんて、桜木さんに甘くないか?

 しかし奈々菜ちゃんの兄が真壁君って言うのがどうにも納得できない。

 彼はモッサイ。前髪が顔を隠して、ヒョロヒョロした……若干、マッチョっぽい感じはするけど細い。

 私はマッチョ興味がない。


「藍ちゃんのお姉ちゃんが翠ちゃんってのは納得した。妹は可愛い。お姉さんは可愛い過ぎる。納得。だけど、奈々菜ちゃんのお兄ちゃんって……こんなモッサイ形して……何で? 一番ビックリだよ」

「そこは……俺は何も言わん。ただ、俺も注目は避けたいから、今の今まで兄妹って事を隠してた。俺と奈々菜の関係がバレると、些細な事で翠との関係に気付かれて翠にどんな注目が行くのか想像出来ん」


 確かに奈々菜ちゃんのお兄ちゃんが真壁君って分かれば皆注目する。そうすれば桜木さんが一緒にいるところを頻繁に目撃されたら『あの女は誰だ?』ってなる。桜木の苗字で藍ちゃんのお姉ちゃんって気付く人が一人いれば噂なんてあっという間だ。


「翠自身も、普段の形はあのとおりだ。藍ちゃんが妹であれば注目される事は想像に足る。だから妹達には兄姉けいしはいない事にしている」


 全ては桜木さんの病気の為か……真壁君が私に対して少し威圧的なのは桜木さんを守ろうとする心の現れってところかな? 


「ついでに言っちゃうと、藍の彼氏のお姉ちゃんも私の存在は知らないんだよ」

「え? また変な情報が出てきたよ。誰それ」

「うーん……ここまで話しといて何だけど、それは藍の許可も欲しいから言えないかな? 御免ね」

「肝心な部分は絶対教えないのね?」

「だってお姉さん分かれば弟が分かって、藍の彼氏が分かっちゃうもん」

「………だね。なんか二人とも秘密多過ぎ」


 一年以上隠してきただけあって、肝心な情報は簡単に出さない。首席と次席だけあって頭良過ぎと言ったところか。


「悪いな。今迄隠してきた事は簡単には教えられないよ。ただ、気付かれた事に関しては隠さず素直に答えるし認める。それが俺の最大の譲歩だ」


 真壁君は何か警戒している。何だろう? 何かに怯えているような雰囲気が見え隠れしている感じだ。

 でもこの形……そう言えばさっき『翠自身も』って言った……『翠自身もあの形』……ん?


「もしかして真壁君も翠ちゃんみたく変装してる?」

「いや、変装はしてない」


 ん? なんか一々言葉が引っかかる。変装『は』?


 すると私のスマートフォンが一音鳴った。メッセージが入ったようだ。


「ちょっと御免」


 私は断りを入れてスマートフォンを手にして画面を開き、メッセージを見た。


 ——— あ!


 私は思い出した。保健室で感じた桜木さんに対する『感情の既視感』は、メッセージだ。メッセージで来たあのイケメン美少女の写真だ。

 私はその画像をメッセージから拾い直して画面に映した。


「あー! これ桜木さんだ!」

「ん? 正解」


 桜木さんが私のスマートフォンを覗き込んで答え合わせをしてくれた。


「え? じゃあ、一緒に写ってるこの男の人……ハァ! これ真壁君? え? え! これが……この人が奈々菜ちゃんのお兄ちゃんなら超納得! ね、そうなの?」

「はは、凄いな。この時間だけで正解に辿り着いたよ」

「うそ……」


 私が驚き真壁君を見ると、彼は静かに前髪を上げた。

 そこに現れた顔は桜木さんと同類の何とも表現できないカッコよくて綺麗で美しかった。


 ——— でもそれだけだ。



 ※  ※  ※



「真壁君もなんか病気持ってたりするの?」


 ——— あれ? 反応が淡白だ。普通の女の子が示す一般的な反応じゃない。藍ちゃんみたく免疫がある感じじゃない。そしていつも女性の視線に感じる不快感も全く無い。彼女、俺に一切興味が無い感じだ。

 俺が疑問に思っていたら、深川さんも気付いたようで、


「あれ? 来羅、真壁君の顔見て何で平気でいるの?」

「え? 平気っていうか……うん、ビックリはしたよ」

「それだけ?」

「それだけ。あとなんかある?」


 やけにドライだ。やっぱり興味が無い。


「貴女、翠ちゃんの顔見た時惚けたよね」

「うん。あれは可愛いが過ぎるって! 誰だって見惚れてちゃうよ」

「真壁君は?」

「うん、まぁ……カッコいいんじゃない?」

「それだけ?」

「? それだけだけど……なんかした?」

「普通の女の子だったら真壁君の顔見れば惚けるよ?」

「まぁ、気持ちは分かる。でも私、顔は二の次だから」

「え?」

「私が男性に求めるのは顔じゃ無いから」

「顔じゃ無いって……んじゃ何処なの?」

「えー! 言わなきゃダメなの?」

「言わなきゃダメじゃ無い? 二人共知られたく無い秘密、来羅に知られちゃったわけだし」

「まぁ、私の男性の好み知って、頑張れる人いたら、ちょっと見直しちゃうかな? 高校生で私の理想に届く人は現れないと思うけどね」


 そう言って、スマートフォンを操作している。そして画面を俺達に向けた。


「私が思うカッコいい人」


 そう言って差し出したスマートフォンに映し出された画像は、ビキニパンツ一丁で、黒々と日焼けした体とテカテカにオイルで光らせ、白い歯を剥き出しに笑う筋肉ムキムキの男だ。


「私、ガッチガチに筋肉フェチなの。理想の男性はボディービルダー。正直、細い男には全ッ然興味ないわ」


 江藤さんは画面を見つめ、ウットリしている。


「はぁ……♡」


 俺にとって江藤さんは無害な女の子と分かった。


「宗介良かったね」

「ああ、江藤さんの質問に答えてなかったな。俺も病気って言うほどじゃ無いけど、女性恐怖症っぽい感じで、女が近付くと一瞬身構えちまうんだ。ただ江藤さんみたく俺に興味が無いと分かれば全然問題無い」

「なる程。芹葉も興味無さそうだし、桜木さんは自分の顔見てるみたいなもん?」

「いや、俺と翠は互いに見惚れて普通の人の反応を互いに見せ合ってたな」

「ふふふ、そうだったね。しかも互いの家族の前でガッツリ惚けたね」

「家族? ……あー、そう言えばツインズ家が近所って聞いた事あったけど、家族ぐるみの付き合いなんだ」

「そんな感じだな」

「ね、桜木さん、私も翠ちゃんって呼んでいい?」

「勿論! これからも宜しくね来羅ちゃん」


 チャイムまであと五分だ。俺たちは旧校舎を後にして教室に戻った。

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