第118話 体育で③

 私の素顔を江藤さんにも見せてしまった。

 私の病気の事は知っていたし、入学して間もなくの自己紹介の時、私の様子に気付いたのも腑に落ちた。

 今迄陰ながら見守ってくれてたんだ。素性は見せないのは失礼ってもんだ。

 でも何で病気の事、知ってたんだろう?

 そんな疑問を持っていたら、呆気なく謎が全て解けた。


「来羅は何で翠ちゃんの病気知ってたの?」

「入学前だったかな? 彼女、うちのパパのところに来たからね。パパから『同級生だから様子見ててくれ』って頼まれてたの」

「パパのトコって……病院?」

「そう」


 ——— なるほど! 江藤先生の娘さんだったんだ。


 『江藤先生』は私がお世話になっている精神科の先生だ。名前は覚えてない。


「江藤先生の……」

「喋んない。そ、私のパパは医者。貴女の事、様子見ててくれってお願いされてたの。だから、入学してからの自己紹介も、ホントは桜木さんの具合とかは無視して教室から連れ出すつもりだったんだけどね。でも、あの時は注目浴びちゃったから、ちょっと失敗だったけど」

「そっかー、私が翠ちゃんと接触しようとすると、普段何も言わないのに、珍しく止めるような事ばっか言うなーって思ってたらそういう事だったんだ」

「そういう事。ただ、知ってたのは病気だけ。まさか変装してたなんて全然思わなかったよ……はぁ♡」


 江藤さんは私の顔を見るたびに惚け、そして溜息を吐いた。


「はぁ♡……これじゃあ、皆にジロジロ見られて視線恐怖症になるわ………」


 彼女は恐怖症になった原因を視線だけだと思っているようだけど、実際、私が視線を怖いって思うのは、視線の裏側に含まれる『下心的な負の感情』だ。『視線の裏側に含まれる』なんて言うけど、実際、その人に下心があるかなんて確認してるわけじゃ無いのでその下心は私の想像でしか無い。

 ただ、私の意識は不特定多数の視線にそう言った感情が含まれると思い込んでいる。そして体が無意識に恐怖し始め発作が起きる。

 その下心だけど、芹葉ちゃんは全く問題無い。

 この人は言わなずも、人を人としてしか見ていない。だから差別が無い。逆に『皆一緒』と思っているから人との違いを理解出来てない部分がある。

 江藤さんも去年一年間見ていた限りでは裏表が全く無い。隠し事が嫌いなタイプだ。

 多分、私が不細工だったら面と向かって爽やかに『あんた不細工』と不快なく気持ちいい感じで口にして、そして、その事を認めて受け入れちゃうタイプだ。

 実際、彼女も分け隔てなく人と接していて人望がある。

 ついでに宗介の場合は、私に対する下心をもう少し持って欲しいところだ。

 しかし、江藤さんには感謝しかない。去年は私を無視し続け、そして見守っててくれた。


「桜木、吐き気とか無いな?」

「はい……」


 ふらつきも治った。お腹も空いてきた。もう大丈夫だ。


「深川、知ってたら教えて欲しいんだが」

「何ですか?」

「桜木の素顔知ってる奴は誰だ? 分かるか?」

「はい。翠ちゃん言っていい?」

「いいよ」


 私は考えなしに軽い気持ちで相槌を打った。


「えーっと、真壁宗介君と柳生流星君。あと、「ちょっと待って!」


 江藤さんは話を止めた。


「柳生君は何と無く分かった。あんたの彼氏だしそういう繋がりってのは想像が付く……で、何で柳生君と仲が良いってだけの真壁君も桜木さんの事知ってんの?」

「うん。だって翠ちゃんの彼氏だし」

「はぁ⁈ 何でこんな可愛い子の彼氏があんなモッサイ男なの?」


 江藤さん、思ったとおりの人だ。裏も面も無くズバッと本音を言う。

 江藤さんにモッサイと思われている宗介。彼女の立場的に『モッサイ言うな!』って思いつつも私達の思惑通りでホッとする部分もある。


「彼氏って……あー……だからあの体力測定……」

「詳しくは翠ちゃんが教えてくれると思うので後ほど。お話続けていい?」

「ごめんごめん」

「えーっと、あとは中等部の真壁奈々菜ちゃんに……桜木藍ちゃん……は妹だからカウントに入る?」

「え? ちょっと待って」 


 江藤さんが再び芹葉ちゃんの口を止めた。


「藍ちゃんって……桜木藍……あ!」

「そう言う事。私も最初会った時ビックリしたよ。ついでに奈々菜ちゃんは真壁君の妹ね」

「うん……はぁ? 彼があんな可愛い子のお兄ちゃん? 真壁……あ……はぁ?」

「うん。その辺の話はまた後で。で、話戻すけど、あと素顔知ってるのは、奈々菜ちゃんと藍ちゃんの彼氏達かな?」

「さっきから『ちょっと待って』で申し訳ないんだけど、ちょっと待って」

「何? ツインズの彼氏?」

「それ! ツインズの彼氏ってホントにいたの?」

「いるよ。私、実際会ってるし……でも学園じゃ滅多に顔合わせ……あ! この学園の子かは伏せてたんだ!」


 ドジっ子芹葉ちゃんが顔を出した。

 芹葉ちゃんは苦笑いして自分の頭をコツンと叩く。

 まぁ、江藤さんが皆に触れ回る事はないと思うけど、これは妹達の話だから私からは『内緒でお願い』としか言えない。

 先生は知ってる人数に一言。


「結構知られたな」

「身内とご近所さん以外は……五人ですね」

「ちょっと、奈々菜ちゃんがあの真壁君の妹ってどう言う事?」

「翠ちゃん言っていい?」

「……まだダメ」


 安易に相槌打った事を反省した。宗介の素顔は宗介の問題だ。なので私がどうこう言っちゃダメだ。

 私は同性に接する江藤さんは信用できると思った。だから素顔を晒した。

 でも異性に対しての接し方は、去年を見た限りでは大丈夫と思うけど、宗介は超絶イケメンだ。江藤さん自身どう変わるか分からない。そこが怖い。なので、宗介の判断に委ねるしかなかった。


 チャイムが鳴り、二人は教室に戻った。

 お昼休みに私の着替えと弁当を持って来てくれる。その時、江藤さんも一緒に弁当を食べる事にした。

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