第117話 体育で②

 ——— 体育でのバスケ。

 私は芹葉ちゃんからパスを貰って、思わずシュートを放ってしまった。

 しかもスリーポイントラインの近くで。


 ——— “パサッ„


 ボールはリングに触れる事なくゴールを通過した。


 ——— あ……


 私は思わず芹葉ちゃんを見た。

 「あ」って顔が言ってる芹葉ちゃんと目が合う。

 そして、一瞬私に視線が集まる……やばい!

 

 ピ———ッ!


 視線が集まったと認識した瞬間、交代の笛が鳴り、皆コートの外に出た。


 ——— 助かったー。


 試合の中盤だったら、視線はそのまま私に来ていただろう。

 次の試合まで休憩だ。

 コートは二面ある。

 私と芹葉ちゃんはコートとコートの間に座った。結構同じチームで固まって座っている。芹葉ちゃんは私が座った隣に座った。

 再び小声で話しかけてきた。


「最後やっちゃったね」

「はは」


 そう一言だけ話しかけて、反対隣の子と話を始めた。

 すると、間も無く ———、


「——— あぶない!」


 その声と同時に私は頭に鈍い重みのある痛みが走り、視界が一瞬暗くなった。

 一瞬、何が起こったか分からなかったが、バスケットボールが私の頭に直撃したようだ。

 私は床に倒れた。メガネは何処かに吹き飛んだ。頭が少しクラクラするが意識はある。


「大丈夫? 翠ちゃん大丈夫?」


 私は朦朧とする意識の中、芹葉ちゃんの声は認識した。


「あ、うん……大丈……!」


 体を起こそうとした瞬間、無数の足が見えた。皆私の周りに集まってきたのだ。


 ——— !


 やばい! 体が硬直し始めた。皆が見てると意識が認識してしまった。

 そして手足が体が震え始め、呼吸ができなくなる。声も出ない。


「翠ちゃん! しっかりして!」

「先生。私保健委員なんで保健室に連れて行きます」


 あまり聞きなれない声が私の体を持ち上げようとする。


「芹葉、手伝って」

「あ、うん」


 芹葉ちゃんを『芹葉』と呼ぶ女の子は学園では一人しか知らない。『江藤来羅』だ。


 ——— 彼女、今年も保健委員になったんだ……看護が好き?


 芹葉ちゃんと周りにいた子が、江藤さんの背中に私を乗せる。


「ちょっと一人じゃ大変だから芹葉付き添って」

「先生いいですか?」

「はい、江藤さんを手伝ってあげて」


 三人で体育館を後にする。

 私はまだ注目されている。

 体が震え、呼吸が出来ない。その時、江藤さんから以外な一言が私に向かって発せられた。


「もう少しで視線が切れるから頑張って」


 ——— !


 明らかに私の病気を知ってる発言だ。

 そして、体育館を出ると視線が途切れ、体の震えも治り、呼吸も出来るようになった。


「——— ありがと」

「まだ喋んない。発作は治っても頭打ったダメージは抜けてないでしょ?」

「あ、うん」


 まだ体に力は入らない。頭も少しフラつく。

 少し朦朧とした意識の中、私は江藤さんが何故の病気の事を知っているのか気になった。

 そして、芹葉ちゃんと江藤さんが何時ものように話している。


「あんたさっき『翠ちゃん』って呼んでたよ」

「え? 嘘?」

「人間、咄嗟の時には素が出るもんだよ」

「あちゃー……周りの子達気付いたかな?」

「そこまで仲良しって気付いてないでしょ? でもビックリだね。いつの間に仲良くなった?」


 私と芹葉ちゃんの仲を知らない……芹葉ちゃんが病気の事を教えたわけでは無さそうだ。


「クラス替えしてすぐかな?」

「そんなに早く? てっきり体力測定がキッカケだと思ってた……確かに今思い返すにあの時、あんたの様子が違和感だらけで未だに覚えてるよ」

「あはは……」

「あの流れだと……真壁君も一枚噛んでるね?」

「うーん……そこは何とも言えないな」


 ——— 保健室に着いた。



 ※  ※  ※



 桜木さんをおぶって来たけど、彼女、体は結構しっかりしていて、なんとなく鍛えてる感があった。


 ——— 彼女って文化部だよね? 何でこんなにしっかりした感じなんだろ?


 保健室に入る。


「先生、急患でーす」

「なんだ? 江藤に深川……ん? 桜木か……美少女が三人って凄い絵面だな」


 ——— 三人?


 私は『三人』という言葉に一瞬疑問符が出た。


 ——— まぁ、先生のリップサービスだろう。でも、先生、桜木さんの事知ってるんだ? 病気の事も知ってる?


 一応、私自身『美少女』に括られている事は知っているし自覚もしている。正直、私の容姿に張り合えるのは芹葉だけだとも思ってる。


 私は彼女の病気の事は入学当初から知っていた。

 去年一年間、同じクラスで見てきたが、周りの日頃の言動から、彼女の病気を知っている人は誰もいなかった。

 そして今、先生の発言で初めて先生も病気の事まで知っているかは知らないが、彼女自身の事は知っている事は分かった。

 芹葉も桜木さんと仲良くなったようだけど、病気の事を知っているかは話は別だ。

 

 私はそっと桜木さんをベッドに降ろし横にした。

 桜木さんの発作は落ち着いたようだが、ボールを頭にぶつけたダメージは抜けていない。まだフラついているようだ。

 

「で、どうした?」

「バスケボールが頭にぶつかって……脳震とうだと思います」

「そこのベッドに寝かせとけ。で、大丈夫だったか?」


 ——— ん? 


 先生が何気に桜木さんへ投げかけた一言に違和感を覚える。


 ——— 『だったか』? 何で過去形? 聞くなら『大丈夫か?』だよね? ボールをぶつけた事以外の事を聞いてる感じだけど……。


「あと、カーテン閉めてくれるか? 桜木、外して楽にしとけ」


 私はカーテンを閉めようとすると、桜木さんは私の行動を制した。


「閉めなくていいよ」

「ん?」

「何だ? スッキリしたいだろ?」

「うん。ここにいる人、皆、病気の事知ってる」

「あ? 深川、江藤、お前らも知ってるのか?」

「私は翠ちゃんから話は聞いてます」

「私は入学当初から……先生も?」

「私はまかりなりにも医者だ。持病持ちの生徒は全員知ってるさ」


 ——— え?


 すると、目の前で信じられない光景が………桜木さんがベッドに横のなったまま頭に手を掛けたかと思ったら、髪の毛をスルッと外したのだ。


 前髪でよく見えなかった顔だけど、そこに現れた綺麗な亜麻色の髪と可愛らしい顔……何この子?……桜木さんってこんなに……はぁ♡

 目の前に現れた天使に私は暫く見惚れていた。


「来羅ー、戻っておいでー」

「え? あ、おー! 何この美少女?」

「翠ちゃん」

「……はぁ♡」


 私は溜息しか出ない。

 芹葉はこの顔の事は知っているようだ。

 先生に目を向けると、先生も固まっていた。


「先生?」

「ん? あ、あぁ……すまん見惚れてた」

「先生も初めて見るんだ?」

「あぁ、写真でしか見た事なかったからな。生は初めてだ」

「芹葉は?」

「私は結構見せてもらってるからね。はぁ……いつ見ても可愛い♡」


 芹葉と桜木さんの仲はそこまで進んでたんだ……なんか私の知らないところで事が進んでいてちょっと嫉妬だな。


「桜木、吐き気とか無いか?」

「はい……大丈夫です」


 まだ油断はできない。時間が経ってから症状が悪化したなんて話も良く耳にする。

 桜木さんは眠る事は無かったが、そのまま横になっていた。

 初めて見た桜木さんの素顔。可愛い。可愛くて綺麗で何とも形容出来ない顔なのだが……あれ? 既視感だ。以前にも同じように思った……感情の既視感……


 ——— はて、何だっけ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る