第116話 体育で①
——— 日付は変わって体育の時間だ。
廊下を移動中、私の隣には芹葉ちゃんが歩いている。偶然だが初の出来事だ。
芹葉ちゃんは小声で私に話しかけて来た。私もその声に小声で答える。
「今日の体育バスケらしいよ」
「ホント?」
「楽しみだね」
「だね」
「同じチームになるといいな」
「それ多分やばい」
「なんで?」
「素で全力で動いちゃいそう」
「いいんじゃない? 全部シュート決めちゃうとか」
「目立っちゃうって」
「ふふふ。冗談だよ」
「何話してるの?」
後ろから声がした。
声を掛けて来た子は、いつも芹葉ちゃんとお話ししてるカーストを気にする部類の子だ。どうやら私との会話に気付いたようだ。
私は心臓がバクバクだ。彼女が変な事を言えば今後どんな注目の浴び方をするか分からない。
私は正面を向き固まった。話しかけて来た彼女の方を向く事が出来ない。
「桜木さん。最近、深川さんとよくお話してるよね? なんか気が合うところでも見つけた?」
——— うわー! 話しかけて来たー!
私は焦った。変な事を言えば何がどう転ぶか分からない。ここは日頃皆に見せている事実だけを述べる。
「——— 本」
思わず出た言葉だ。私は視線が集まるんじゃないかって怖くて怖くて堪らなかった。
どうもダメだ。慣れない人と話そうとするとどうしても周りの『集まってくるであろう』視線に怯え始める。視線なんてまだ私に集まっていないのに。
私の困惑を察した芹葉ちゃんがフォローを入れてくれた。
「彼女、あの体力測定がキッカケでお話しするようになったんだけど、教室でよく本読んでるじゃない? だから最近、色々本の事教えてもらってるの」
「ふーん、そうなんだ」
私の隣でそんな会話をしながら体育館まで歩いた。
当然、私は会話に混ざれるわけはなく……。
※ ※ ※
体育館に着いて、私はいつものよう集団から少し離れたところに立って全体を眺めている。
すると芹葉ちゃんがちょっと遠くで申し訳ない顔でウィンクしながら『ゴメン』のハンドサインをして来た。
さっきのは芹葉ちゃんにとってもイレギュラーだったようだ。
私は『気にしないで』と、軽い笑顔で小さく手を上げた。
チャイムと共に先生が現れた。そして一言。
「今日の体育はバスケットボールだ」
チーム分け。私は芹葉ちゃんとチームを組めた。
試合の街時間。私と芹葉ちゃんじゃ隣同士で座って小声で話す。
「やったね」
「うん」
そして、周りに聞こえるように普通のトーンで話す。
「桜木さん宜しくね」
「……よろしく」
端的なやりとりを周りに見せ、さり気無く『それ程深い関係性では無い』事のアピールをする。
私と芹葉ちゃんは並んで座っていたが会話する事は無かった。芹葉ちゃんは反対隣に座る子とお話ししている。話の内容は多岐に渡り、テレビの話やらニュース、本、芸能、ファッション。
よくそんなに話せるな?
そして私達の番が来た。
芹葉ちゃんはご存知のとおりバスケ部だ。体育が部の種目になったからと言って、手を抜く人はまずいない。当然、芹葉ちゃんも全力だ。だからこそ楽しい。
ついでに今回の対戦では相手チームにもバスケ部が一人いる。
二人はマークしあっているので、チームバランス的に問題無さそうだ。
皆右に左に走り回っているが、私はパスが来たらそのまま誰かにパスをする。それしかやってない。
体育での試合は正直勝ち負けを気にしている人は皆無だ。動いている中で、自分が最高と思えるプレーが一つでも出来れば十分だと思ってる。
私はその『最高と思えるプレー』が出せないでいた。いや、出さないでいた。
ただ、今日は芹葉ちゃんと同じ組になってテンションが上がってたんだろう。
芹葉ちゃんからパスを貰って、いつもなら直ぐパスを回すが、何故かこの時いい感じのシチュエーションでパスを貰ったせいか、思わずシュートを放ってしまった。
しかもスリーポイントラインの近くで。
“パサッ„ ——— あ……
ボールはリングに触れる事なくゴールを通過した。
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