第114話 モデルやってみる②
今日は土曜日だ。
翠は午前中病院へ行き、例のモデルの許可を主治医から貰い、そして俺と二人でケ・ベッロに来た。
「いらっしゃいま……あら貴方達来てくれたのね」
「こんにちは。先日のお話についての返事で伺いました」
「じゃあ、事務室へご案内するわ」
俺たちは事務室、兼、休憩室へ案内された。
案内された部屋には、壁に事務用の机と椅子が六台程壁向きに置かれ、机の上にはパソコン、ペン立て、そして電卓が置かれていた。
机以外にロッカーが置かれている。ロッカーは全部で十台だ。
部屋の中央には会議用テーブルが二つ合わせて置いて有り、パイプ椅子が六脚置いてある。
「そこに座って」
俺達は案内されるまま椅子に腰掛け、被っていた帽子を脱いだ。
店長は俺たちの顔を見るや、恍惚な表情でため息を吐いて話し始めた。
店員の一人が事務室の片隅で冷蔵庫から飲み物を取り出し、グラスに注いでいる。
「今日は来てくれて有難う」
「いえ、こちらこそ連絡もせず押し掛けて申し訳ございません」
「いいのよぉ~。で、早速だけど答え……聞かせて頂けるかしら」
「えーっと、……お申し出受けたいと思います」
「ホントに? 有難う」
別の店員が飲み物を目の前に置いて、店長の隣に座った。俺達の顔を見て恍惚とした表情で見惚れている。
「そう言えばまだ名前言ってませんでしたね。真壁宗介と言います」
「桜木 翠です。宜しくお願いします」
翠は笑顔で挨拶をした。
「桜木さん笑うとホント、可愛いわ〜。ね、ちょっとお願いあるんだけど。今度はお澄まししてみて」
翠はリクエストに応える。
「うん、お澄ましすると印象変わって、今度はメチャクチャ綺麗な子になるわね。こう……両方持ってる子ってそうそう居ないのよ。それじゃあ、撮影は、後日改めてお願いするわね。その前に、貴方達、保護者の連絡先教えて頂けるかしら? 一応、未成年だし、こちらからご挨拶しないと私の立場もあるからね。それに桜木さんの事もあるから」
店長は翠の病気の事を気遣ってくれている。
「分りました。私達の母親は今の時間……帰ってきてるかな?」
「大丈夫だと思うよ。さっき、お母さんからメッセ入ってたし、今頃二人でお茶してんじゃない?」
「今、俺の電話で母に電話しますんで、電話、出て頂いても大丈夫ですか?」
「そうね。その方が早いわね」
俺は自分の電話でお袋に電話した。
「もしもし、今、電話大丈夫か?」
『大丈夫よ。何? お店?』
「そう。稜さんも居る?」
『いるよ』
「じゃあ、電話スピーカーにして。二人で一緒に話し聞いた方が早いでしょ」
『そうだね。いいよ』
「こっちもスピーカーのするから」
俺はスピーカーにをオンにしてテーブルの中央にスマートフォンを置いた。
「店長、そのままお話しして頂いて大丈夫です。私の母と桜木の母が向こうで一緒に聞いてますんで」
「ありがと。……もしもし、初めまして、ケ・ベッロ店長の木部と申します。この度は ———」
店長は、お袋達に挨拶と仕事の内容、報酬について説明し、稜さんからは翠の病気の事で説明があったようだ。
一通りの話しが終わり、電話を切った。
しかし、仕事上の電話の応対って普通に電話するのと違って『ビジネス感』が凄い。お袋達の受け答えも同じだ。俺らの知らない大人の顔を見た気がした。
「貴方達のお母様方から御了承頂いたし、早速今日、準備してもいいかしら?」
「はい。それは大丈夫ですけど……」
「まず、体の寸法測らせてもらうわね。一応、それなりに寸法合わせしないと映えるものも映えなくなるからね。あと、撮影は後日になるけど、撮影場所はスタジオを使うから、こことは違う場所になるの。日時については、これからスタジオに確認するから、帰る頃に教えるわね。それと衣装もある程度合わせたいから……多分、夕方までかかるかしら? お時間大丈夫?」
「時間は全然大丈夫です」
今、午後二時くらいだ。
早速、店員が事務室に衝立を立て、簡単な個室を作った。俺と翠はそれぞれに腕やら胸囲やら寸法を取られる。
俺の体は若めの女性の店員が採寸したのだが、終始、顔が赤かった。因みに、服は全部脱がず、インナーは着たままでの採寸なので悪しからず。
翠はしっかりスリーサイズを測ったようだ。隣から声が聞こえる。
「しかし、桜木さんいい体してるぅ……羨ましいわぁ……」
「そんな事ないですよ」
「胸も大き過ぎず小さ過ぎず、肩幅とくびれと、其々の部位の太さ、丸み、全ての比率がペルフェット!」
「ペ……?」
「あー、イタリア語で『完璧』、パーフェクトね」
寸法も測り終わり、今度は試着室に案内された。
「ここ、二つはウチ使うから、間仕切りお願い」
「分かりました」
店長は店員へ指示をして、四つある試着室のうち、奥二つを俺達専用に仕切った。
仕切りには人一人通れる隙間はある。
少しすると、店員二人が何着か店の服を持ってきた。
「それじゃあ、着替えて。着替えたらここで写真撮るから。靴は脱いだままでいいわよ」
床はカーペットが敷かれ、皆靴を脱いでいた。
俺と翠は一着切る毎に間仕切りを背にして交互に写真を撮っていった。間仕切りを背にしているので一般客からは一切見えない。
一着着るごとに、写真を撮っていく。
ポーズとかは無く、正面、後ろ、真横、斜めから定型的に写真を撮ってる。ただの記録の保存だ。
「しかし真壁君も良い体してるわね~」
「そうですか?」
俺はちょっと力瘤を作ってみる。
「あ、良い体ってのは、筋肉的なものじゃなくて、体全体のバランスね。身長もあるし手足も長い。色々とバランスがいいわ。ランウェイを歩くようなショーモデルにならなきゃ勿体ないわね」
「そんなにいいんですか?」
「いいなんてもんじゃないわよ。今すぐショーモデルでランウェイ歩けるわよ」
「はぁ、有り難うございます」
なんか知らんが褒められた。
「桜木さんはショーモデルってわけには行かないわね」
「そうなんですか?」
「手足は長くて体のバランス的には凄く理想的なんだけど、身長がちょっと小さいの。だからスチールモデルが最適ね」
「スチール……写真ですか?」
「そう。ショーモデルと違って大小問わず、色んな服が合いそう……っていうより合わない服は無い感じね」
俺の衣装合わせは終わったが、翠の方はまだ終わらない。
店長が……いや、店員も着せたい服が沢山あるらしく、まだまだ終わらない雰囲気だ。店の服全部着せるつもりじゃないのか?
カーテンが開く度、翠の満面の笑み現れる。一々可愛い。俺は黙って翠のファッションショーを眺めていた。
「店長さん、お願いがあるんですけどいいですか?」
翠のお願い事……何だ?
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