第107話 素顔でデート③
——— 帰り道、クレープを食べにクレープ屋に向かった。
すると俺は見た事がないスイーツを販売している店があった。
「翠、あれ何だ?」
「ワッフル生地っぽいのにクリームやらフルーツ「行こうか!」
俺は翠の話を最後まで聞かず、足早にその店に向かった。
「見た目で既に美味いんだが……」
「だね」
物はポコポコ丸い感じ且つワッフル生地っぽいのを円錐状に丸め、その中にクリームやらフルーツやらを入れている、香港発祥の『エッグワッフル』というものらしい。
「これ食ったら、夕飯食えねぇな……」
「どうする? 私は今回はパスかな? もう日も沈みかけてるし……また今度にしない?」
「後ろ髪が引かれるぜ……」
そう言い残し、俺と翠は家路に向かった。
結局、クレープでもなんでも今の時間にスイーツは食えなかったわけだ。チクショー!
※ ※ ※
で、夜、夕食も終わり、俺は翠の家にお邪魔していた。そして、翠と並んでリビングのソファーに腰を掛けている。
その横には、翠のご両親がいて、その隣で藍ちゃんが目を丸くして座っていた。何故か奈々菜も一緒だ。
「どうした宗介君? こんな時間に改まって。しかも二人揃って……結婚の報告か? それなら別に報告は要らないよ。籍入れた時だけ報告して」
「あ、はい、分かりました」
「ん?」
俺と武尊さんのやりとりに翠はキョトンとしている。妹達はニヤけた顔だ。
そもそもまだ高校二年の小僧と小娘だ。結婚なんて早すぎる!
「実は、翠の社交不安症についてご相談でした」
俺の一言にご両親の表情が一変した。
出会ってから今まで一度も触れた事がない話題だ。ちょっと場の空気が緊張する。
その空気の中、俺はゆっくり順を追って話し始めた。
「まず、今日、翠と素顔で出かけてみました」
「ほ? 大丈夫だった?」
「素顔って言っても帽子で殆ど顔隠してましたからね」
「で、どうだった?」
「まぁ、人混みを避けたんで普通に歩く事は出来ました」
「ほうほう。翠は? 翠の気分はどうだった?」
「最初は怖かったけど、慣れたら……ね」
「翠が大丈夫ならまぁ、問題ないか……そもそも死ぬようなもんでも無いからそれ程心配はしてないけどね」
「まぁ、そうですけど、で、此処からが本題なんですけど」
俺は、翠の顔を見た。翠は笑顔で頷く。
「今日、とあるお店に入ったんですけど、そこで、モデルをやってみないか? って話しを持ちかけられました」
「モデルか……ふむ。それで?」
「具体的な内容は『お店の服を着て写真撮影をする。その写真をパネルにして店頭に飾る』というものです」
「ほう。それは素晴らしいが……そこで、翠の病気なんだね?」
「そうです。その店の店長が言うには、治療の一環になるのでは? と言う事でした」
「治療?」
「はい。店長も昔、モデルとして活躍していて、自らパネルとか看板で色々世に出回っていた時期が在ったらしいのですが、その時のパネルを見る人の目線が、どうにも不思議な感覚だったらしくて、『自分が見られているのを俯瞰して見ている感じ』と、言葉では言うものの、店長自身もどう表現していい分らないみたいで、翠の症状を考えると医者に相談に行く価値があるんじゃないかと……」
「なるほど。確かに自分で想像してみると、不思議な感じだね。沢山の人が直接自分を見ているわけでは無いのに、自分の姿を見ている。相談する価値は有りそうだね。翠も最近、ウィッグ外してみようとか、宗介君のお陰も有って前向きになっているからな。有り難う。土曜日にでも医者に伺ってみるか……」
「うん」
※ ※ ※
——— 今日は月曜日。学校だ。
日曜日は愚図ついた天気で何処にも出かけず、いつものように宗介の部屋でゴロゴロしていた。
私と宗介は付き合い始めて半年になろうとしている。何気に報告するが、今では普通にキスくらいはするようになった。でもディープなのはまだだ。だからそこから先も……ヘタレめ……。
今日もいつもと変わらず、朝、宗介とジョギングをして、そして今、肩を並べて通学している。
校内に入ると若干距離を置いて歩き、私のクラスの前で宗介と別れる。
いつもと同じ朝だ。
教室には黙って入り、誰とも挨拶を交わすこと無く席に着く。
五分後、『おはよー』という聞き慣れた元気な声が聞こえて来た。芹葉ちゃんだ。
「おはよー」
芹葉ちゃんは、すれ違う人、一人一人に挨拶をして、私のところに来る。
「桜木さんおはよー」
「おはよ。せ……えっと、深川さん」
危うく『芹葉ちゃん』って言うところだった。
芹葉ちゃんも吹き出しそうになってる。
最近、寝る前とか芹葉ちゃんに電話したりメッセージ入れたりして、世間話やら相談やら、したりされたり、皆が知らないところで私達の仲はどんどん深まっている。
「これ有り難う」
「どう……だった?」
芹葉ちゃんは、先週貸した本を返して来た。
本の貸し借りはあの日以来定期的に続けている。
どうしても、普段の話し方になりそうで、言葉が辿々しくなってしまう。
逆にこの辿々しさが周りへの『陰キャアピール』になってて良いんだろうが、地を出さないように意識し続けるのはちょっと辛い。
「凄く面白かったぁ。悪いんだけど続き貸して欲しいな……って、持ってきてたり……する?」
「はい」
「やった♪ ありがとう」
芹葉ちゃんの感激の声が大きかったせいで、一瞬注目が集まったが、すぐ元に戻った。
完全に私達の関係、会話は『教室でのいつもの一コマ』として捉えられたようだ。
教室内での芹葉ちゃんとの関係は、もう、大丈夫だ……と思う。
後は皆の前で名前呼びするだけかな?
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