第106話 素顔でデート②
俺と翠はアーケード街……はちょっと怖いので、ちょっと外れた通りを歩いている。
通行人はいるがそこまで多くない。翠に視線が集まっても発作は起きない、程々の人通りだ。
「さて、どこ行く?」
「目的が『素顔で歩く』だから、行く当て何処もないよね?」
「だよな」
「じゃあ、『ケ・ベッロ』行かない?」
「ケ・ベッロ? なんか気になる服あった?」
「うーん……この前、帽子だけで服はじっくり見てなかったし、あと、お店の人、私達の顔知ってるから、ちょっと安心かなって」
「なる程。そういう事なら」
俺達は『ケ・ベッロ』に向かう事にした。
※ ※ ※
今歩いている通りは、車の通行は不可では無いが、車は滅多に通らない道路で、それ程広くない事から、歩道だと勘違いしている人もいる。そんな道路だ。
道の真ん中を暫く歩くと甘い香りがして来たが、
「うぐっ……」
「どうした宗介?」
「甘い香りが……」
「発作?」
言われて気付いた。ある意味発作だ。
「うぅ……」
「ケ・ベッロそっちじゃないよ」
「あぁ……あ……」
「宗介食べたい?」
「うぅ…………帰り……」
「いいよ。ふふ」
俺は我慢した。
そして目的の店、『ケ・ベッロ』に着いた。
「いらっしゃいませ」
店内は、お客さんも三組程度と時間帯なのかちょっと少ない感じだが、逆にそれが落ち着いた感じで、ゆっくり商品を見る事ができそうだ。
早速俺達は、お互いに翠に似合いそうな服を手に取り、体に合わせてはラックに戻す。
そんな事を繰り返していたら店員の一人が近付いてきた。店長だ。
「いらっしゃーい。また来てくれたのね。あら? 今日はお二人とも素顔なのね?」
「先日は有り難うございました。今日はちょっと寄らせて頂きました」
「よかったら試着してってね」
「有り難う御座います。それじゃ遠慮無く」
そう言って、翠は、何着か手に取り試着室へ向かった。
試着室は店の真ん中ではなく、個別のエリア『フッティングスペース』があって、三室程、試着室が並んでいる。その前にはベンチがあって、ツレがゆっくり待てるような環境になっている。
俺はそのベンチに腰かけ、翠が出てくるのを待った。
※ ※ ※
——— 何着着たんだろう? 一時間近く此処に座って翠の単独ファッションショーを眺めている。
「じゃあ、次、これ着てみて」
「これもいいんですか?」
「その次はこれね」
原因は店員だ。
客が全て帰り、店員が翠の元に集まって、次から次へと服を持ってくるのだ。
翠は素顔だが発作が起きる人数でもなく、そして最新のファッションを片っ端から試着しているので凄く楽しんでいる。
「ホント、この子に似合わない服着せたいって思うくらい、なんでも着こなせちゃいますね」
「顔は別格に美人さんだし、スタイルもモデル風では無いけど、均整が取れたスタイルだし。なんか羨ましいわ」
「うわぁ……正直この服ダサいって思ってたんだけど、この子着ると全然イケてるわ」
「ねね、彼氏さんも着てみない?」
突然矛先が俺に向いた。
「俺ですか?」
「勿論! ちょっと待ってて」
すると何着か持ってきて、俺と翠に服を渡した。
「それじゃあ、これ着てみて」
俺は渡された服を持ち、試着室へ入る。
そして着替えてカーテンを開けると、
「……………………」
店員は俺を見るなり、始めに翠を見た時のリアクションを俺にした。
「宗介どう?」
翠も隣の部屋から出て来た。
俺とデザインが同じ服で、シミラールックよりも統一された完全なペアルックだ。
「…………あ、おぉ! 見惚れてしまってあっちの世界に入ってたよ」
「二人共似合いますね」
「彼氏さんも似合わない服無さそう……カッコいい……」
「なんか写真に収めたいですね」
「だな……そんでパネルにして……ん?」
一人の店員の一言に、店長は『それだ!』って顔でその店員を見た。そして、
「ねね、あなた達、ちょっとうちのお店のモデルやってみない?」
「はい⁈ モデル? 俺達が?」
「そう。写真撮って、あんな感じにパネルにして、店内飾るの」
店長は店内に飾られているパネルを指差す。
「えー、ちょっとそれは……」
モデルをやるやらない以前に俺は翠の病気が気になった。
俺は翠の顔を見るが、翠はちょっと浮かない感じの表情をしている。ただ、『嫌だ』という感じでは無いようだ。
「なぁ、話していいか?」
俺は翠に病気の事を話していいか同意を求める。
「うん……」
ちょっと躊躇い気味の返事だ。店員は俺達の様子に『?』って顔で俺達を見る。
「あの……実は ——— 」
俺は翠の病気話をした。
店長は納得した面持ちだが、納得の意味が少々違っていた。
「あー、だから先日は顔隠して来たのね。納得」
そして言葉を続ける。
「確かに『見られる』って良くも悪くも精神的に刺さるものがあるよねぇ。私もランウェイ歩いてた時、『怖い』って思う時もあれば『見て』って思う時もあったもん」
ランウェイ? 店長はモデルさんだったようだ。
「だったら参考になるか分かんないんだけど、私も昔はモデルで看板なりパネルなりで人目に晒された時期があったの。ただ、その看板とかに向けられた『視線』って、自分に向けられてるんだけど、直接自分に向いてる訳じゃ無いでしょ?」
「……ですね」
「不思議な感覚なのよ。見られてるけどそうじゃ無いっていうのか……見られてる自分を俯瞰してみてる感じなのかなぁ……もしかしたら、その状況体験したら、彼女の恐怖症、何か変化があるかの知れないわよ?」
「なるほど……ちょっと参考にさせて頂きます」
「名刺渡しておくわ。ただ、こちらからお願いしておいてなんだけど、個人のモデルとかへのギャランティーの支払いは、フリーランス契約とか手続きがちょっと面倒で簡単に出来ないの。貴方達自身の手続きとかも必要になるわ。だからそこだけ分って頂戴。代わりに、お店の商品差し上げる事で代替させて頂く事になるから、その条件で検討してね」
「分かりました。俺らも高校生なんで、保護者の同意なり学校の制約あるんで……病院にも相談してみます」
俺と翠は、店員に見送られながら商品を買わずに店を出た。
「翠って、素顔の写真皆に晒した事なんて無いよな?」
「無いよ……あ、卒アルがあるか……でもそんなもんだね。宗介もそんなもんでしょ?」
「だな」
しかし、店長……名刺には『
「店長の話どう思う」
「なんか、行けそうな気はするんだけど……分かんない。でも病気とは関係無しにやってみたいって思う……かな? かなり怖いけど」
「パネル貼るのは医者がヨシとしたその後だな。その後、翠のパネルを見た人が生の翠を見た時、『あの人パネルの人だ』って指を差されて、翠自身がどうなってしまうか……一番はそこだと思う」
「だね。パネルが治療行為として成功してれば、皆に見られてもなんとも思わない状態になるんだろうけど、失敗すれば悪化するかもね」
「まず、帰ったら親父さんお袋さんに相談だな」
「だね」
——— っと、その前に……俺はクレープ屋に足を運んだ。
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