第105話 素顔でデート①

 ――― 今日は土曜日だ。


 宗介と初めて素顔デートに挑戦だ。と言っても帽子は被るんだけどね。宗介も髪を縛って帽子を被ってる。

 そして私はお洒落メガネを掛けてる。宗介はダサ伊達メガネだ。


「ドキドキだね」

「ドキドキだな」

「どこ行こ?」

「まずは、いつものジョギングコースを歩いてみるか」

「いいね。大体一時間位かな?」

「丁度いい散歩コースだな」


 時間はまだ午前中だ。

 マンションを出て、今朝走ったジョギングコースを再び辿った。

 コースは住宅街、堤防、公園のセクションに分類される。

 始めに歩いた住宅街は、歩道の幅は車一台分余裕で通れる広さがあり、サイクリングコースとしても整備されている。


「いつも走って通り過ぎるけど、ゆっくり歩くとまた別の……んー……全く違う風景に見えるね」

「そうだな。この辺の花壇とか良く見た事が無かったな」


 花壇というか植樹帯が花壇になっている地帯だ。

 かなりの距離に色とりどりの花が植えられている。

 

「そうだね。この花壇、色んな花が植えてあったんだ」

「花は詳しいか?」

「うーん……一般的なのなら辛うじてかな? ここのは分かんないや」

「翠の場合、花より団子だもんな」

「うん。否定はしない」


 ゆっくり歩くと今まで見えていなかったものが沢山ある事に気が付く。

 そして肝心の周りの視線だけど、すれ違う人はこっちを見るが、帽子のツバで顔が隠れているせいか、それは一瞬であり、丸っと素顔の時程『見惚れる』まで行っていない。

 

「素顔の時より全然大丈夫だね」

「まだ人も少ないしな。それに意識しなきゃ大丈夫なんだろ? そう言えば、眼鏡外すと周りって見えなくなるのか?」

「結構見えない」

「視線集まった時、眼鏡外したら発作、おさまるんじゃない?」

「どうだろう? 試した事ないね」

「……まぁ、リスク背負って試す事ではないな」

「だね」


 ——— 堤防の上に来た。

 ここは車は走れない場所だ。河川敷は公園っぽく整備されていて、色んな人が散歩、ジョギング、サイクリングをしている。

 他にはサッカー場とか野球場もあって、普通に使われている。今日もサッカー、野球共に草試合が行われているようだ。


「朝とは風景が全然違うね」

「かなり違うな。ここって結構騒がしい場所だったんだな」


 一年以上走っていて、日中一度も此処に来た事が無かった事に気が付いた。

 そしてここでもすれ違う人は一度私達に目をやるが、見惚れるような状況にはならない。


「今迄ウィッグに帽子だったけど、結構、帽子だけで行けるもんだね。ちょっと自信ついて来た」

「調子に乗るなよ。油断してると駅の人命救助みたく、ミイラ取りになっちまったりするからな」

「あはは、そだね」

「ま、人助けは翠の人柄そのものも現れだし、発作起きたら俺が抱っこして連れ出すから安心しとけ」

「ふふふ、頼りにしてるよナイト様♡」


 ――― 運動公園に来た。


 バスケのコートでは同年代の子がゲームをしている。3×3だ。楽しそうだ。なんか宗介ウズウズしてる。てか、私もウズウズだ。


「宗介、我慢だよ。我慢の子」

「お、おう」


 私達は少し離れた場所から暫くプレーを眺めていた。


「楽しそうだね」

「だな」


 するとスリー……いや、3×3の場合はツーポイントか? そのラインから放たれたボールはゴールのボードの角に当たって大きく跳ね飛び、フェンスを飛び越え宗介の足元に転がって来た。


「スミマセーン」


 一人がフェンスから出て来てボールを取ってくれと言っている。

 宗介はボールを手で取り、二度ほど地面にボールを突くと、そのままワンハンドシュートを放った。

 おいおい、此処からゴールまでコート一つ分の距離があるぞい! 流石の宗介でも入 ———、


 ——— シュパッ!


 なんと、大きく弧を描いたボールはリングに触れる事なくネットを揺らした。


「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

「マジかよ!」

「マジすげぇ!」

「誰か動画撮ってねぇか?」

「何もんだアイツ!」

「まさか奇跡の五人の一人が実在したのか⁈」


 コートの周辺にいる者全員が大騒ぎだ。

 

「あはは、やっちまった」

「ちょっと! 私、発作起きたらどうすんの!」

「大丈夫。皆俺を見てっから」


 宗介は帽子を取って、大きく手を挙げ、この場にいた者に挨拶をして去った。

 すると背中から今度は違う声が聞こえて来た。


「なんだ今の男! 顔見たか?」

「なんかめっちゃイケメンじゃなかった?」

「何? え? 嘘? 見てない!」

「イケメンであんな技って神は二物を授けるのか!」

「イケメンなら当然の特技だね」


 私に目が向かないように敢えて顔を晒したんだろうけど、


「顔晒すくらいなら、シュートなんてすんなよ」

「悪りぃ悪りぃ。やっぱ血がな」

「まぁ、気持ちは分かる」


 私達はそのままマンションに向かった。

 ジョギングコースの散歩は楽しかった。いや、楽しむために歩いた訳じゃ無かった。

 今回は練習であり実験だ。ま、楽しめた時点で成功なんだけどね。

 そして調子に乗った私達は、午後から繁華街を歩くことにした。

 その前に―――。


「ところでお昼何食べる?」

「翠の料理にハズレなし!」

「いいよ。じゃ、家行こうか」


 いつものように宗介に料理を振る舞う。

 いつもながら張り切っちゃうけど、張り切っちゃうのが彼女ってやつなの?


「卵、結構あるから、オムライスでいい?」

「いいね。量多めでお願いします。」

「分かった。今日も宗介の胃袋掴み直す♡ 覚悟はいい?」

「ほほう♪ 楽しみにしてるよ」

「えへへ」


 オムライスは私が得意とする料理の一つだ。ふわトロにするには火力が命。

 ガンガン熱したフライパンで一気に作り上げる。熱とスピードが命だ。そうすると表面にだけ火が通り、中は生焼け状態になる。

 ライスも鶏肉と冷凍のベジタブルミックスを使って炒める。勿論玉ねぎの微塵切りは入ってる。炒飯に使うテクニックをここでも使う。

 冷えたご飯に生卵をかけて、ご飯とよく混ぜてから炒めると、ご飯がパラパラになる。

 塩胡椒で味を整えてケチャップの登場だ。

 そうそう、マヨネーズ好きを「マヨラー」って言う人がいるが、「ラー」ってなんだろ? ってよく思う。

 『ラー』が付いた語源を辿れば、マヨネーズ好きは正しくは『マヨナー』じゃないの? 

 んでもって、そこ流れで行けば、ケチャップ好きは『ケチャラー』じゃなくて、正しくは『ケチャッパー』じゃないのかな? って思う。


 ――― 話しが脱線した。


 出来上がったチキンライスの上にオムレツを乗せて、そのオムレツを切り開くと……じゅル……ヤバイヤバイ。『翠エキス』純度100%特性涎ソースが掛かるところだった。

 オムレツを切り開いた時点でケチャップで落書き出来ないから、オムレツの上のケチャップは本人に掛けさせる。


「お待たせー」

「おー、スゲーな。スゲー美味そうだ」

「ふっふっふ。さぁ食して平伏すが良い!」

「それじゃあ、いただきます」


「ふぅーふぅーふぅー、あむ……んぐんぐんぐ……ゴクン……うん、美味い! すげー美味い! 口の中が卵のトロみで支配されて行く。美味すぎる!」

「良かった。それじゃあ私もいただきまーす」


 

 ※  ※  ※



「「ご馳走様でした。」」


 お腹一杯になった私達は、一休みしてからアーケード街に向かった。

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