第56話 全国大会②

 ——— 谷坂中の選手に囲まれた私と藍は、会場中から視線を浴びまくっていた。何この状況⁈ 

 まぁ、王者谷坂中が揃って無名の私達のところの足を運んで話し掛けてたら『あの子ら何者?』ってなるよね。


「谷)てか、皆こっち見てるな……はは」

「緋)可愛い双子いたら皆見ちゃうよ」


 いやいや、それだけじゃないって。


「谷)それじゃあ、私達行くね」

「緋)じゃね。多分、応援出来ないけど頑張って」

「奈)ありがと。また連絡するね」


 テニスでの応援は学校毎に決めた掛け声なんかは有るが、基本拍手だけで、声を掛けたりするのは禁止だ。なので応援というよりは『観戦』という言葉が正しい。


 ——— 開会式が終わり、早速個人戦が始まった。



 ※  ※  ※



 ——— 本日の全行程が終わり、私と藍は先生とコートの外を歩いていた。すると周りからは私達を噂するような声が聞こえて来た。

 『可愛い』って言葉はデフォだ。正直、聞き飽きている。

 ただ、今は容姿よりも『あの二人って谷坂中と……』と、開会式前、谷坂中に囲まれていた状況が私達を注目させているようだ。

 すると右から『真壁さん』と呼ぶ声が聞こえ、左からは『桜木さん』と呼ぶ声が聞こえた。

 私と藍は右と左と声がした方、両方に目を向ける。

 声を掛けて来たのは『森花北中学校』の子達と『川梨第一中学校』の子達だ。其々人数は十人程度。全員勢揃いのようだ。

 両校の子達も互いに顔を合わせて『あっ!』とも『え?』とも読み取れない顔で互いに顔を見合わせている。そして互いに会釈していた。

 先生は生徒達の交流の場だと、この場を少し離れ、黙って様子を見ている。


「えっと……真壁さん? で、そちらが……桜木さん?」

「皆、久しぶり。朝の事は奈々菜……えっと、こっちの子から聞いてたよ」

「皆さんお久しぶりです。朝の事は桜木から聞いてます」


 私達は互いの元の中学の子達に挨拶をする。

 藍はハキハキ話すが目は『スン……』と光を無くした感じだ。多分、私も同じ目をしていると思う。

 『久しぶり』とか『懐かしい』という感情が全く湧いて来ない。

 ただ、私達のこの表情は、目の前の彼女達からするといつもの表情なんだと思う。

 彼女達の態度は以前と変わっていない。

 私は森花北中の子達に謝罪した。


「今朝は申し訳御座いませんでした。藍の以前の学友と知ってながら知らない素振りをしてました」


 藍も川梨第一中の子達に謝る。


「私も御免なさいだね。声掛けられた時、奈々菜のいた学校って分かってたんだけどね。ちょっとトイレに急いでたもんで」


 皆、私の顔と藍の顔を交互に見る。


「真壁さんって双子だったの?」

「違いますよ」

「ただのソックリさん」

「突然転校しちゃったから皆ビックリしてたよ」

「そっちもなの? 桜木さんも突然居なくなってて学校中大騒ぎだったよ」

「あはは、中々言い出せなくてね」

「桜木さん、あんまり自分から話せない人だもんね」

「あー……うん」


 藍はそういう認識のされ方だったか……。


「電話しても『使われてません』って流れてくるしさ、メッセも送れないし……スマホ変えたの?」

「うん、引っ越しでスマホ粉々に砕けちゃった」

「真壁さんの電話繋がんないのは……」

「私もスマホ変えました」

「なんで?」

「兄のついでです」

「お兄さんの?」

「兄と私のスマホ、家に帰ってくると鳴りっぱなしで、メッセージも読む暇が無い程着信してたんで……」

「奈々菜もかぁ。分かる分かる。で、返信打ってるうちにメッセージ別のグループからも入ったり、色んな話題が一斉に来るから結局読めないんだよね」

「うん、兄もあのとおりだったし……それに前の学校の事引きずるのも今の学校の子達に失礼だろうって」

「そう……だったんだ……」


 ちょっと重い空気になってしまったが、私と藍はそんな空気はお構い無しだ。


「ところでお兄さんは元気?」

「そう言えばお姉さん元気してる?」

「「え?」」


 私達の兄と姉の話が同時に出て、口にした当人達はちょっと驚く。

 私は少し嫌味も含めて答えた。


「兄は元気ですよ。今は顔を隠して誰も寄って来ないようにしてますから、解放されたって喜んでます」

「お姉ちゃんも元気だよ。今は見た目が全然変わったからね。発作は治ってないけど」


 其々に答える。


「……そっか、それは良かった」


 すると私達の前の方から、他の学校の生徒が集団で来るのが見えた。

 その内の一人が大きく手を振っている。緋色ちゃんだ。


「おーい、奈々菜ちゃんに藍ちゃーん」

「おー! 緋色ちゃん」


 私達を囲っていた子は全員振り向く。

 緋色ちゃん達は学校指定の服なのか、『YASAKA』と書かれた紺色のTシャツ姿で現れた。

 学校名のせいか王者の貫禄か、森北中と川梨中の子達は場所を空け、私達の前に谷坂中の子達が集まった。


「奈々菜ちゃん試合見たよ。凄いじゃん!」

「ありがと。横目で緋色ちゃんがこっち見てるのは見えてたよ」

「二年生でベスト8って奈々菜ちゃん達だけだよ」

「え? そうなんだ?」

「うん。奈々菜ちゃん達と試合したかったよ。来年、頑張って団体戦で出て来て」

「それは無理だなぁ。うち、団体戦勝てないんだよ。逆に緋色ちゃん個人戦で出てくればいいじゃん」

「無理無理。私、足引っ張っちゃってるし、来年、ペアの先輩卒業で人変わるからね……」

「上手く行かないもんだね」

「今日は練習?」

「うん。明日一回戦ね」

「頑張って」

「ありがと」


 よくよく考えると、来年も出場が当たり前の体で話していた。

 先生も先生同士で情報交換しているようだ。

 結構盛り上がっている。


「先生行くよ」


 谷坂中の一人が先生に声をかける。

 そして谷坂中の子達が私と藍に手を振る。私と藍も手を振り替した。


「ねね、なんで谷坂中の子と知り合いなの?」

「お父さん繋がり。先週実家で知り合ったの」

「へぇ……そうなんだ」

「それじゃあ、私達もそろそろ行こうか」

「だね。明日もあるしね」

「それじゃあ私達はこれで失礼します」

「あ、うん、じゃ……」


 私達の態度が谷坂中と温度差がある事に気付いたようで、両校、ちょっと困惑気味だ。

 明日の試合に影響無きゃいいんだけどね。



 ※  ※  ※



 ——— 八月末、夏休みが終わり今日から学校だ。この地方の夏休みは八月が明ける前に終わる。夏休みは短いが冬休みは少し長い。


「あれ? 真壁さんって今日来てないの?」


 そんな声が四方から聞こえて来た。


「ほら、テニスの全国大会って昨日からじゃん」

「え? そうなの? 応援行きたかったぁ」

「S県だよ。中学生一人ではちょっと難しいね」

「S県なの? マジ? 無理じゃん!」

 

 ——— 真壁っちと桜木さんは、一昨日から全国大会に行っていて、今日は学校に来ていない……ん? 

 大会は昨日から……個人戦は二日目の午前中まで……って事は今日の午前中か。

 昨日負けていれば、多分、今日、普通に学校に顔を出す……かな? いや、流石にそれは無理か……。

 

 そう思っていた矢先、


 ——— ”ピン♪ ポン♪ パン♪ ポン♪„


 突然校内放送が鳴った。


『昨日から行われている 全国中学校ソフトテニス大会女子の部個人戦に出場している2-A真壁奈々菜及び2-B桜木藍、両名ペアの試合結果について報告します。両名ペアは、準決勝で敗退し。三位という結果になりました。繰り返します 。昨日から———」

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