第57話 奈々菜と藍の〇〇〇その2

 ——— 全国大会が終わり、その翌週、早速朝礼で私と藍はステージに立ち、全国大会での三位の成績を讃えられ、全校生徒の前に立たされていた。

 毎回勘弁して欲しい。


 ——— そして放課後。部活の時間だ。

 全国大会が終わったばかりで一息吐きたいところではあるが、部活は新人戦に向けた調整が始まる。

 私と藍のレギュラーは文句なく確定だ。

 女子は個人戦、団体戦、共に選手が決まった。私と藍は個人戦のみにエントリーだ。

 一組でも多く試合に出して経験をというのが目的のようだ。

 斯くいう男子だが、最後の一組をどうするか決め兼ねているようだ。

 そんな中『成宮翔馬なりみやしょうま』は、


「は? 試合なんてどうでもいいじゃん。俺は真壁っちとラリーがしたいんだ。真壁っちとなら無限にラリーやれる自信がある!」


 と語っている。

 もう一人の男子『滝沢廉斗たきさわれんと』は、肉体改造に成功していい感じに引き締まった体と顔になった。

 顔は引き締まったが、イケメンという顔では無かった。ただ、以前よりは全然スポーツマンな顔付きになった。


「筋肉もいい感じで仕上がったし、次はラケットがボールに当たった時たまに背中に電気が走ったような気持ちいい感触が来るんだよ。あれ、あれを常に感じられる迄僕は極めたい!」


 と、二人共試合は全く興味が無いようだ。

 私は成宮の常日頃口にしているテニスをする理由に少し……いや、かなり頭に来ていた。

 ちょっと『ぎゃふん』と言わせてやろうと、私は初めて成宮をラリーに誘った。


「成宮、私とラリーやってみる?」

「え! まじ? やったね。初のお誘い☆ やっと心が通じたよ」

「んな訳あるか!」


 私のからのお誘いだ。当然周りの男子はそんな成宮を羨ましがる。


「まじかよ! 何であんな奴が真壁さんに誘われんだよ!」

「えー、そりゃ俺の愛が真壁っちに届いたんだよ」

「んな訳無いでしょ! あんたいっつも私基準で物事考えてるから少し痛い目見せてあげる」

「ワオ♪ 真壁っちSっ気あったんだ意外……でも無いか?」

「何? あんた私の事そんな目で見てたの! なんかムカつくなぁ……」


 私はこいつを前にすると沸点が急激に下がる。私の怒りっぷりに『こんなに真壁さんを怒らせる奴はあいつだけだ』と、皆口々に言う。確かににコイツだけだ。

 そしてラリーが始まった。出だしは大人しく互いに打ちやすい所に打ち返す。

 基礎をしっかりやってただけあってちゃんと打ち返せてる……打ち返せてるんだけど……私はさっきから気持ち良く打ち返せてる。あれ? 何でだ? ……そうか。さっきから私の打点が変わって無い……ピッタリ同じ場所にボールが返ってくる。私のラケットは終始同じ軌道を描く。

 私の打球は同じ場所に返してはいるが、それ程安定していない。黙ってても成宮は一歩二歩動きながら私へ打ち返す。

 私は驚きながらもボールを少し横にずらし始める。成宮を少し左右に振り始めた。

 当然成宮は左右に数本動き初めるが、それでも私が立つ場所に打ち返す。返ってくるんだけど……ウソ……少しとはいえ揺さぶってるのに私のラケットの軌道は全く変わっていない。打点が変わらない。何なのコイツ。

 皆、気付いているんだろうか?

 こんな正確なショットは見た事が無い。

 これは努力とかで何とかなるものじゃ無い。

 完全に才能だ。

 眠っていた才能を努力で叩き起こした。コイツの普段の練習量からそんな気がした。

 後にこの才能が私にとんでもない恩恵をもたらすのだが……。

 何十分ラリーをしていたのか。私の左右への揺さぶりも大きくなり、成宮は右に左に走っている。それでも成宮の返球は、打点こそズレ始めたが、私は殆ど動いていない。

 そして更に時間が経つと私の足も一歩、二歩と移動が必要になってきた。

 私は既に前後にも揺さぶっていた。そして———


 —— パサッ……トトトト……


 成宮が打ったボールはネットに引っかかった。


「ハァハァ、ハァハァ……ンッくぁ……ハァハァ……」


 流石に足に来たようだ。成宮はコートに大の字になって寝そべる。私は殆ど疲れていない。

 周りからは『真壁さん鬼だ』なんて声も聞こえて来た。

 私は成宮の傍にしゃがみ水筒を差し出す。


「はい、水」

「あ、ありがと」


 勿論成宮の水筒だ。普通に水筒を受け取るが、いつもの『成宮節』は出て来なかった。そんな余裕すらないようだ。

 上半身を起こし水を一気に飲み干す。


「ンク……ンク……ンク……ップッハー☆ あー生き返ったぁ」

「あんたバカでしょ?」

「ハァハァ、今に始まった事じゃないさ……ハァハァ、それにあと一時間はラリー出来た筈なんだけどな……流石に体力が足りなかった」

「それは私が悪かった……ごめんなさい。ちょっと悪さが過ぎた。まさかあんなに揺さぶったのにあんなに精度の高いリターンが続くとは思わなかった……」

「だから言ったろ? 俺は真壁っちとラリーがしたくて練習してんだって。それに揺さぶりは想定済み。それを補う為に体力付けてんだ。何が何でも真壁っちとラリーを続ける。それが俺達の愛の語らいって訳だ」


 成宮は拳を握り天を仰ぐ。


「はぁ……それさえ無ければ少しは認めてあげられるのに……」



 ※  ※  ※



 ——— 奈々菜達が打ち合ってた隣のコートでは、少し遅れて私と滝沢君が打ち合っていたんだけど ———。


「ちっがーう! ——— これじゃなーい! ——— あー!」


 滝沢君は一々叫びながら打ち返す。

 叫ばないと打てないの? 凄く煩い。元々こんな子だったっけ? 

 でも一つだけ目を見張るものがあった。

 彼のフォームは動きに無駄が全く無く『フォームのお手本』と言えるフォームで、誰よりも綺麗で美しかった。

 本当に凄く綺麗なフォームだ……どのスウィングも無駄が無い……左腕の使い方も上手いせいか、どんな体勢でもカッコよく見える。

 体幹もしっかりしてるからか、軸に一切のブレを感じない。

 そして返ってくるボールは突進力とでも言うのか、勢いがあって全て力強く、そして重い。

 なんかカッコいい……カッコいい? なんで私がコイツの事カッコいいって思ってる?

 すると滝沢君の言葉が突然変わった。


「——— はい! キタコレ!」


 一回打つ度に何かを叫ぶ。

 私は煩わしくなりボールを止めた。


「えー! 桜木さん今のいい感じだったのに何で止めるの」

「ちょっとあんた少し黙って打ち返せないの? さっきから何なの『これじゃない』とか『違う』とか」


 藍の質問に得意げに答える滝沢。


「桜木さん、テニスやってて、こう……打った瞬間、背中に電流みたいの走った事無い? なんて言うかな……筋肉の流れとか力の加減とか手に跳ね返ってくる感触全てがこう……歯車が噛み合ったみたいに『ガシッ』ってハマった感じっていうのかなぁ?」

「はぁ? 何それ? 意味分かんないよ」

「そっか……残念だな……」


 私は『背中に電流』じゃないが、会心の一撃のような『スカッ!』とする時がある事をふと思い出した。


「電流じゃないけど、まぁ……そんな時は偶にあるね。週一くらいで?」

「そう。僕はそれを求めてるんだよ。それを桜木さんと一緒に感じる事が出来れば最高なんだけどな……」


 何? この前は私に『ちょっと黙ってて』なんて言って、今度は『一緒に感じたい』? 何なの? 意味分かんないよ。


 ——— そして新人戦男子レギュラー最後の一枠に成宮君と滝沢君が選ばれた。



 ※  ※  ※



 ——— ある日の朝礼。ステージ上に私と藍が再び立たされる。その隣には成宮と滝沢君もいた。

 そして学園長からの労いの言葉が……


「えー、先日の中総体新人戦においてソフトテニス個人戦で優勝した ———」


 ……私達は元より、成宮と滝沢君も地区大会を優勝してしまった……しかも全試合1ゲームも与えずにだ。

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