第55話 全国大会①

 ——— 八月下旬。今日で夏休みは終わりだ。終わりなのだが、私と藍は昨日からとある街のとある総合運動場に来ていた。

 そうである。中総体ソフトテニスの全国大会だ。


「結構大きい会場だね」


 と私の言葉に「そう……だね」と、藍は浮か無い返事を返す。


「どうしたの?」

「いやー、前の学校の子達と顔合わせるって思うと……」

「ははは、それは私も思ってた。そっちもうちも見事に団体戦で優勝してたね」

「ちゃんとさよならしてれば何も問題無かったんだけどね」

「なんだよね〜……」


 私も藍と同じで、面と向かって皆にさよならをしていない。

 お互い色々思うところがあって、内緒で転校してきた。

 なので顔を合わせれば気不味い雰囲気になるのは間違い無いのだが……ちゃんとさよならしてても余りいい顔はしたくない。


「まだ時間あるし、ここで待ちましょう」

「はい」


 私達は運動公園の広場にあるベンチに腰を掛け時間が来るのを待っていた。

 遠目にチラチラ私達を見ている子がいる。

 あまり自分で口にしたくないが、『可愛らしい双子』がいれば、ついつい見てしまうものだ。

 ついでに私と藍は既にユニフォームに着替えている。

 普段であれば学校指定のジャージか、部でお揃いのウィンドブレーカーを着ているところだが八月だ。

 暑い。

 開会式も近いので私達はユニフォーム姿でいた。

 ユニフォームは青と白のグラデーションをベースに紫が差し込まれたちょっと見た目に騒がしいデザインだ。

 藍を見る限り似合ってる。なので私も似合ってる……筈。

 

「ちょっとトイレ行ってくる」

「それじゃあ先生は飲み物買ってくる」


 そう言って二人はこの場を離れた。

 私は一人ベンチに座っていた。

 少しすると「さん?」と横から声がした。

 私は声がした方を向くと、そこには知らない女の子が四人立っていた。彼女達は私の顔を見るなり突然騒ぎ始める。


「わぁ♪ やっぱりさんだ♪ 久しぶりぃー。突然転校しちゃってビックリしたよぉ」


 四人は座っている私を囲む。

 どうやら藍の前の学校の子達のようだ。

 真っ赤なユニフォームの胸にはアルファベットで『MORIKITA』と書かれている……『森北中』……『森花北中学校』……以前、藍から学校名は聞いていた。


「ねね、なんで連絡先とか全部変えたの? 全然連絡付かないし心配してたんだよ?」

「まさかここで会えるなんて思わなかったよ」

「新しい学校はどう? ん? あれ? なんか雰囲気変わったような……」


 彼女達は私が藍だと思って話し掛ける。

 この食い付き振り、藍も前の学校では大変だったのがよく分かった。


「あの……私、桜木じゃなくて真壁と言います」


 私は必要以上の情報は与えないように努める。同じ学校である事も私からは話さない。


「え? またまたぁ……って、なんか声も落ち着いた感じ……だね?」


 私と藍の決定的な違いは声だ。

 藍は弾けた感じでちょっと高い。私は落ち着いたトーンで低めだ。


「あれ? この子ホントに桜木さんじゃない」


 女の子が一人、私の背中に付いてるゼッケンを見て驚いている。


「え? 嘘。真壁……さん?」

「はい」


 私は座ったまま乾いた笑顔で受け答えする。


「苗字が変わった訳じゃ……無いみたいだね」

「え、あ……御免なさい。知り合いにそっくりってい

うか瓜二つだったんで……あはは」

「ホント……そっくり」

「よく見ると……可愛いってよりは綺麗って感じだね」

「本当に御免なさい。話しかけついでに伺うけど、私達はI県の森花北中なんだけど、学校、教えてもらっていい?」


 名乗ってきたし、そこは礼儀で私は素直に答えた。


「はい。M県の新山学園です」

「新山? ……あれ? そこって高校バレーの? 中学?」

「はい。中等部と高等部があるんです」

「そうなんだ。えっと……出るのは個人戦?」

「はい」

「そっか。ありがと。邪魔して御免ね。それじゃあ」


 四人は去って行くが『そっくり』『ビックリ』『可愛い』の声が聞こえて来た。

 私が藍の旧友(?)に絡まれていた頃、藍は ———。



 ※  ※  ※



 ——— 奈々菜が私のに絡まれてたころ、私はトイレに向かって歩いていた。

 すれ違う人、皆、私に視線を送る。

 男子は元より女子もだ。

 すると、目の前から四人の女の子が歩いて来た。

 その内の一人が私に気付くと『ねぇねぇ』と他の三人に私の存在を知らせた。

 そして、一人が私に手を振って駆け寄って来た。


「真壁さーん! 真壁さん久しぶりー!」


 その一言で察した。奈々菜の前の学校の子達だ。

 勘弁して。私トイレ行きたい。


「真壁さん、いきなり転校しちゃうんだもんビックリしたよ」

「元気だった? って、此処にいるって事は……県大会優勝したんだ?」


 一方的に話をしてくる。奈々菜も大変だったんだな……あはは、なんか私と一緒だ。トイレ行きたい。

 トイレに行きたかった私は、自分の素性を素直に教えてこの場を去った。


「御免なさい。人違いです。私の名前は真壁じゃなくて桜木です。ほら」


 そう言って、背中のゼッケンを見せた。


「あ……御免なさい。ちょっと友人に似てたもんで……」


 友人なら区別付くでしょ? 私は急ぎその場を去った。


「まぁ、他人の空似ってあるしね。あ、御免なさい、ちょっと急いでるんで、それじゃあ」


 私は一礼してトイレに向かった。間に合った……ふぅ。



 ※  ※  ※



 暫くして藍が戻って来た。


「奈々菜の前の学校の子達に声掛けられたよ」

「私も。『桜木さん?』って」

「ははは、まさか此処で会うとは思わないよね。しかもソックリさんで繋がりがあるなんて……そこまで話した?」

「話さないよ。その子達が藍に対してどういう関わり方してたのか分かんないし。藍は?」

「私はトイレ行きたかったから、『真壁じゃない』とだけ言ってその場を去ったよ」

「開会式でまた顔合わせるかな?」

「だね」


 私達は開会式の会場に向かった。


 

 ※  ※  ※



 開会式の会場は室内コートだ。外にもコートは有るが室内もある。これなら雨天での遅延はあっても中止にはならない。

 私と藍は会場の隅で先生と話をしていると、一人の女の子が話しかけてきた。緋色ちゃんだ。


「緋)やっぱり奈々菜ちゃんと藍ちゃんじゃん! なんか目立つ双子いるなって……もう、ビックリだよ」

「藍)あ、緋色ちゃん一週間ぶり」

「奈)久しぶり」

「緋)久しぶりじゃなくて……二人も出るんだ?」

「藍)えへへ、個人戦でね。実はあの時内緒にしてたんだ」

「緋)酷いなぁ」

「谷坂中の子)佐竹……この子達って……」

「緋)あ、先輩。えっと、父の実家で知り合った子です」


 緋色ちゃんの苗字初めて知った。『佐竹さたけ』って言うんだ。

 なんか気付くと緋色ちゃんの中学『谷坂中』の人、全員に囲まれていた。

 

「谷中の子)皆で『あの双子可愛い』って見てたら佐竹いきなり駆け寄って普通に話し掛けてんだもんビックリしたよ」

「緋)実はこの二人、双子じゃないんですよ」

「谷)嘘? マジ?」


 私と藍は背中を見せた。


「谷)え? 親が離婚とかでもなくて?」

「緋)ご両親とも会いましたけど、普通に別々の家族でした」

「谷)学校ってどこ?」

「藍)M県の新川学園です」

「谷)新川新川……M県……バレーの?」

「奈)はい。まぁ、バレーは高等部ですけど」

「緋)二人は個人戦で出るんだ?」

「藍)うん」

「緋)やっぱ、元森北と川梨出身は違うわ」

「谷)え? どう言う事?」

「緋)二人共、其々にそこから転校して来たんだそうです」

「谷)そっか、だから森北と川梨の子らこっち見てんだ」


 その言葉に、私と藍は周りを見た。すると、森北と川梨どころかほぼ全校が私達の方を見ていた。

 何この状況。ちょっと怖いんだけど。

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