第111話 中等部の修学旅行③

 ——— 私と翔馬の関係に付いて「仲良いんだ」の一言に私は答えを委ねるかの如く、思わず翔馬を見てしまった。

 翔馬は躊躇う事なく答える。


「悪くは無い。現に今こうして隣に座れるくらいの仲ではある」

「まぁ、嫌いだったらここに来ないわな」

「そいう事」


 実際、抱きついたりアーンしたりする仲だ。チューしてもいい……いや、したい仲だ。

 普通の子が今ここで私と翔馬みたいなやりとりをしたら『付き合ってる』って疑いの目で見られるんだろうけど、私の偶像的立ち位置がその発想を遠ざけている。

 なので私と翔馬が付き合ってるって誰も思わないようだ。


「真壁さんが成宮を呼び捨てなのは?」

「最初はコイツの呆れる考えと言動に頭きてて『成宮』って呼び捨てだったのが、ちょっと激怒する事が」

「ちょっと?」


 六花が私の顔を覗き込む。もう!


「……メチャクチャ激怒した事があって『アホ翔馬』に変わって、そのうち『アホ』って言うのも面倒になって、アホが取れただけ……です」

「なんか真壁さんの口から『アホ』って……ちょっと意外すぎる」

「だからコイツも普通の女の子なんだって」


 これで私と翔馬が互いの隣のクラスでも名前を呼び捨てで呼び合う事が自然な事になった。よし♪


「佐野峰さんとの仲は?」

「なんだろ? 価値観の一致? 互いに無関心だから? なんで?」

「私も分かんない。『この人私に興味無い』って思ったら仲良くなってた感じです」

「なんか分かる。佐野峰さんって全然周りに媚びないっていうか……自分を強く持ってるよね?」

「うんうん。でもって人のお話ちゃんと聞いてくれるし、他人の話は一切出さないし教えてくんないし……だから信用できるっていうか……なんでも話せちゃう」

「多分、男女両方からモテるタイプだな」

「はいはいはいはい、『彼女にしたい女』じゃなくて『親友にしたい女』だ」


 その一言で皆大きく頷いた。勿論私も頷いた。


「何それ? それって喜んでいいの?」

「分からん。ただ、佐野峰さんを嫌いという奴はまずいないだろうな」


 再び皆頷く。


「なんか居心地悪くなった。帰っていい?」

「ははは、照れんなよ」


 六花が場の空気を変えようと突然話を切り出した。


「で、えーっと……何? 私達来る前何話してたの?」


 焦る六花は初めて見た。


「モチ『恋バナ』っしょ!」

「で、誰の恋バナ?」

「桜木さん」

「桜木さん? なんで? 彼女この場にいないじゃん」

「うん、コイツ、先日告ってフラれてさ、そん時『好きな人いるんで』って言われたって話でね」


 あ! この男子、どっかで見たと思ったら、藍に告った人だ。

 

「御免なさい。私もその場に居ましたね」

「ははは……やっぱ覚えて無かったか……まあ、そんなもんだよね」


 今年に入って『好きな人がいる』って断り方をしてるが、告白の数は全然減ってなくて藍は困っていた。


「あの……以前から藍の好きな人の噂はあったと思うんですけど……告白……どうしてしたんですか?」

「あー……まずは踏ん切りかな?」

「踏ん切り?」

「一応、想いは募る一方だし、告白して玉砕した方がスッキリするよね?」

「まぁ、そうかと思いますけど……」

「で、桜木さんに好きな人は居るって今年に入って出始めたけど、誰なのかは噂ですら出てないよね?」

「はい」

「で、もしかしたらワンチャン俺じゃね? って感じで告ってみました」


 うーん……なんだかなぁ……。


「それは告っちゃダメな案件だろ?」

「なんで?」

「断られること前提だろ? 断る方の身になって考えて無いだろ?」

「まぁ……無いな」

「断る側からすると、大なり小なり気持ちぶつけてくるんだ。それを受け止めた上で断るのは辛いんだってよ。断った後も下手すりゃ逆上して何されるか分かんねぇし……集団で待ってて襲われるかも知れない。だから毎回怖い思いしながら二人でその場に出向いてんだ。それも前から好きな人の噂聞いてんだろ? 皆ちょっとは察してやれって話だ」

「なんか本人から聞いたみたいに詳しいな」

「みたいじゃなくて聞いたんだよ」


 翔馬は親指で私を指差す。当然、皆、私を見る。


「そうなの?」

「……はい」


 私は端的に答える。実際翔馬が全部話してくれたし私から言う事は何もない。


「そっか……なんかモテるから羨ましいって思ってたけど……」

「ばーか、モテるにしても限度があるって。想像してみろ。好きでも何でも無い見ず知らずの奴らから四六時中色目で見られるんだ。鼻クソ一つほじれやしねぇ。大体プライバシーあんのか?」


 正直無い。

 今ここにいる子達は翔馬の言葉に私の置かれている状況を初めて理解した。そんな感じだ。


「ツインズ二人共告白されまくりでしょ? 二人で情報交換したりしないの?」

「それは絶対しません。一応、手紙にはたった一言でもその人の想いが詰まってる訳で、それは私に向けて綴られた言葉です。他人である藍に見せて良いものではありません。なので、頂いた手紙とかは絶対見せませんし、藍も同じ考えで私に絶対見せません。ただ、最近お互いに付き添うようにしたので相手の顔は分かりますが……」

「そうだよねぇ……想いか……確かにそうだね。私だったら『私何人から告られたー』とか『手紙にこんな事書いてたー』とか自慢しちゃうけど……私も見せないようにしよ」

「その前にくれる相手作んないとね」

「煩い!」

「ここにいる子達は無いと思うけど。他の女子からのやっかみとか無いの?」

「ありますよ。偶に睨まれたりとかありますけど……実害はまだ無いです」

「そうなんだ。やっぱあるよね」


 私は一部の女子から妬みを受けている。何しろ自分が好きと思ってる異性の目線はツインズに向いてたりするからだ。

 ただ男子から直接のアプローチは受けた事は誰からもない。

 多分、高嶺の花過ぎて気軽にアプローチ出来ないんだと思う。

 そう考えると、周りの声も気にする事なく公然と平然とアプローチしてた翔馬って……大好き♡


「そっか……ツインズ苦労してんだ……御免、今まで正直羨ましくてちょっと妬んでたとこ有った」

「まぁ……あんまり大きな声では言えませんけど……なんにしてもいい気分では無いです」


 すると男子の一人が翔馬に矛先を向けた。


「で、成宮、お前も真壁さんに『愛しの』とか色々言ってっけど、それも迷惑なんじゃねぇの?」

「俺はいいんだよ。好き好き軽い感じで普通に言ってっけど、これが本音ってのもしっかり伝えてる。ただ『付き合ってくれ』とだけは言った事は無い」

「そうなの? 一回も?」

「ああ、一回も無い」

「真壁さんそうなの?」


 私は思い出すフリをして天井を見上げ、そのまま答えた。


 ——— 確かに無い。


「はい……無いですね」

「そもそも、お前付き合う気あんのか?」

「ある。ただ今ではない」

「なんだそれ? それ、もう告ってるの同じじゃね?」

「いや、違う。俺が告る時は俺が俺として俺である事に自信が持てた時だ」

「意味わかんねーって。ま、それ以前に真壁さんが翔馬を好きかって話だ。で、真壁さんに好きな人っているの?」

「私ですか?」

「うん。桜木さんは好きな人いるんでしょ? だったら真壁さんだっていてもおかしく無いじゃん」


 今度は私が恋バナの標的になったようだ。

 藍に好きな人がいれば私にだって好きな人がいる……確かにそうなるかな? 実際いるけど。


 ——— うん、いい機会だ。告白の数も全然減らないし、告白しようとしてる人達の露払いもしたいしね。

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