第110話 中等部の修学旅行②

 ——— 私が翔馬の隣に座ると、男子の一人が場所を変われと、冗談半分な雰囲気で言って来たが、翔馬は普通に受け流す。


「えー、そんな折角のチャンスお前にやる訳ねぇだろ。それに別のクラスの集団にいる訳だし気も使うだろ? そもそもお前、奈々菜が隣にいてまともに話できんのか?」

「え、あ……悪りぃ、無理だわ」

「だろ? あと、俺と奈々菜と佐野峰さんは去年同クラだったし、俺と奈々菜は部活も一緒だ。しかもこいつ、意外と人見知りだし、そんな俺と佐野峰さんに挟まれてれば安心感もあるだろ。だから今日のところは勘弁して貰って、この場で馴染めば次回なんかあった時、お前の隣に来てくれるかも知んないからさ」


 翔馬の言葉に私も一言、


「御免なさい。ちょっと場に慣れさせて下さい」

「はい。いつまでも待つんで……はい!」


 御免なさい。翔馬がいる限りあなたの隣に立つ事は絶対無いです。


「自己紹介したら?」

「だね。真壁奈々菜です。お邪魔致します」


 私は翔馬に促され三つ指付いて丁寧に座礼した。


「なんか所作が中学生のそれじゃ無い……」

「間近で見るの初めてだけど……ホント可愛い……お人形さんみたい……」

「私、去年桜木さんと同じクラスだったけど……『双子じゃ無い』って方が無理あるくらい似過ぎ」


 女の子達は私を見てはしゃぐ。

 男子は惚けてる。

 そして皆が私に自己紹介をしてくれたが……覚えられる訳もなく、


「で、女子四人、なんでこの部屋に?」

「勿論、斉藤君目当てだよ」

「おー、納得。流石イケメン斉藤君。モテるねー」

「ははは……」


 さっき『斉藤』と自己紹介してくれた彼は頭を掻いて照れている。

 そこそこにカッコいい感じの子だと思う。

 正直、容姿の価値観はお兄ちゃんと翠ちゃんに壊されているので、私は何も感じる事が無かった。

 因みに『斉藤』は苗字で劇中再登場があるかもしれないが今のところ予定はない。


「真壁さん的には斉藤君みたいな人ってどうなの?」

「え? はぁ……実は私、容姿がどうっていうは……よく分かんないんです」


 私は色恋話に発展しそうな内容の時はリップサービスは絶対しない。変に勘違いされて変な方向に拗れる可能性が高いからだ。

 

「え? じゃあ、真壁さんってあんまり外見拘んないの?」

「拘らなくは無いですけど、外見であればそれなりに身形とか清潔感とか……礼儀作法とかが決まってるとカッコいいって思う事はありますよ。性格とかだったら、物の考え方とかでカッコいいなって思う事は結構あります」

「へぇー、なんか新鮮な視点だね」

「逆に見た目がカッコいいって言われてる人が、決めるべき時に決めなかったりすると、やっぱりカッコいいとは思えませんよね?」


 私の言葉に女子トークが炸裂する。


「あー、なんか分かるぅ。そう言えばEクラスの佐々木君ってソコソコカッコいいじゃん?」

「Eの佐々木って……」

「ほら、サッカー部の」

「あー」

「あの人、対面式で整列してる時、一人だけなんか態度が悪いっていうかダラシないって感じだったでしょ?」

「だったねー!」

「あれ見てちょっと『無いわー』って思った」

「分かるー。私もあれ見てリストから消したもん」


 何だ? 『リスト』って?


「真壁さんの目線と価値観何と無く分かったよ」

「おい男共、ちゃんと心のメモ帳にメモっとけ。見た目は大事だけど容姿じゃ無いって」

「分かった」

「そういう点では奈々菜的には成宮君は一歩リードしてる感じだね」

「「「え?」」」


 皆驚く。私も驚く。突然六花が翔馬に焦点を当ててきた。何?


「ほら、生徒手帳の……」

「あぁ、はい。あれは正直、翔馬の考え方? 見方? それに助けられたね」

「何? 教えて」


 食いつく女子に六花は詳しく説明する。


「いやね、成宮君が生徒手帳拾って、『これ誰のだー』って」

「中見れば分かるじゃん」

「コイツは敢えて見なかったんだよ」

「なんで?」

「奈々菜の手帳だったら、奈々菜はこの街にいる限り翔馬に怯えて生活しなきゃならなくなるだろうって」

「はい? どういう事?」

「手帳って個人情報の塊じゃん。アンタこの子の住所と電話番号知ったらどうする?」

「取り敢えずその家行って見るかな?」

「でしょ? でもさ、奈々菜からしてみればそれって……」

「キモッ!」


 女子の一人が両肩をさする。


「ね? 見られるの嫌だし知られるのも嫌じゃん。現にストーカー予備軍ここに居たし」

「確かに」

「成宮君はそこまで読んだの」

「なるほど……」

「で、奈々菜は成宮君は信用できる奴って事で、そのお礼に桜木さんしか知らなかったメッセのIDを教えてあげましたと」

「マジか成宮! お前、真壁さんのID知ってんのかよ!」

「ところがコイツ、全く連絡しないでいたら『なんで連絡よこさないんだー!』って奈々菜メチャクチャ激怒しちゃって、この子、思わず電話番号まで教えちゃってんの」

「ハァ? お前……すげぇな」

「俺なら連絡しまくるぞ」

「だよな?」

「うん。女子でも真壁さんにメッセ送りまくりだね」

「だから奈々菜は誰にも連絡先教えないんだよ」

「佐野峰さんは?」

「私? 勿論知ってるよ?」

「いーなー」

「でも連絡したの『あけおめッセ』と今日廊下に呼び出したのだけだね」

「そう言えば私も佐野峰さんとID交換してるけど、メッセ貰った事ない」

「私も」

「もしかして真壁さんの連絡先知ってるのって、ここの二人と桜木さんだけ?」

「あと一人います」

「え? もう一人いるの?」

「はい。藍の好きだっていう男の子です。その人も全然連絡くれません」

「え? やっぱ桜木さん、好きな子いるんだ?」

「今の話を纏めると、真壁さんのIDゲットの条件は『連絡しない事』って事か……」

「それだとID貰う意味無いね」

「ふふふ、そうなりますね」

「しかし成宮、普段、真壁さんの事好き好き言ってるくせに、言ってる事とやってる事が矛盾してんな」

「あぁん? 俺は奈々菜の打った文章が読みたい訳でもスピーカー越しの声を聞きたい訳でもねぇんだよ。直よ直。直接こうして同じ空間、同じ空気に触れていたいんだよ」

「翔馬はなんだかんだで節度はあると思ってます。うざいけど」

「ところで成宮、さっきから気になってたんだけど、真壁さん呼び捨てで呼んだりコイツ呼ばわりしてなんか馴れ馴れしくないか? それに佐野峰さんも……真壁さん二人の事呼び捨てだし……そんなに仲良いの?」


 男子が疑問を呈した。


「馴れ馴れしいって、何もコイツは貴族でも姫でも国賓でも無いんだ。普通の女の子だぞ? お前らが特別扱いし過ぎなんだよ。な?」

「うん、そう言ってくれるのは翔馬だけだね。そこは素直に有り難うって言うけど、ただ、アンタの場合は色々もうちょっと自重しろって思う。うざい」

「ははは、確かに。そう言えば、成宮君、最近奈々菜の名前に『ち』付けなくなったけど……それに奈々菜も『奈々菜って呼ぶな!』って怒ってたのはどうした?」


 六花がちょっと態とらしく聞いて来た。うーん出来る子。


「『ち』って?」


 他のクラスの子にはあまり知られていない話だ。


「この人、奈々菜の事、最初は『真壁っち』って呼んでたんだよ。正月明けたら『奈々菜っち』になってたね」

「初夢に奈々菜が出て来て『奈々菜』って呼んで♡ って言われたからな」

「私を夢に勝手に出すな! そして私に出演料払え!」

「そのうち養ってやるから待ってろ」

黙れ分かってる!」

「で、三年にもなったし『ち』は子供くさいって奈々菜に怒られた」

「私も一々突っ込むのも疲れたしコイツに名前呼ばれたからってトキメク事も無いトキメキ期間は過ぎたし……そんな感じ……です」


 皆、目が点になっている。


「あの……一ついい?」

「はい?」

「真壁さんって、この前も成宮君の首絞めてたけど、なんか……結構口悪いよね」

「ふふふ、コイツにだけです」

「そ、俺だけ」

「去年はずっとこんな感じだったね」

「仲いいんだ」

「…………どうなの?」

 

 その一言に私は答えを委ねるかの如く、思わず翔馬を見てしまった。

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