第97話 中等部 その2

 ——— 中等部対面式。

 一年生は小学校から上がって来たばかりの子達だ。皆、制服に着られてる感じで初々しい。

 式は滞りなく進み、そして部活紹介になる。


 今、壇上にはソフトテニス部が並んでいる。

 レギュラーは皆、ユニフォームを着ていた。

 私と藍も当然ユニフォーム姿だ。

 この姿は同じ部員じゃないと見せない姿だ。逆に私も他の部の子のユニフォーム姿を殆ど見た事がない。

 そう思ったら、普段見せない姿を晒していると気付き、実はちょっと照れていた。


「ツインズ可愛いよね」

「ツインズユニフォーム似合うよね」

「あの二人が着る物、全部可愛いじゃん」

「お前、ツインズどっち推し?」


 会場から聞こえる声。

 最近、私と藍は『ツインズ』と呼ばれるようになった。そもそも『真壁さんと桜木さん』って呼ばれてた時はちょっと長いなとは思っていた。

 なので『ツインズ』は呼び名としては結構気に入ってたりする。


 一年生からも声が聞こえてくる。


「あの双子の先輩綺麗だよね」

「私もテニス始めようかな」


 そして部長が話し始める。


「我々ソフトテニス部は ——— 」


 部長が部員数とか試合の実績を話す。当然、私と藍、そして翔馬と廉斗君の名前が上がる。

 一応、名前を呼ばれて手を挙げるわけだが、私達の名前を聞き、私達が双子じゃないって気付いた一部の一年生が『え?』って感じで少しどよめいた。

 翔馬と廉斗君も名前を呼ばれて手を挙げるが、


「成宮つまんねーぞー!」

「面白いことやれよー!」

「廉斗脱げー!」


 三年男子から翔馬と廉斗君に対するヤジとも違う揶揄するような声が上がった。

 翔馬はあのとおりのキャラクターだ。そして、女子の目が他の男子に行くようなフォローを陰ながら入れたりと、そこそこ男子に人気がある。

 廉斗君は余り人と関わらないが、個性的なキャラはそこそこ受けているようで、意外と人気者だったりする。ただ、男子だけに限るようだ。


 二人共容姿は大した事はない(って六花が言ってた)ので黄色い声が上がる事は無いけど、彼らを嫌ってる女子生徒はまぁ……いないって程度かな? 

 好意を寄せてる子がいるとかの話はまだ耳にしたことは無い。


「ではデモンストレーション。今から新入生の前に並べたバケツに彼がラケットで打ったボールを入れて行きます」


 コの字に整列している一番遠い列の前にバケツが五つ並べられた。

 バケツから外れればボールは新入生に当たる。当たったところでゴムボールだから痛くはない。

 そして翔馬と廉斗君がラケットを手に壇上を降りて、廉斗君は新入生を背にして立ち、ラケットでボールをバスケのドリブルみたいに床に叩き続ける。彼はフォームが綺麗だが、叩きつける姿すら綺麗だ。全てにおいてフォームが完成されている感じだ。

 翔馬は新入生に向かってステージの前に立つ。

 翔馬の位置とバケツの位置は結構離れている。

 そして廉斗君は叩き続けたボールを左手で取り、一度床にボールを叩き付けてからボールを翔馬に向かって打つ。いつ見ても綺麗なフォームだ。丁寧で力強く、そして無駄がない。

 廉斗君が打ったボールを翔馬は打ち返す。

 すると、


 ——— ガシャ!


 ボールは床に一度バウンドしてから一番左のバケツに入る。

 そしてテンポよく廉斗君は翔馬に向かってボールを打つ。


 ——— ガシャ!

 ——— ガシャ!

 ——— ガシャ!

 

 一度床にワンバウンドしたボールは、廉斗君の真後ろにあるバケツを残し次々ボールが吸い込まれる。

 ただ、最後の一球、翔馬はラケットを横にスイングさせた。

 ボールの軌道は当然横にズレるが、床にワンバウンドした瞬間、ボールは横に跳んだ。カットだ。


 ——— ガシャ!


 そして、廉斗君の真後ろにあるバケツに入った。


「おぉぉぉぉぉ ——— !」


 会場が沸く。

 翔馬は両手をあげ、笑顔で答える。カッコよすぎ♡ 変な虫が付くので、あんまりカッコいいところは見せないで欲しい。

 そして部長が翔馬と廉斗君の補足説明をした。


「先程、彼らは新人戦の県大会で優勝したと言いましたが、彼らがテニスを始めたのは二年生になってからです」


 その言葉にその話を知らなかった二、三年生も響めいた。


「マジか!」

「成宮すげぇな」


「やる気があれば何でも出来る! 二、三年生の入部も歓迎します。以上ソフトテニス部でした」



 ※  ※  ※



 ——— お昼休み。

 私達は例の東屋に集まっていた。


「奈々菜と藍ちゃん見られてないか? お前ら歩くだけで人目に付くから……」

「うん、ちゃんとルートは考えてるよ。ちょっと面倒だけど」


 私達はみんなで弁当を広げた。


「はい、これ。アーン♡」

「頂きまあーん」


 私は私が作ったオカズを翔馬に食べさせる。

 翔馬も結構慣れたもので、抵抗無く口を開けて私が差し出したおかずを口を開けて迎える。


「おいひー」

「えへへ」


 そんな私達の隣では藍は廉斗君とおかずを交換していた。

 藍って私みたいなイチャ付き方をしない。

 腕を組むにしても抱きつく事はせず、軽く絡めるだけだったり、隣に座ってもベッタリ密着する事は無く、さり気無く体が触れ合う程度だったり、傍から見ると大人な振る舞い……というか熟練なカップルの振る舞いをしている。


「翔馬あれ、上手く行ったね」

「まぁ、あの位なら余裕……かな?」

「あんなの高等部の先輩も出来ないって」


 対面式での翔馬のデモンストレーションの話だ。

 距離が離れれば手元での少しのズレは遠くなればなるほど大きくズレる。


「翔馬の凄さ、皆が知ってくれるのは嬉しいんだけど……知って他の女の子が寄ってこないか心配だよ」

「大丈夫大丈夫。そうならないように普段から奈々菜奈々菜言ってんだから」

「そだね。それに呼び捨て呼びも徐々に広まってる感じもするしね」

「どうやって『ち』外すか考えてたけど、奈々菜のおかげでなんとか外せたよ」

「最初っから取っとけば良かったのに」

「いやいや、それは流石にハードル高いって。大体、初めて呼んだ時、お前、俺の事そんなに好きじゃなかったろ?」

「うん。でも友達くらいには思ってたよ……多分……へへ。そもそも私の名前呼ぶのって藍が初めてだったし……あの時の事は今の気持ちが上書きされちゃったからよく覚えてないや」

「奈々菜の悪態も無くなれば完璧なんだけどな」


 私が素直に返事なり反応すれば済む話なんだけど、ま、そうは問屋が卸さない訳です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る