第98話 ケ・ベッロ その1①

 ——— 放課後、私は宗介と街に買い物に来ていた。今日の買い物の目的は新しい帽子の購入だ。

 以前から計画していた『脱陰キャスタイル』に向けての準備である。


「えへへー、宗介と制服デート♡」

「そんな喜ばなくてもいつもしてるだろ」

「うん。毎回嬉しい♡」

「で、今日買うのは帽子か?」

「うん。この前話したウィッグ外す第一歩ね」

「普段被ってる帽子じゃダメか?」

「サイズ、ウィッグの分加算されてるから、ウィッグ無しのサイズに変更しないとね」

「て事は、ウィッグ外して試着すんの? ……大丈夫か?」

「うん。だからお客さんが余り居ないと思われる平日に来た」

「だったら閉店間際の方が良さそうだな」

「だね。じゃあ時間潰そうか」

「おう! 制服デートだ!」



 ※  ※  ※



 今日はアーケード街に足を運んで入るが、ちょっと外れた通りを歩いていた。

 この通りは、お洒落なお店がポツポツ見える通りで、雑誌に載るようなお洒落で個性の強い店が多い、通称『ファッション通り』だ。

 休日はお洒落を求めた女性で賑わうのだが、平日は閑散としていて、制服姿の高校生はあまり歩かない通りである。


「ところで何処で買うんだ?」

「決めてない。適当に歩いてお店在ったら入ろうって程度にしか考えてなかった」

「それじゃあ、目星付けながらブラつくか」

「だね」


 私は宗介の指に私の指を引っ掛ける程度に手を繋いでいた。付き合い初めてまだ半年も立っていないが、一緒にいる時間は長い。なのでベタベタするような気持ちの昂まりはそれ程無い。

 時折学園の子とすれ違うが、それほど凝視される事もなく、今日は歩く。なのでゆっくり街並みを堪能している。

 通りを歩いていると甘い香りが漂ってきた。あたりを見るとクレープ屋があり、窓越し販売をしていた。

 店頭には女子高生が二組程並んでいた。うち一組は学園の生徒だ。


「ね、クレープ食b「食べる!」


 私が言い終わる前に宗介は被せて答える。


「宗介ホント好きだね」

「あぁ、勿論、翠も好きだよ」

「私はついでか!」


 宗介は店頭に並んでいる学園の生徒に目を向けている。


「宗介クラスの子居る?」

「居ない。翠は?」

「居ない。大丈夫」

「んじゃ、並ぶか」


 噂になり得る芽は摘む必要がある。と言っても同じクラスで無ければ話題にはならない。

 待つ事数分。私達の番が来た。


「さて何食べる」

「私はねーこの、ゴールデンデリシャスバナナチョコミントフレーバースペシャルクリームがいいかな」

「長いな。あと食べたいものあるか?」

「え? だったらね……このストロベリークリームかな?」

「随分あっさりしたネーミングだな。それじゃ、この2つ下さい。」

「宗介はいいの?」

「ここで出すものは全部美味いに決まってる。もう、見た目が美味い! 香りが美味しい! つーか、もう目と鼻で満足だ……ん? もう頼む必要なくなくない?」

「それじゃあ私が全部貰うね」

「御免なさい」


 宗介は甘い物を目の前にテンションが斜め上に上がってしまっていた。


「はい、お待たせしました。『ゴールデンデリシャスバナナチョコミントフレーバースペシャルクリーム』と『ストロベリークリーム』です」

「有り難う御座います」


 宗介が率先してクレープを受け取る。そしてそのまま店を離れ、長いネーミングのクレープを私に渡し、自分の手にあるクレープにかぶりついた。

 私もかぶりつく。


「ングング……ゴクン……美味い!」

「うん♪ 美味しいね」

「下手な食レポすると台無しになりそうだから敢えて言わないが、美味い!」

「確かに……下手な先入観持たせるより先ずは味わえって感じだね」

「そっちの頂戴」

「はい」


 宗介は私の手から直接かぶりつく。


「うーん……俺の舌がダンスダンスダンスしてるぜ……」

「何うっとりしてんの」

「俺の食ってみ。そっち食ってからこっち食うと『元祖クレープ』感を味わえてそっちがより一層美味くなるぞ」

「どれどれ」


 宗介は私の手から直接クレープ頬張る。


「うん。クレープだ。混ざりっけの無いクレープ。美味しい」

「で、自分の食べてみ」

「あむ……うん。ほんとデリシャス!」


 私達は交互にクレープを頬張り美味しく頂いた。

 ついでに言うが、キスの経験は『事故』と『一方的搾取』でしかした事がないけど、『間接キス』で頬を赤らめるような関係はとっくに過ぎている。

 今更だが騒ぐような事は何もない。

 

 クレープを食べた後はスマートフォンを片手に暫く通りを練り歩いた。

 時折ショップに入ったり、カフェの前で立ち止まり、スマートフォンでスイーツの内容を確認したりした。

 流石に食べるには胃袋に余裕はあれど、金銭的に余裕は無かったので、次回の楽しみに取っておいた。


「そろそろ時間かな? 物選ぶのに一時間は欲しいだろ?」

「うん、余裕見てそうだね」

「気になった店あったか?」

「えーっとね、ここかな?」


 私が目の前の看板を指差した。看板には「Che bello」と書いてあった。


「……チェベロ? 英語じゃないな……イタリア語?」

「……みたいだね。『ケ・ベッロ』って読むみたい。日本語で『なんて美しい』って意味か……」


 宗介はスマートフォンで言葉の意味を検索している。

 私達は店の中に入った。

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