第87話 中等部 その1

 ——— まだ春休みだが今日は部活の自主練習の日だ。

 私達四人は勿論参加している。

 新二、三年生の部員は男女合わせて24人。今日、私達の他に来ている人は居ない。今日は私達四人だけでの部活だ。


「皆やる気ねぇな」

「進学校だしこんなもんじゃ無い? 他の部は結構顔出してるみたいだけどね」


 ——— 一通りの練習が終わって休憩だ。

 私達四人はこの時間を利用して例の東屋を見に行った。テニスコートからは意外と近い位置にある。


「翠ちゃんが描いた絵だとこの辺……うわぁ……凄いね。こっから先ちょっと無理じゃ無い?」


 目の前には雑草とかでは無く、人の背丈程の高さの『藪』が生い茂っていた。その向こうに東屋の屋根が見えた。


「一応、東屋はあったな。この藪も最高の目隠しだ」

「そうだね。入り口は藪を残して、そこを抜ければ通路になる。いいね」

「旧校舎からは流石に見えるか……」


 翔馬は旧校舎を見上げ、何やら考えている。


「うん、校舎沿いに道作って、後は上手く最短、且つある程度死角になるように道を作れば……」


 藪の幹はそれ程太く無い。ただ、草刈り鎌で刈れるような太さでも無い。

 取り敢えず今日はここまでにして四人は練習に戻った。

 翌日、翔馬と廉斗君は部活が終わると校舎裏で藪を刈り払って通路を作っていた。

 因みに刈り払いはナタでやっていた。翔馬が家から持って来ていたのだが、お巡りさんに見つかるとやばい物でもある。


「ま、ちゃんと用途も明確だし、しっかり鞄の奥に入れてれば大丈夫だよ。多分」


 と、廉斗君は軽い感じで話す。

 なんだかんだで作業は一日で終わった。

 そして私達は東屋に立っている。


「うわー、流石に椅子とか汚いか……」

「まぁ、拭くのは当然として……これ、木じゃ無いんだ」


 椅子はベンチ型で木のように見えたが樹脂製だ。劣化はしていない。

 

「全然立派じゃん! これならちょっと綺麗にするだけで大丈夫だね」


 ついに私達の場所が出来た。



 ※  ※  ※



 ——— 四月。私達は中等部三年になった。

 掲示板の前に私と藍が並んで立つ。


「やっぱ同じクラスにはなんないか……」

「まぁ……同じ顔が二つあったらそれだけで混乱するしね……」


 多分、私達は高等部でも同じクラスになる事はないと思っている。『双子は同じクラスにしない』って聞いたことがある。それと同じ扱いになると勝手に思い込んでいた。なので、藍と別々のクラスになる事にショックはなかったのだが……、


「奈々菜とクラス別かぁー」


 私の後ろから男の子の声が聞こえた。

 電車では一緒に来たけど、駅からちょっと離れて私の背中を見守ってくれる大好きな人の声。

 そう! 成宮翔馬の声だ♡

 私は彼の声に呼応する。


「翔馬♡」


 思わず『♡』を付けてしまった。まぁ、この程度で私達の関係がバレる事は無い。

 そして翔馬は私の名前を公然と『奈々菜』って呼べるようになった。

 バレンタインで『名前で呼ぶなら「ち」は付けんな』って私が言ったからだ。

 ただそれはクラス内だけの話で他のクラスにはまだ伝播していない。翔馬が私の名前を呼ぶと驚いた顔で翔馬を見る人が沢山いた。


「おはよ 俺らクラス別になっちゃったよ」

「そうなんだよ……」


 私は翔馬の一言に素で声のトーンが下がった。


「何? がっかり?」

「んな訳無い……でしょ! アンタの……顔見ないで済むかと思うと……清々……するわ!」


 がっかりどころじゃ無い。正直泣きそうだ。胸が詰まって声が出ない。

 この程度の事で涙が出そうになるなんて、私こんなに弱かったっけ?


「泣きたいならいつでも胸貸すよ?」

「誰がアンタの胸で泣くか!」


 ダメだ。いつもならもう一言付け加える所だけど、言葉が出てこない。ハッキリいって胸を借りて泣きたい。


「折見て会いに行くから待っててな」

「わか……来んな! ボケ!」


 危なく『分かった』なんて答えるところだった。ふぅ。

 翔馬はそのまま教室に向かった。

 私に背を向け手を振る姿は、なんかカッコいいって素直に思った。

 因みに藍と廉斗君もクラスは別だ。

 私がA、翔馬がB、藍がCで、廉斗君がDだ。

 藍と廉斗君は私達とは対照的で、二人黙って肩を並べて掲示板を眺め、そして一瞬顔を合わせて何と無く『残念』という表情を互いに見せそれで終わりだ。

 廉斗君は翔馬と一緒に教室へ向かう。

 藍と廉斗君は、ホントに学園では私達のようなあからさまな接触はしない。

 この二人が学園内で人前で話しをする事はあるが、その時は決まってテニスに関する事だけだ。


「奈々菜おはよ。クラスどうだった?」


 隣から女の子の声で私を呼ぶ声がした。

 私を呼び捨てで呼ぶ女の子は藍以外では ——— 、


「あ、おはよ。久しぶり。Aだけど別になっちゃった」


 私は掲示板の目を向けたまま答える。

 話しかけて来た子は隣を見なくても分かる。

 『佐野峰六花』だ。

 私は彼女に目を向ける事なく彼女と会話する。


「そっか。あ、私一緒だ」

「え? あ! 私と変わってくんない?」

「変わんのはいいけど学校が許さんでしょ?」

「だよねー」


 六花のクラスはB。翔馬と一緒だ。

 私と六花の会話はいつも主語が抜けているが、言わずとも『翔馬』の事を話しているのは分かりきった事だ。

 翔馬の相談事はいつも六花にしている。藍にはしない。

 何故なら藍は私と同じで恋愛下手だ。

 今好きな子がそれぞれに初恋だ。

 なので藍に相談しても解決に関しては糸口すら見えて来ないのだ。


「何かあったら報告するよ。ま、無いと思うけどね」

「ありがと。宜しくね」


 ——— 学年も上がってクラスも変わった。

 お兄ちゃんと翠ちゃん、そして今までチョイチョイ登場してた、あの面々が深く関わり始める。

 私に劇的な変化が有ったように、翠ちゃんにも劇的な変化が……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る