第103話 体力測定②

 ——— 体力測定で宗介とペアを組んだが、宗介は私を芹葉ちゃん達のところへ連れて行った。なのに誰も私を見ない。

 この状況に至る経緯を宗介は順を追って説明する。


「え? なんで?」

「今日に至るまで連休前の二週間、伏線張った甲斐が有ったな」

「あぁ、ちょっと連休で間が開くからどうだろうって思ったが、上手く行ったようだ」

「何? 芹葉ちゃんもだけど皆変だよ。ちゃんと説明して」

「ごめんごめん、んとな、俺らDクラスが入ってきた時、俺と流星目立ってたろ?」

「うん。無駄に騒がしかったね」

「あれ見てどう思った?」

「うーん……周りは全然気にしてなかったから、あれが二人の普段の姿なんだなって……」

「翠がそう思ったんなら、Cクラスの女子もそういう目で見た、若しくはそう見えたって事だな」

「女子? 男子は違うの?」

「あぁ、実はこの体力測定に向けて、連休前から俺と流星はあんな感じで毎日教室で戯れ合ってたんだよ」

「そうなの? なんか意外……」

「ま、全ては今日の日の為なんだけどな」

「そうなの?」


 ——— 今日の為? 私は前髪で隠れている目を丸くした。


「で、話の続きなんだけど……俺は流星以外に友達と呼べる程仲のいい奴は一人も居ない。それはDクラスの奴は全員知ってる」

「宗介……それ、自分で言ってて悲しくならない?」

「ちょっとなった……」

「ふふ、後で慰めてあげるよ」

「ありがと」


 ちょっと落ち込み言葉を失う宗介。代わりに流星君が説明する。


「でだ、斯くいう俺も友達は居ない」

「流星君もそれ、悲しくならない?」

「あん? ならんよ。芹葉いれば十分だろ。イテッ」


 その一言に芹葉ちゃんは顔を赤らめ流星君を肘で突っついた。


「でだ、こういう事でペア組むのは俺の身長に合う奴、宗介しかいねぇんだ。だから俺は宗介としかペア組んだ事ねぇし、宗介も俺以外の奴とペア組んだ事はねぇ」

「そうなんだ」

「そして俺と芹葉が付き合ってるのは学園で知らない者は居ないわな」

「うん」


 今度は芹葉ちゃんが話す。


「去年も体力測定男女混合だったでしょ? だから私と流星君が一緒に居れば、組むのは全然自然だよね」


 芹葉ちゃんは流星君の顔を見て微笑む。

 そして落ち込みから復活した宗介がまた話し始める。


「流星と深川さんが組めば、俺があぶれるのは絶対だ。そして、いつも最後までペアが組めない翠は絶対あぶれる。という事で、俺は翠と自然にペアが組める訳だ」

「なんか凄い」


 私は感激した。しかし今の話は計画の序章でしかなかった。

 宗介は人差し指を立て、「チッチッチッ」と指を振る。


「此処までは翠と俺がペアを組む迄の流れ。此処から先は、この四人がこうして居られる事の話だ」


 確かに今の説明だけでは私が芹葉ちゃん達と一緒に居ても誰も気にしない理由にならない。


「俺が流星とこうして話すのは俺のクラス、Dクラスの連中から見れば普通の事だし、体育が一緒のCクラスの男子から見ても自然だ。OK?」

「OK」


 続けて芹葉ちゃんが説明する。


「Cクラスの女子は流星君と宗介君の関係は知らないから、さっきの態とらしい説明を大声でしたって訳。そうすれば、宗介君が翠ちゃんとペア組んだ後、流星君と合流してもそれは自然な事に見えるし、流星君のペアの私達も一緒に居るのは自然な事になるわけ」

「おー! なんか凄いね」


 と思ったら、まだ最終目的では無かった。


「で、此処からホントの目的だけど……」


 ——— ホントの目的? こうして四人でいる事が目的じゃ無いの?


 私はこの後の話を聞いて涙が出そうになった。


「多分これをきっかけに、私が翠ちゃんに話しかけるのは自然な事になる筈だから、教室戻ったら話しかけるね」


 その言葉に私は全てを察した。

 確かに体力測定を一緒に回った後、教室に戻ったら「さっきはどうも」の一言でも声を掛ける事は自然になる。芹葉ちゃんの場合。寧ろ声を掛けないと、らしく無くて不自然になる。

 凄い!『声を掛けなきゃ不自然な状況』を作り上げた。


「ありがと。私の為にここまでしてくれてホントありがと」

「翠ちゃんの為じゃなくて皆の為だよ。気にしないで」

「最終目標は、四人が普通に皆の前で会話する事な」

「分かった。じゃあもうお礼は言わないね」

「それでいい。それじゃあ体力測定始めようか」



 ※  ※  ※


 

 俺達四人は測定を始めるため移動を始めた。

 翠は俺達三人から少し離れて後ろを歩く。ま、最初はこんなもんだろう。

 時折俺達四人を目で追う者も居たが、嫉妬や妬みなどの視線ではなく、ただ見ているだけの感情の無い視線だ。

 最初に垂直飛びに来た。


「初っ端から垂直飛びかよ」

「宗介、全力出すの?」 

「なぁ、この記録って公開されたっけ?」

「いや、紙渡されて終わりだったな」

「あー……だったな。なら全力で行っちゃお」


 俺は周りを見て、誰も見ていない事を確認してジャンプした。


 ——— バン!


 俺が飛ぶと三人は目を丸くした。俺の指先に付けた白い粉の跡は90cmを超えていた。

 身長180cmの人間が腕を上に伸ばせば220cmは余裕で超える。バスケットゴールの高さは305cmだ。

 助走すればもっと高く跳べる。ダンクシュートができるわけだ。


「おいおいおいおい」

「出たなおいおい星人」

「お前バケモンだろ。普通跳べても80だぞ」

「最近体が軽くてな」


 そういう流星は85cmだった。流星も十分化け物だ。

 俺は反復横跳びなど、はたから見て能力が一目で分かる項目は手を抜いた。

 因みに握力は70kg超えていた。翠は30㎏だ。

 しかしなんだ、こうして四人で歩いていると、なんか体育館内をWデートしてるみたいだ。

 気分は遊園地のアトラクションを巡ってる感じか?



 ※  ※  ※



 ——— そして体力測定が終わり、私は着替えて教室で一人席に座っていた。

 すると芹葉ちゃんが教室に戻ってきた。

 そして真っ直ぐ私のところに来た。


「さっきはありがと。また今度何かあったら宜しくね」


 ——— コク。


 私は無言で頷いた。

 一瞬私と芹葉ちゃんに目を向けた者も居たけど、ただ目を向けただけだ。

 周りの者は芹葉ちゃんの性格は分かっている。

 なので私への声掛けは体力測定で一緒に回った者へのお礼と挨拶という事は直ぐに理解できた。

 そして彼女の性格から私の事は放っておかないという事も。

 私達にとっては最初の一歩だ。此処から徐々に芹葉ちゃんは私との距離を縮める。


 ——— 放課後。私はカバンに教科書を入れていると、芹葉が翠の机に歩み寄りつつ、


「じゃね」


 と言って手を振り通り過ぎて行った。私も小さく手を上げた。

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