第102話 体力測定①

 ——— 話は俺と翠の関係が流星にバレてから一週間も経たない日まで遡る。


「なぁ、五月の連休明けに体力測定あるよな?」

「あったな」

「去年、隣のクラスと合同で、しかも男女一緒だったろ?」

「だったな」

「でだ、俺とお前、何かとペア組まされるよな?」

「まぁ、俺のガタイに合うのお前だけだし、席も隣だし、俺の話に合わせられるのもお前だけだし」

「……なんかお前も大概にして友達いねぇな」

「あぁ、俺に友達はいねぇ。親友なら目の前にいるけどな」

「……サンキュ。相変わらず発想が二進数だな……それは置いといてちょっと相談なんだが ———」


 俺は一つの計画を流星に説明した。


「——— なる程……悪く無い。芹葉が喜ぶなら協力は惜しまん」

「お前、関白主義かと思えば、かなり彼女思いだよな?」

「あったりめぇだろ! 経済ってのは女が回してんだ。大事にせにゃあ国が滅ぶ。てか、お前こそ大丈夫か? 目立つぞ?」

「まぁ確かに目立つな。ただ、このなりだ。ジッと見られる訳じゃねぇし、纏わりつく女もいないからな。素顔で目立たなきゃ目立ったところでどうという事はない」

 

 この日から約二週間。俺と流星は体力測定に向け、行動を始めたわけだが、その結果が実を結ぶかは当日まで分からない。



 ※  ※  ※



 ——— 連休明けの最初の体育の授業は『体力測定』だ。

 CクラスとDクラスの合同、且つ男女合同だ。なので、今日は宗介、流星君、芹葉ちゃんと授業で顔を合わせる事になる。

 ちょっと楽しみだ。楽しみなんだけど……私は今、独り体育館の壁際に立ち全体の様子を見ている。

 壁際に立つのはいつものポジションだ。

 体育館にはCクラスが先に来ていて、Dクラスが来るのを待っている状態だ。

 去年から此処に立って体育館全体を見ていたんだけど、私の視線の先を気にする子は誰もいない。

 なので最近は深川さんを眺めている事が多くなった。

 因みに深川さんは私と距離を置いた位置に立っている。そしていつものように、彼女の周りには人が数人集まって楽しそうに談笑している。


 ——— この状況は私が望んだ事だけど、芹葉ちゃんと仲良くなれた分、やっぱ寂しいな……


 彼女は時折私の方を見るが、その視線に気付く者は居ない。居ても私を見ているとは気付かない。

 そんな彼女と偶に目が合うだけで私はかなり嬉しかった。

 少ししてDクラスの生徒が体育館に入って来た。勿論、宗介と流星君の姿があった。

 思えば私は教室での宗介の振る舞いを知らなかった。

 ましてや最近、柳生流星という友達(?)が出来た。

 二人は教室ではどんな感じで居るんだろうか? 

 席も隣同士だ。

 しかも流星君、言っちゃなんだが人格に少々癖がある。宗介以外との友達付き合いとか全然話が聞こえて来ない。

 実は学園の有名人で在りながら結構謎の人物だったりしていた。

 しかし、二人はよく見なくても目立つ。デカい。Cクラスの女の子達が流星君を見てキャーキャー騒ぎ始めた。

 

 ——— しかし……なんだ? ん? 何? 宗介と流星君、じゃれ合ってるけど……なんか態とらしい……あれ、目立とうとしてる……よね? ……なんで?


 立ち振る舞いが態とらしく、はしゃいで注目を浴びるような振る舞いをしている。

 宗介目立ってるけど大丈夫なの?

 私は自分のクラスのCクラスの子達に目を向ける。

 すると、男子はその光景を見ても全然気にしていないようだ。ただ、無関心って訳でもないようだ。

 そして宗介達のクラス、Dクラスに目を戻す。

 Dクラスの子は男女とも全員気にしていないようだ……って事はこれがいつもの様子って事? なんか宗介らしくないっていうか、宗介だけじゃ無く、流星君らしくもない感じだ。


 ——— なんだろうこの違和感……。


 再び私のクラス、Cクラスに目を向けると、女子は最初は流星君が来た事でキャーキャー騒いでたが、宗介との戯れ合いを見てか、何やらヒソヒソ話している。残念ながら、話の内容はここからじゃ聞き取れない。

 多分、イケメンな柳生君と陰キャな宗介のアンバランスさに色々憶測している感じだが……昂まる部類の話で無いのは言うまでもない。

 そして、宗介のクラス、Dクラスの女子だが、気にする様子も無く、やはり素知らぬ顔だ。

 すると少し大きめの声で話しをする女子がいた。

 私は声のする方を向くと、なんと! それは芹葉ちゃんだった。

 どうやら周りにいた子の質問に答えている感じだが、なんでそんなに大きな声で答える必要がある? ってくらい大きい声で話している。


「うん、流星君とあの人、別の中学だけど知り合だったみたい。この学園で偶々再会して意気投合しちゃったって。なんか最近私の事そっちのけで楽しんでてちょっと妬けるんだよねー」


 ——— 芹葉ちゃんどうした? 何、その態とらしい説明。中学時代知り合いって、たった一日、しかも数時間しか顔合わせてないじゃん。

 しかも最後の『妬けるんだよねー』って、言い方が棒読み。

 なんか企んでる? 私の知らない三人だ。ちょっと気持ち悪いよ、何これ?


 私は三人の企みに混ぜて貰えていない事に寂しさを覚えるが、芹葉ちゃんを見たら私に向かって微笑んでいる。


 ——— 何? 何? 何? 何? 何企んでるの? ちょっと怖いよ皆……。


 ——— ピッ♪


「集合! あー……整列はいいぞ」


 先生がホイッスルを短く鳴らして集合の号令を掛ける。

 生徒は整列無しで集まる。

 宗介と流星君は一番後ろに。

 流星君の隣には芹葉ちゃん。そして江藤来羅も一緒にいた。

 私は集団から二、三歩距離を置いて端の方で一人佇んでいる。

 先生が体力測定の手順などの説明を始めた。


「それじゃあ、二人一組になって互いに記録な。男女混同で問題ないぞ。あと身体測定は今日は身長だけな。他は後日だ」


 流星君と芹葉ちゃんは既に一緒に行動している。

 周りもどんどんペアが出来ていく中、私は独り寂しく立っていた。


 ——— いつもの事だけど宗介には見せたく無い姿だな……正直辛い。


 いつもと少し違う環境と感情に私は俯き『フッ』っと苦笑する。

 足元を見て『これが私の学園での日常』と、自分を納得させていた。

 すると、スッと視界に男の足が入って来た。顔を上げると宗介だった。

 宗介は『初めてお話しします』のていで私に話し掛けてきた。


「いい?」


 ——— え?


 私は驚き思わず周りをキョロキョロ見渡した。

 周りは誰も自分を見ていない。

 宗介は言葉を続ける。


「良かったら俺と組んでくれない?」


 その言葉に翠は思わず笑顔になったが、直ぐに感情の昂りを抑えた。しかし嬉しさが勝ちすぎて口元がニヤケそうになる。

 私は黙って頷いた。と言うより、もう、宗介と私以外、誰も余っていなかった。

 宗介は「向こうに行こう」と誘導する。私は黙って宗介に付いて行くしか無い。すると宗介は私に顔を向け、私だけに聞こえるトーンで囁いた。


「少しの間、我慢して」

「え?」


 宗介はそう言うと躊躇う事なく、流星君の元へ私を連れて行った。


 ——— え? え? え? え? そんな……この人達と一緒にいたら私注目浴びちゃう……宗介ダメだって!


 私は不安になり周りを見た。当然、何人か生徒が私の方を見ている。


 ——— ほらー……皆見てる……やばい……体が……


 体が震えかけた瞬間、宗介が顔を寄せ気味にして声をかけて来た。


「もう大丈夫。周り見てみ?」


 私は恐る恐る周り目をやると、誰も自分を見ていない事に気付いた。


「え? なんで?」


 私は初めて声を出した。

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