第101話 3×3 その2

 ——— 五月の連休の一日。朝七時。この日は部活が無いので例のコートで皆で3×3をする事にしていた。

 この日の為に、前日から翔馬君と廉斗君は俺の家に泊まりに来ていた。親達は宴会と称して布団持参で桜木家へ上がり込んでいる。


「なんか毎回申し訳ないです」

「俺が誘ってんだし、奈々菜も藍ちゃんも喜んでるから気にすんな。それに親は親で宴会の口実になるから問題ない」


 奈々菜も翔馬君の腕に抱きつき、「気にしない気にしない」と、屈託の無い笑顔を彼氏に向ける。


「そう言ってくれるなら……まぁ……うん」


 クラスが離れて学校での接点が昼と部活だけになり少し物足りなさを感じている事の反動なのか、以前にも増して、奈々菜はやたらと翔馬君にベタベタするようになっていた。

 翔馬君からも相談を受けていたが、学校内で少しでも人気ひとけが無いと分かるとすぐベタベタしてくるらしい。

 まぁ、兄としてちょっとどうかと思うところはあるが、相手が翔馬君だ。信用ありきで、奈々菜の気持ちに応えて欲しいと思うところはある。

 いつもの道を暫く歩くとコートが見えて来た。

 コートでは二人の人影がシュート練習をしていた。

 今日はゲストを呼んでいたが皆には話していない。

 翔馬君が焦るように俺に話す。


「宗介さん……誰か居ま……え? あれって柳生先輩と深川先輩じゃないですか?」

「ああ、今日のスペシャルゲストだ」


 柳生と深川さんはこっちに気付いた。

 少し遠いが手を振っている。手を振る深川さんに翠が応えて駆けて行く。

 すると深川さんもフェンスから出て駆け寄って来た。

 翠がコートに着くと深川さんは翠に抱きつく。

 遠いが微かに「かわいい♪」と言う声が聞こえて来た。翠が深川さんの前で素顔を見せるのは稀だ。なので深川さんは感激しているようだ。

 そして俺達も遅れてコートに着く。


「よう、待たせたな。随分早いけど何で来たんだ?」

「ん? リムジンだ。ついさっき着いたばっかだ」


 柳生はそう答えながら立ち上がる。皆柳生を見上げる。


「リムジンって……まっ……そういう事にしといてやるよ」


 しかし、こいつも『リムジンで来た』とかセンスは兎も角冗談言う奴なんだな。

 柳生の前に皆揃うと柳生は翔馬君と廉斗君を交互に見る。

 柳生からすれば二人は初めましてだ。


「で、そっちの二人が例の彼氏か」

「あぁ、紹介するよ奈々菜の彼氏の『成宮翔馬』君と、藍ちゃんの彼氏の『滝沢廉斗』君だ」


 紹介された二人は柳生を見上げながら挨拶する。


「え? あ、宜しくお願いします」

「宜しくお願いします。って、宗介さん彼氏じゃないですよ」


 その言葉に柳生が突っ込む。


「いやー、その状態見せられてそう言われても全然説得力ねーぞ」


 奈々菜は翔馬の腕にしがみついている。藍は廉斗と恋人繋ぎで手を繋ぐ。俺も否定は一切しない。


「まぁ、本人らがそう言うんだからそうなんだろ。俺らはお前ら付き合ってるって思ってるけどな」

「宗介さんまで……」

「観念しとけ♡」


 奈々菜がしたり顔で言う。

 深川さんも二人の様子に微笑ましい感じで声を掛ける。


「奈々菜ちゃんホントに彼の事大好きなんだぁ。あ、申し遅れました。初めまして深川芹葉です。『芹葉ちゃん』って呼んでくれると嬉しいけど……怒ってる子がいるから『芹葉さん』でお願いね」


 奈々菜は深川さんに向かって可愛らしく頬を膨らませていた。

 翔馬君が馴れ馴れしく他の女の子の名前を呼んでいいのは奈々菜の中では藍ちゃんだけらしい。


「おお、忘れてた、柳生流星だ。宜しく。俺の事は『流星君』とでも呼んでくれ。『兄貴』でもいいんだが……ちょっと違う意味に捉えられかねないから、ま、名前で呼びやすいように頼む」

「お? んじゃ俺はお前を流星って呼ぶか」

「それじゃあ俺は宗介だな」


 翔馬は目を丸くしていた。


「まさか学園の有名人とここまで関わるようになるとは……しかも何ですかこの場の顔面偏差値の高さ」


 翔馬君と廉斗君はたじろぐが、その様子に奈々菜がフォローを入れる。


「大丈夫。ヒーロー偏差値は翔馬と廉斗君が一番だから♡ 」

「そゆこと♡」


 藍ちゃんは廉斗君に抱き付きながらアピールする。翠は「はいはい」と呆れた笑顔で相槌を打つ。

 廉斗君は頭を掻いて照れている。

 その様子に流星が、


「外見なんざ価値観で評価が変わるもんだ。それより早速始めようや。今日は部活がねぇから思いっきりやるぞ」


 と言う事で3×3を開始した。



 ※  ※  ※



 日もだいぶ高くなり ———。


「翠ちゃんのドライブの時の動き凄いよ。それにシュートも精度凄い」

「えへへ、スリーは腕力なくてちょっと無理なんだけどね。芹葉ちゃんはスリー凄い。殆ど外さないじゃん」

「ふふふ、私の事は『スナイパー芹葉』って呼んでね」


 ゲームも始めてかなりの時間が立った。気がつけば時間も差し迫っていた。そして、


 ——— ガジャン! ダンダダタタ……


 俺もテンションが上がってダンクを決めた。


「お前、ダンク出来たのか!」


 流星が驚く。

 対面式の時、流星はダンクをした後、これ見よがしに俺に向かってドヤ顔を決めていた。

 今度は俺がドヤ顔を決める番だ。


「なんだよ。対面式でダンク決めて『悔しかったらこっち来いよ』って煽ったんだけどよ。あん時無反応だったのはこういう事だったのかよ」

「あれのちょっと前にな、皆が『出来る』って言うからやってみたら出来た」

「真壁君凄い。バスケ部入って欲しいよ。ね、流星君」

「だよな」

「しかもボール持った時の動きも何やってるか全然見えないし」


 深川さんは俺を絶賛する。

 すると翔馬君が流星を持ち上げる事を言う。


「宗介さんの動きも凄いけど、流星さんのパスも何スかあれ。俺、バスケって体育でしかやった事ないスけど、流星さんのパス貰うと、自分、上手いんじゃ無いかって錯覚しましたよ」


 廉斗君も同意する。


「分かる。なんて言うか、パス貰った後の動きが分かるって言うか次の動きの指示が飛んでくるって言うか……」


 そして藍ちゃんも、


「私も分かったよ。廉斗君がよく言う『背中に電気が走った感じ』ってのが。パス貰ってその後のプレーがイメージ通りになるとメチャメチャ気持ちいい♪」

「お兄ちゃん勝てなかった訳だ」

「分かったか? 俺らが翻弄されたってのが」


 ただ、深川さんは浮かない顔をしていた。


「でもね、流星君の今のポジション、イントードじゃ無いんだ」

「ハァ? こいつレギュラーだろ? 今、何処やってんだ?」


 流星も浮かない顔で一言「パワーフォワード」とだけ答える。

 流星がPGじゃ無いって、どんだけ上手い奴がPGやってんだって話だ。

 しかもPFって、確かに流星は中に切れ込むテクニックはあるが……。


「かぁー、宝の持ち腐れだな。どうせ、上背だけで決めたんだろ? 勿体無い極みだな」

「ま、今は先輩がPGやってるから顔立てて黙ってるけど……」

「ちょっと周りのやっかみもね……」


 流星と深川さんは困り顔で見つめ合う。後にこの「やっかみ」が俺にも影響してくるのは知る由もない。

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