第100話 翔馬と奈々菜 その2

 ——— 日曜日。

 私は翔馬と二人でアーケード街を歩いていた。


「久々に二人きりで出かけるね♪」

「まぁ、学園の奴らにバレると大変だしな。簡単には出掛けらんねーわな」

「警戒するの、クラスの子だけじゃ無いってのがキツイ」


 今日は久しぶりの二人きりだ。

 ワクワクでルンルンでウキウキだ。

 そんな私の今日のコーデは、いつもと違って目立たないコーデだ。多分、藍が見たら『誰?』って確実に言う。

 ボトムスは普段、余り履かないパンツルックだ。サイズ感がピッタリ気味のカーゴパンツで、トップスはダボっとしたパーカー。髪もアップにして全体的にボーイッシュに決めている。

 頭には翠ちゃん御用達のツバの大きいキャスケットを被っている。

 シルエットから「女の子」とすぐ分かるけど、顔は覗き込まないと「真壁奈々菜」とは分からない。そんな装いだ。

 ついでに翔馬だけど、ダボっとしたカーゴパンツにサイズがピッタリ気味のスウェットパーカーで纏めている。キャップも被って、パッと見シミラールックな感じの中学生らしいカップルに見える。


「すんごく嬉しい♡」

「どうした急に」

「だって久々だよ? こうして歩くの。翔馬は嬉しく無いの?」

「そりゃ嬉しいだろ。一応、お前の事は好き……なんだから……な」


 翔馬は鼻先をポリポリ掻きながら話す。

 分かりきっている事だが、照れながら言われればなんとなく本心が見えた感じで、私はそれが嬉しくて思わず翔馬の左腕にしがみ付いた。


 私達は兎に角『街』そのものを楽しんだ。

 雑貨屋に立ち寄っては可愛らしい小物を買ったり、窓越し販売なお店で食べ物を買って食べたり、アミューズメントパークではUFOキャッチャーでぬいぐるみを取ったり、プリクラを撮ったり、極々普通の中学生がするデートを楽しんだ。

 因みにプリクラは変なポーズで撮影したり、普通に撮ったりして、変にイチャつくような写真は撮らなかった。それが逆に初々しく、写真を見るたびに頬が緩む。照れ照れな感じだ。



 ※  ※  ※



 ——— かなりの時間を楽しんだ。気付けばもう夕方だ。

 俺と奈々菜は恋人繋ぎで駅に向かう。

 夕方と言ってもまだ陽は高く、気になる店があれば足を止めて、中を覗いたりしながら歩いた。

 すると見慣れた三人の男が目の前からやって来た。

 俺はすかさず奈々菜の帽子のツバを掴み、グッと下に下げて深く被らせた。


「何? どうしたの急に」


 奈々菜は当然驚く。俺は奈々菜に顔を寄せ小声で話した。


「帽子上げんな。去年同じクラスの男三人、目の前から来てる」

「マジ?」


 奈々菜は顔が見えない程度に帽子のツバから覗き込む。


「あー、あの子らか……一人、今、同じクラスの子だね……どっか店、入れない?」

「無理、向こう気付いた」


 三人のうちの一人が俺に向かって手を挙げた。

 俺は帽子を被っていたが、気付かれてしまった。

 俺は奈々菜の手を離す。すると奈々菜は男達から見えないように後ろに回り込んだ。そして俺の服の背中を鷲掴みにしている。その所作から緊張が伝わる。

 

「よぉ! なんか久々に見るな。お前何やってんだ? って、その子……」


 男達は失礼がない程度に隠れる奈々菜を覗き込みどんな子なのか見ようとする。

 俺は彼女を隠すような仕草はせず、自然体で立つ。

 奈々菜は更に隠れるように俺の陰に入り込む。


「悪りぃ、あんま見ないでくれるか? ちょっと人見知り激しくて……見てのとおり怖がってるから」

「あぁ、悪りぃ悪りぃ、ってか……誰?」

「あーっと……親戚の子。連休で久々に遊びに来たから街、案内してたんだ」


 俺は隠すだけなのも逆に怪しまれると思い、奈々菜に男子三人に挨拶をするよう促した。


「おい、お前も隠れてないで挨拶くらいしろよ」


 すると奈々菜は俺の背中から顔を覗かせ、「ペコ」と会釈してまた背中に隠れた。


「おいおい、ちゃんと挨拶くらい……」

「あぁ、いいよ。親戚とはいえ楽しいデート中なんだろうから」


 人間隠そうとすると見ようとする。逆に見せようとすると遠慮する。不思議なもんだ。

 俺は一つの山を越えたと少し安堵した。

 三人のうちの一人が、この場を立ち去ろうと声を掛けるが、


「じゃあな、この事は真壁さんに報告しとくから。流石にあれだけラブコールしてんのに、親戚とはいえ手ぇ繋いで街歩ってたら、真壁さん怒り狂うぞぉ」

「あ、写真撮っとけ」


 手を繋いでいるところはしっかり見られていた。

 そして一人がスマートフォンを構える。


「あん? 別にいいけど……こいつとはそう言うんじゃねーし」

「なんか余裕だな。ま、休み明け、いつぞや冬休み明けのようにボコボコにされるがいいさ」


 ——— カシャ! カシャ! ……


 男は何枚か写真を撮った。奈々菜はさり気無くピースしていたが男達はその事に気付いて無かった。

 男達が去り、


「アイツら酷いなー。私はボコボコになんてしないよぉ」

「俺の事ボコボコにすれば、また皆の前で堂々と『アーン』出来るぞ?」

「そだね♡ それじゃあ遠慮なく♪」


 ——— ポカポカポカポカ……。


「いてててやめて」


 奈々菜は俺をグーで軽く殴り続けた。

 勿論、痛くも痒くも無い。ただのイチャイチャでしか無い。幸せである。爆ぜてもいい。


「しかしあの人達、私達の写真撮って何が嬉しいんだろ?」

「だよな? ただのラブラブカップルの写真だぞ」

「そ、ラブラブのね♡」

「——— ん?」



 ※  ※  ※



 連休開けの朝、私は教室に入り席に座ると、日曜日に顔を合わせた男子が一人やって来た。

 そしてスマートフォンの画像を私に見せた。


「真壁さんこれ見て。翔馬の奴、真壁さんにしょっちゅうラブコールしてる癖に他の女とデートしてたよ」


 私は見せてもらった写真を見て、「それ私♡ もうちょっと顔あげても良かったな」と反省しつつも、私はここぞとばかり翔馬の傍に居たくてに怒り狂ったていで翔馬のクラスに殴り込んだ。

 以前同じクラスだった者は慣れたものだが、新しい顔ぶれには私の様相は衝撃的な姿だったようで、皆驚いていた。


「翔馬ー! 私の事散々『マイハニー』なんて言ってる癖に堂々と他の女と浮気かー!」


 私はそう叫びながら皆の前で翔馬に対しスリーパーホールドを決める。

 もちろん手加減している。翔馬も苦しそうにタップするが完全に演技だ。


「それってヤキモチ? 何? やっぱ俺の事好きなんだ?」

「んなわけあるかぁー! お前の小根の悪さに腹が立ってんだー!」

「うわー、ギブギブ!」


 私はスリーパーホールドを決め体を揺さぶる。勿論力は入れていない。ただ翔馬に後ろから抱きついているだけだ。

 以前の同じクラスの者は『またか』と言った表情だが、初めて見る者は私の様相に凄く驚いていた。


「あの……真壁さんのあれって……」

「あぁ、あの二人、犬猿……いや、真壁さんが一方的に悪態付く仲で去年もずっとあんな感じだったんだよ」

「えー! 真壁さんってあんなキャラなの?」

「いや、彼に対してだけだね」

「ちょっと意外だけど……なんだかんだで普通の子なんだ……」


 そんな声が聞こえて来たが……多分、普通の女の子はスリーパーホールドはしない。

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