第99話 ケ・ベッロ その1②
「いらっしゃいませ」
店に入ると店内には人が六人いた。うち三人が客のようだ。
店内は結構広く、メンズが2、レディース3と若干レディース物が多い比率で商品が陳列されていた。
今日の目的はあくまで帽子の購入だ。色々服を見てみたいところだが、閉店時間も差し迫っている。俺達は店に入ると真っ先に、帽子が陳列されている棚を探した。
「あった、あそこ」
翠が指差した帽子コーナーは店のほぼ中央付近にあった。
棚に陳列された商品は表と裏に分けてメンズとレディース両方置いてある。
「結構種類あるな。やっぱこうして見るとキャスケットが一番良さそうだな」
「うん。私、この『こんもり』したシルエット結構好きなんだ」
「うーん……こっちの女優帽なんてどうだ? ツバデカいぞ」
「あはは、それじゃ人目引くって」
「しかしこうして見ると、キャスケットもツバのバリエーションが沢山あるな」
「幾つか試着してみるしかないね。そこで一つ問題があったのだよ宗介君」
「何だい翠さん」
「ウィッグ、店のど真ん中で外す勇気は私には無い!」
「うん。翠の立場で俺にも無い。ちょっと待ってろ。試着室借りてくる」
俺は店員に事情を話し、試着室を使う了承を得てきた。
「なんて言ってきたの?」
「普通に『帽子試着すんのに店の真ん中でウィッグ外せないから試着室貸してくれ』って」
「ひねり無しだね」
「ひねりを入れる場所教えてくれ」
「………無いね」
「じゃ、試着室行こう」
翠はツバの大き目のキャスケット帽を三つ手に取り、試着室へ入った。
※ ※ ※
試着室は店の奥に小部屋のような空間があり、そこに四室程着替える部屋がある。
人目につかない空間だ。
私は試着室でウィッグを外し、中に被っているネットも外す。
一応、普段掛けてるダサ眼鏡を予備で持ち歩いている普通の眼鏡に変え、
ついでに雀斑と眉毛以外はノーメイクなので問題ない。
宗介は試着室の前で待っている。
私は程なくしてカーテンを開け、宗介の前に現れた。
一つ目に被った帽子は紺色だ。
「どう? 似合う?」
宗介は暫くじっと見て答える。
「似合うけど……ちょっと暗くなるな。髪と顔が際立って、逆にちょっと存在感出るかも。素の翠って全体的に明るいブラウンなイメージだからな」
「なるほど」
私はカーテンを閉め、そして二つ目の帽子を被り、再び宗介の前に現れる。
帽子を被るだけだから、カーテン閉める必要無いんだけど……宗介に対する演出? そういう事にしといて。
「これどう?」
二つ目の帽子は白いキャスケットだ。
「うーん……制服白いから合うっちゃ合う。うん、なんか良いかも」
うーん……確かに合うと思うけど……。
「これ、制服だから合うんであって普段の服に合わせるの結構難し……くもないかな? うん、意外といいかもね」
「じゃあキープだな」
「だな」
再びカーテンを閉め三度開ける。
三つ目の帽子だが、色合いが私の髪の色を少し濃くした色だ。
「鏡で見て思ったけど、これ一番しっくりくるね」
「だな、翠の髪の色そのまんまって感じだな」
「面白みは無いけど一番無難だね。つばも下向きに大きいから顔も結構隠れるし……これにしよ♪」
「なぁ、折角だし白も買えば? 俺からのプレゼント。ダメか?」
「えー、それは悪いよ」
と言いながらも、逆の立場で考えると、プレゼントしたくなる気持ちも分からなくもない。
私と宗介やり取りを見た女性の店員が、宗介の後ろから声をかけて来た。
「如何ですか? サイズとか大丈夫でしょうか? お気に……」
店員は私の顔を見るなり惚けた表情で固まってしまった。
その様子に宗介が声を掛ける。
「あのぉ……」
反応が無いので店員の顔の前で手を振る。
「…………っあ! 失礼致しました。お客様の容姿に少し……いえ、大分見惚れてしまったようで……」
店員は宗介に顔を向けると、今度は宗介を見て固まった。
宗介の容姿はいつもどおり「陰キャスタイル」だ。
顔は見えないはずなのに店員は宗介顔を見て見惚れている。
宗介が再び顔の前で手を振ると「はっ」と我に返り、再び謝罪する。
「失礼致しました。あの……お客様、失礼ながら差し支えなければ前髪上げてい頂けないでしょうか?」
店員の唐突なお願いに、宗介は当然拒否すると思いきや、意外にも店員の要求に応え素直に前髪を上げて見せた。
「—————— !」
店員は再び絶句した。
「あのー……」
また宗介が声を掛け、店員は我に帰る。
「たいっっっっへん失礼致しました。つかぬ事をお伺い致しますが、お二人はモデルとかなさってますか?」
「いえ、普通に高校生です」
「そうなんですか……勿体無い……」
残念そうな顔をする店員。
私は名札に目を向けると『店長』の文字が見えた。
「帽子一つのために試着室お借りして申し訳御座いません」
「いえいえ、今、店も
私は一度カーテンを閉め、そしてウィッグを付けて更衣室から出た。
「これ、お願いします」
私は店員に購入する帽子を渡した。
店員は帽子を受け取りつつも、『何故そんな
そして私と宗介を交互に見る。まぁ、オシャレを売る人だ。オシャレを崩す私達が理解出来ないと言ったところなんだろう。
店長の案内でレジへ行き、会計をして店を出た。
店を出る間際、店長に話しかけらた。
ただ、その話し方は接客モードをオフにした気軽な雰囲気だった。
「ね、良かったらうちでバイトしないかしら? 貴方達ならすぐ採用なんだけど……」
正直、私も宗介も、容姿には自信がある。有りまくる。だからこそのこの様相だ。
「まぁ……考えときます」
宗介はそう答えたが、『素顔』が条件なのは言うまでもない。
——— 買いに来る事はあっても、ここでのバイトは無いな……
私達は足取り軽く家路についた。
帰り道、私は店で疑問に思った事があった。
「ね、さっき店長に前髪あげてって言われて、なんで素直に上げたの?」
「あぁ、あれか? 翠が顔を晒しているから何となく付き合いでな」
「何それ? 顔出すのに付き合いも何も無いじゃん」
「うん、今思うとそうだよな」
「でも、店長、宗介のその姿の時点で見惚れてたけど……」
「……謎だな」
——— この店が私達にとって、ターニングポイントになるとはこの時微塵も思わなかった……と、伏線を張っておく。
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