第92話 柳生流星と深川芹葉の接近⑤

 ——— 朝、学校に着くと、私はいつも通り保健室に直行した。

 そして、チャイムが鳴る一分前くらいに教室に入る。

 深川さんは私に気付き、こっちを見たが、席に着くと同時くらいにチャイムが鳴り話しかけられる時間を与えなかった。

 休み時間も私に視線を向ける瞬間はあるが、話しかけて来る事は無い。

 そんな深川さんからは『絡みたいオーラ』がビンビン出ている。

 彼女の性格から私みたいな子は放って置けないんだろう。

 ただ、今回のこのクラスは、去年バラバラだった各クラスのカースト一位が集まっているような感じだ。正直、彼女に声を掛けられたら、私はどんな視線に晒されるのか想像が出来ない。

 

 ——— そして昼休みを迎えた。



 ※  ※  ※



 外は雨が降っている。

 こんな日は、普段、外で食べている奴も校舎内で食べる。屋上への階段で食べる奴もいれば、ベランダで食べる奴もいる。

 ただ、旧校舎の教室は全て鍵が掛かっている。それは全生徒が知っている事だ。なので此処に足を運ぶ奴は居ない。

 俺と翠は、何も警戒する事なく、何時もの教室で弁当を広げた。

 そして翠は、黙って何時もの儀式オカズ交換をする。


「深川さんどうだ?」

「うん、すんごい私に話しかけたくてしょうがない感じ。正直勘弁して欲しいかな?」

「まぁ、噂通りの子なら翠みたいな子、構いたくてしょうがないんだろうな」


 オカズ交換も終わり「いただきまーす」と手を合わせた瞬間、廊下から声が聞こえた。


『やっぱどの教室も鍵掛かってんな』

『だから言ったじゃん。旧校舎は全部鍵が掛かってるって』


 廊下からの声に俺と翠は廊下を見た。

 緊張が走る。


『いや、一つくらい鍵が ——— ガラッ

 ほら、やっぱりあった。ん?」


 俺と翠は、ゆっくり互いに顔を合わせる。

 そして俺だけ入り口に顔を向けた。

 翠は俺の方を向いて固まったままだ。


「あれ? お前らこんな所で飯食ってたのか?」


 入り口には柳生と深川さんが立っていた。

 柳生はこっちの都合を考えず、そのまま教室に入ってきた。


「取り敢えず隣いいか?」


 そう聞きながらも、答えなんて求めていない。こっちの了承無しに机を勝手に並べ、柳生は俺の隣、深川さんは翠の隣に座った。

 深川さんの表情も申し訳なさ0%だ。

 まさかここにこいつらが……いや、人が来るとは微塵も思って居なかった。

 そして他の奴ならどうとでも誤魔化せたが、こいつらじゃどうにも誤魔化せん。

 俺は翠を見た。

 翠は完全に『無』になっている。微塵も動こうとしない。


 ——— こうなりゃ流れに従うしか無いか。


 二人は弁当を広げて食べ始めた。


「お前らいつからここで飯食ってたんだ?」

「去年の……夏休み前か?」

「随分前から使ってんのか。で、昨日ちゃんと答えなかったが、お前らって付き合っての?」


 昨日の今日でこの状況だ。『付き合っていない』は不自然だ。それに隠したところで状況は何も変わらない。


「まぁ……だな」


 柳生は翠に向かって、自分の前髪をゆっくり上げ、後ろまで掻き上げた。


「と言う事は……そう言う事か?」


 どうやら『真壁の顔の事知ってるのか?』と、言ってるようだ。

 翠もそのサインに気がついたようだ。


 ——— コク。


 翠は正面を向いたまま無言で頷く。


 今のサインで柳生は深川さんに俺の顔について何も話していない事が分かった。

 柳生が喋り続ける中、深川さんは黙って弁当を食べている。

 深川さんは翠に視線を送っていない。

 気を遣っているようだ。

 翠も柳生のサインに少し警戒を解いたのか弁当を食べ始めた。

 

「俺からもいいか?」


 俺は昨日、翠が言ったことが気になって聞いてみた。


「なんだ?」

「あー、お前じゃなくて深川さんにだ」

「私ですか?」

「クラス替えして間もないのに翠の事知ってたけど……なんで?」

「え? なんでって、彼女、一部の人には有名ですよ? 学年首席と次席さん」


 ——— !


 俺と翠の動きが止まった。


「テストの度に一番上に『真壁宗介』と『桜木翠』って名前、毎回出てれば覚えますよ。ただ顔は知りませんでしたが、真壁さんは先日の紹介で知りました。『この人かぁ』って、実はかなりビックリしてました。桜木さんも教室内での自己紹介で初めて顔知りました」

「はぁ〜……なんか一気に気が抜けた。自分でやらかしてたんだ」


 深川さんの一言に翠の警戒が一気に解けた。


「なんだ? 桜木、今までのは演技か?」

「半分ね。人と関わりたく無い……って言うより関われないから関わらないようにしてたんだけどな」

「真壁が言う『無視しろ』ってどういう事だ?」

「えーっと、『社交不安症』って知ってる?」

「なんだそりゃ?」

「確か他人との接触に障害がある精神疾患って感じ?」

「そ。私はそのうちの『視線恐怖症』ってやつ。注目浴びると体が硬直して呼吸困難になるの」

「そっか……だから無視なんだ」

「そういう事」

「そう言えばクラスでの自己紹介はどうしたの?」

「今年、自席でやったでしょ? 私の目、深川さんから見える?」

「よく見えないね……そっか、目瞑ってたんだ!」

「正解。去年は自己紹介前に私の様子に気付いた子に教室連れ出されて助かったんだけどね」


 翠はパクパク食べながら話す。実際には結構モゴモゴ言いながら話している。


「この人数なら問題ないけど、クラス全員だとアウトね。だから深川さん、ここでお話は全然いいんだけど、教室では私の事ガッツリ無視して。宜しく。そして、ごめん」

「分かった。でも、ちょっと寂しいね。」

「深川さん自身にも問題あるからね」


 ——— 翠の意味深な言葉を残して次回へ続く。

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